【図なし版】元寇リビルド ~鎌倉武士という世にも奇妙な歴史絵巻、たま~に実話~
かくぶつ
第一部 蒙古襲来絵詞
第1話 死屍累々の戦場
今日がワタシの死ぬ日だ。
目の前の山城から長ヒゲの大男と大勢の手下たちが突撃してきた。彼らはまっすぐワタシの方に来る。
この〈帝国〉の武将に、彼が持つ禍々しい鎚矛によって、撲殺されるんだ。
牛飼いのシノはそう悟った。
彼女の人生の中で今日という日はこれまで見たことがない事の連続だった。
一体だれが予想できるというのか、澄み切った青空の下で繰り広げられる死屍累々の殺し合い。
雲一つない空からは矢の雨が降り、地面からは炎の柱が吹き上がる。
色とりどりの色彩で飾られた山城。その光り輝く山頂で不敵な笑みを浮かべる〈帝国〉の大将軍。
裸体の男が渾身の一撃で奏でる銅鑼の音。その演奏で動く軍勢。
すべてが今まで見たことのない光景だった。
七色の山城から出てきた眼光の鋭い巨漢の大将軍、その鎧から緑錦を覗かせ、美しい長ヒゲをなびかせながら、騎馬突撃してくる。
この将軍に立ちはだかる武士たちはことごとくなぎ倒されていった。
そんな中、一人の武者が一騎だけで挑む。
「五郎さん!!」大声で叫ぶが彼は一人で果敢に突撃する。
彼女は何でこんなことになったのか分からなかった。誰か教えてほしい。
この戦いの全容を知っている者はごくわずかだ。
例えば、傍らに武者姿の巫女を従えて人々にこの『戦争』を語り諭す、鼓吹の僧侶。
例えば、はるか遠い大陸の酒場で人々から話を収集する、希望の小説家。
例えば、激動の世界で祖国のために奔走した、破滅の作曲家。
分からないことを事実のように教える、矛盾の教師。
彼らは誰も本当のことは知らない。
だが、もしかしたら遥か未来の想像を絶する天才たちなら答えられるかもしれない。
牛飼のシノは何もわからずとも一つだけわかったことがある。
ワタシを含めてたぶん何が起こっているのか全てを知っている人はここにはいない。けれど一人一人の「物語」を見ていけばもしかしたらわかるかもしれない。ああ、ワタシはその「物語」の脇役ですらないんだ。
でもできればその「物語」の中心人物が、ワタシが憧れた「あの人」だったらいいなと思う。
他の人たちと変わらない普通の御家人「五郎さん」だったらいいな。
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