第12話  六年生の図工の時間。

「アタシにも何か手伝わせてよ!、見てるだけ何て嫌だ!」

 流石に見てるだけでは詰らないらしく、お姉ちゃんが割って入って来る。


「じゃあドライヤーを取ってこい!」

「ドライヤーって?、髪の毛を乾かすあのドライヤー?」

「そうだ、手伝うんだろ?、ならツベコベ言わないで持ってくる!」

「了解!」コメカミに手を当て駆けて行くノリの良いお姉ちゃんだ。


「此で何をすれば良いの?」

「此を温めて呉れるか?触れない位熱く!」

 右足用の靴を渡される、靴底を温める?、加工するのは左足なのに?。


「責任重大だぞ、シッカリ頼むからな。」

 意味が解らない僕達二人にお父さんが話し出す、そう諭す様にゆっくりと。


「片方だけ加工すると、其方にだけ負担も掛かる、右足も少し加工してバランスを取る、底の部分は糊って言っても判らんか?、専用の接着剤で張り付けて有るんだ。」

「でも何で温めるの?、責任重大って言ってたでしょ?」

「熱くすると糊が剥がし易く為るんだ、そして加工した後で又張り付ける、だから綺麗に剥がす為に手を抜けないぞ!」

「だから責任重大なのね!、任された!」

 右足側を一センチカット剥がした底を張り付ける、タイヤの修理用の接着剤らしい。


 問題の左足側の加工は、マスキングした線に合わせて両側をL字の鉄板ごと万力に挟んだ。

「未だお前には危ないから、良く見ておけ、何れお前がやるんだからな!」

「如何言う事?」

「此の一足で終りか?、此れからも必要じゃあ無いのか?」

「そうか!、大きくなって行くんだ!」

「お前が始めたことだ、此れからも見て上げないのか?、今回で終りなら止めた方が良い、下手に希望を持たせても可哀想なだけだろう、其れで俺は此の作業を続けても良いのか?」

「お父さん僕覚えるから、又教えて呉れる?」

「此をまずは成功させないとな、良く見ておけ!」

 手に皮手と言う手袋をして大きなナイフ、電工ナイフと言うらしい、万力に固定された鉄板に沿って切って行く、曲がらず真っ直ぐに、もう一つ線の位置が違う物を同じ様に。


 此で一足は駄目に為るが、あの子が皆と同じ様に遊べる日が来るなら安いもんだと思う、大事な左足を亡くすよりずっと良い…。


 嵩上げする左足の方、切った部分を例の糊で張り合わせ、外と内側に丁度の長さの板を付けて又万力でシッカリ押さえ暫く放置する。


 其の間に靴の中敷きを造る、使えなく為る方で型合わせをすれば時間も無駄に為らない、又インチキ外車の中から何か出て来る、ウレタンフォームと言うらしい、バイクのシートの中身らしい…?、何でバイクも無いのに家に有るんだろう?。


「此を爪先の方に詰めてサイズを小さくすれば、小さい左足に合うだろう…。」

「お父さん、何でこんなに道具やバイクの部品が有るの?」

 我慢出来ずに聞いてしまった…。


「気に為るのか?」

「家はバイク屋さんでも、車屋さんでも無いよね?、バイクも無いし…。」

「そうか、そう言えば知らないんだよなお前達は…。」

「お父さんは昔バイクに乗ってたの?、あたしも気に為る!」

「そうだな、バイクに乗ってたと言うより、乗るのが仕事だったんだよ。」

「バイクに乗るお仕事?」

「そうだよ、お父さんの先輩も、後輩達も未だ沢山走ってると思う…。」

 そう言ったお父さんは少し寂しそうだった。


 話をしながらもお父さんは手を休めない、少しづつ形が出来上がって行く。

「其の仕事は今も仲間達が続けている、其の証拠はお前達も毎日目にしてる。」

「僕が?、お姉ちゃんも?」

「嗚呼、そうだ毎日、毎日目にしてる。」

「あたし分かった!、新聞配達のお仕事だ!」

 お姉ちゃんの答えに、お父さんは苦笑いしていた。


「まあ、其れもバイクに乗る仕事だよな確かに、無く為ると困る仕事には違いない。」

「違うの?」

「其れは、其の仕事の最後に為るかのな、其の人達も毎朝未だ皆が寝てる間にしてる大切な仕事だよ、晴れの日、雨の日、雪の日だって休まず働いて呉れてる大切な仕事だ。」

「違うんだ、其の仕事じゃ無いんだ…、だったら何だろう?」

「さてこっちも出来た、ちゃんと見てたか、次はお前が造るんだからな。」

「刃物使うからお父さんが作って呉れたんだよね。」

「嗚呼そうだ、次も手伝ってやるから、今度は自分でやるんだぞ!」

「次は自分でやって見るけど、上手く出来るかな?」

「ゆっくり上手く為れば良い、無理して上手に作らなくて良いゾ、其れで怪我をしたら其れこそ作って貰った人が悲しむからな、其れは絶対守るんだぞ、俺との約束だ!」

「分かった!」

「あたしも手伝うよ!」

「さて少し休憩するか?、糊が乾いたとは思うが後一時間は定着させて置きたいからな。」

「あたし飲み物作って来る、待ってってね。」

「母さん達には未だ内緒だぞ!」

「解ってるよ!、びっくりさせる楽しみ減っちゃうもん!」

 家の駆け込んで行った、直ぐにトレーに乗せて戻って来た。


 玄関前の階段に三人で腰を掛けた、良かった今日は天気が良くて…。

「お父さん、さっきの話の続き教えて呉れる?」

 そうお姉ちゃんが切り出す、僕も気に為って居たお父さんの仕事の事。


「そうか気に為るか?」

「だって、新聞配達の仕事じゃ無いんでしょ、其れは其の最期って言ってたよね?」

「ちゃんと聞いてたんだな。」

「道具の事も、部品の事も判らない侭だもん、僕も知りたいよ?」

「そうだよな、考えて見れば最初も最後もバイクなんだよな…。」

 淋しそうな顔してた、お父さんの淋しそうな顔は始めて見た気がする、何時もニコニコしてるから、怒られる時は怖いけど‥‥。


「少し話しても良いかな、お母さんは其の仕事の事を知ってるんだ、でも何もお前達に話して無いから、言わなくても良いと思ってるのか、もう少し先でと思ってるのかもな…。」

 少しお父さんは空を見てた、何処か遠い処を見る様に…。


「お前達、新聞て如何やって出来るか知ってるか、後、テレビのニュースも?」

 そしてお父さんの話は始まった、時間は靴に塗った糊が乾く迄の一時間程の間…。

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