DLC4 俺強すぎるんだが


 とりあえず、ジョブについての心配はなくなった。

 これから、俺はどうとでも生きていける。

 当面の金も、帽子を売ったおかげで困っていない。

 いつまでも宿にいても暇だから、ちょっと街を散策してみるか……。


「なーんか、あらためて見ると、異世界って感じだなぁ……」


 今の俺の人格は、完全に前世のものが蘇っていた。

 体感としては、さっきコンビニで殺されて、今ここにいるような感じだ。

 ドルクとしての16年間は、どこか夢のようでもある。


「お、いい匂いがするなぁ……!」


 市場をふらふらと歩いてみる。

 金はあるので、気になったものはどんどん食べてみる。

 マルークス王国と比べると、レンディオン王国にはまた違った食べ物がある。

 異世界に来たってだけでも驚きなのに、さらに別の国となったら、もう未知だらけだ。

 食べ物以外にも、気になった物は買ってみた。

 本や小物やアクセサリー。

 とりあえず、持ち物は全部アイテムボックスに入れてみる。


「アイテムボックス! おお! ホントに出た! これは便利だ」


 転生者の加護セットにあったアイテムボックス。

 どうやらこのスキルは、転生者として便利なシステムが使えるようだった。


「まるでラノベやアニメの世界だなぁ…………」


 そういえば、こっちに来てからそういうものに触れていないなぁ。

 まあ、当然か……異世界なんだから。

 俺はまさに、その世界に生きているんだ!


「ようし、楽しむぞぉ!」


 そんなことを思っていたら……。

 路地の方から、なにやら女性の声が聞こえてきた。


「放してださい! いや! やめて……!」


 これはもめごとの予感――!

 しかし、道行く人はみな、知らんぷりをしている。

 まあ、以前までの俺なら同じようにしていたかもしれない。

 誰しも、面倒事にはかかわりたくないものだ。

 それに、助けにいったとて、できることなどありはしない。

 相手が複数なら、こちらが殺されるかもしれないのだ。

 そう、前世での俺みたいに――。


「だけど、今の俺なら――!」


 これは、力を試してみるチャンスでもある……!

 それに、この人生では、人助けをしたりして、まっとうに生きると決めたんだ……!

 ここで見逃す俺は、俺じゃない!


「大丈夫ですか……!?」


 俺は急いで路地へむかい、女性の前に庇うようにして出る。


「なんだァ……? コイツ……。おいガキ! なんのつもりだ……!」


 ガラの悪そうな男4人。

 スキンヘッド、トゲトゲ頭、そんな感じ。

 それぞれにナイフを持っていたり、魔法を準備していたり……。

 俺を見るなり、臨戦態勢に入っていた。


「俺は…………通りすがりの正義の味方さ……!」

「うるせぇ……! そこを退きやがれ! 殺すぞ……!」

「いやだね……!」


 後ろを見ると、襲われていた女性が、俺を心配そうな目で見つめていた。

 よく見ると、身体が震えている。


「あ、あなたは……」

「大丈夫! 俺は強いから……!」


 すると、悪漢の一人がナイフを持って襲い掛かってきた。


「ふざけんじゃねえ! 雑魚が粋がんじゃねえよ!」


 しかし、男のナイフは俺には


「あ…………?」


「まあ、耐性:11000ならこんなものか…………」


 俺のステータスは耐性:11000。

 それはつまり、武器を装備した状態の筋力が11000を上回らなければ、俺に物理攻撃は効かないということになる。


「もう、いいかな…………?」

「は…………?」


 俺は思い切り、その男の股間を蹴り上げる。

 男はナイフが効かなかったことによって、ぼーっと油断していた。

 それに、俺の敏捷:11000をもってすれば、相手は攻撃を避けることなど不可能だ。


「ぎえええええええええええええええええええ!!!!」


 男は悲鳴を上げてその場に倒れた。

 また別の仲間が、俺に向かってくる。


「てめぇ…………!」


 男は俺に体術で挑んできた。

 なかなかの身のこなしで、格闘術経験者だということがわかる。

 しかし……俺も剣神に育てられたため、身のこなしでは負けていない。

 それに、敏捷:11000も相まって、完ぺきに敵の攻撃を避ける。


「くそ……! ちょこまかと……!」


 もう一人の男、魔法をとなえていたようだが、それがようやく終わったようで。

 俺の方に、魔法を向けてくる。

 氷の塊が、俺に向かって飛んでくる――!

 しかし、氷は俺の身体に当たるやいなや、消滅してしまった。


「なに…………!?」


「なるほど…………これが魔法全属性無効の効果か」


 そういえば、転生者の加護の中に、そういう効果も含まれていたなぁ。

 まさか本当に、魔法が効かない身体になってしまうなんて…………。


「魔法全属性無効だと!? ふざけたこと言ってんじゃねえ……!」


 魔法が効かないとわかるや、魔法担当だったヤツも、俺に向かって体術で攻撃してきた。

 しかし、俺はあっというまに三人まとめて、ボコボコにしてしまう。


「えい……!」

 ――ドカ!

「ぐわぁ……!」

 ――バキ!

「ぎやぁ!」

 ――ドン!

「ぐはぁ!」


 なんということはない、ただの街のチンピラだ。

 俺にとっては、簡単な相手だったな……。

 これなら、転生者の加護を得る前の俺でも、倒せたかもしれない。

 後ろを振り向くと、さっきの女性があっけにとられていた。


「す、すごい…………一人で四人を、あっという間に…………!」

「はは……まあね」


「お強いんですね……!」

「いやいや……たまたまだよ」


「ありがとうございました……! あの、私……ルミナっていいます」

「ルミナね、俺はドルク。よろしく……!」


 俺たちは互いに自己紹介をし、握手を交わした。

 ルミナは、とってもかわいい女の子だった。

 緑色の髪に、青色の目。

 異世界バンザイと叫びたくなるほどの、美少女。

 もうアニメとかのヒロインよりもかわいいんじゃないかな……?

 そんな子を悪漢から守れて、本当によかった。


「どうして、こいつらに襲われていたの……?」

「それが……私はただ歩いていただけなんです。でもぶつかってこられて、そのまま路地へ……」

「ああなるほど……それは悪質だね」


 異世界にもそんなヤツがいるんだな……。

 むしろ異世界だからか……。


「じゃあこいつらは、俺があとで衛兵にでも引き渡しておくよ……」


 幸い、筋力:11000なおかげで、男四人を持ち上げても、まったく苦労ない。

 すると、ルミナは俺をじっと見つめて……こう言った。


「あの……私、この街に来たばかりで……それで襲われて……とっても、不安でした。だから、あらためてありがとうございます、ドルクさん」


「そうなんだ。俺と一緒だね。っていうか……敬語はいらないよ。それに、ドルクでいい。歳も同じくらいでしょ……?」


「そ、そうです――じゃなくて、そうだね……! うん、ドルク!」


 俺たちは明日、また会う約束をした。

 いいというにの、どうしてもお礼をしたいそうだ。

 二人で食事でも、ということだった。

 これは…………ちょっと期待してしまう。

 さっそくこんな可愛いことお近づきになれたなんて……。

 新しい人生、うまくいきそうだ……!


 まあ俺は顔もそこそこ悪くはない……はずだし。

 剣神の息子として育ったから、女の子にも慣れている。

 まあ、まだちゃんとした恋愛とかはしたことないけど。

 それに、前世では童貞のまま死んだから……あらためて記憶を取り戻してしまうと、やはりいまだに緊張する。

 今世でも、まだ16歳ということで童貞だ。

 いや、なにもルミナ相手にそこまで期待するわけではない……ないが……。


「俺のスキル、これだもんなぁ…………」


 そう、転生者の加護の中には、この項目が含まれていた。


・ハーレム体質

・精力無限


「これはつまり…………そういうことだろうなぁ…………」


 たぶんあれだ、主人公補正で、モテまくるやつだ。

 俺知ってんだ、異世界もののアニメとか好きだったし……。

 まあ、それはそれで楽しむとするか。

 浮ついた気持ちで、宿へと戻る。


「ドルクさん、お食事の準備ができましたけど……!」

「はい……! 今行きます!」


 おかみさんが、俺の部屋まで呼びに来る。

 食事は、宿の一回のレストランでとることになっていた。

 階段を下りて、下の階へ。

 どうやら既に、別の客が複数席についているようだ。


「あのドルクさん、お一人様のお客様は少ないので、相席でもいいですか……?」

「あ、はい。大丈夫です」


 おかみさんに言われ、俺は見知らぬ人と相席をすることになった。

 まあそこまで高い金を払っているわけではないので、文句も言うまい。


 しかし、先に席に座っていたのは――見知らぬ人などではなかった。



「「あ…………」」



 そこには、先ほど俺が助けたルミナが座っていた。

 こんな偶然って、あるのだろうか…………。

 まさか同じ宿に泊まっていたなんて。

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