王子に求婚されて断ったら国を追放されたのですが、竜の洞窟で道具屋を開いたので平気です。
@hajimari
第1話 国を追われた娘
「こんな人がいない森しか住む場所が無いなんて、これからどうしようかな」
昼でも暗い誰も入らないような森の奥、トランクひとつ持ったタニアは一人呟いた。
でも、考えようによっては、自由に生きれていいかも......
タニアは首から下げたペンダントを握り、持ち前の前向きさでこの状況を受け入れようとした......というより受け入れざるを得なかったのだが......
さあ、まずは住む所を捜さないと、取りあえずは、水を確保したいから川ね。
タニアは自分を鼓舞して歩き始めた。 しばらく歩くと猪を見かけた。
やった、動物達がいる獣道なら川にも通じてるはず、でも、わたしが使える魔法じゃ襲われたら危ないわ。 遠くから見よう。
猪をそっと遠くから観察して、足跡を踏まないように慎重に付いていった。 こういう知識は猟師である父と山や森で学んでいた。 しばらく付いていくと、川のせせらぎが聞こえてきた。
やった! 川だわ! これで取りあえず飲み水は確保っと。
川沿いにおりて、次は雨風を凌げる家ね、でも作るのは無理か...... となると洞窟かな。
確か固い岩が地下水や川の流れで作られることもあるって父さんがいってたから川沿いに探せばあるかも
父の言ってたことを懐かしく思いだしながら、川沿いを歩いていくと大きな洞窟を見つけた。
あった! けど、あまり大きいと風も入ってくるし、猛獣や魔物がいるかも......
タニアは少し中に入るのをためらうが、ここで待ってても仕方ないと決意して中に入ってみた。
洞窟の中は暗く少しひんやりしてるが、大きなスペースがあり、更に奥に続いていた。 住むには問題なさそう、そうタニアは思った。
取りあえず外に出て、木と小枝と枯れた葉っぱを探すと、火の魔法で焚き火をし、太い木に火をつけたいまつにした。
何かが潜んでいて、寝てたら襲われるかもしれないから、奥も見て見ないと......
タニアはたいまつを手に慎重に洞窟の奥へと進んだ。 洞窟は一本道で、迷うことなく進めた。 しばらく進むと奥が少し明るくなっていてた。
あれ、外に繋がってる出口なのかな。
タニアは、ここはわたし以外誰もいない私だけの洞窟だ! そう考えるとなんだか楽しい気分になり足早に進んだ、そして少し、ひらけたところに出た。
......!?
タニアは驚きのあまり言葉を失った。
開けた所は外ではなく洞窟内で、上がぽっかり大きな穴が空いて、空が見えていた。 ただ、それで驚いていたわけではなく、驚いたのは目の前に白い大きな
ド、ドラゴン、初めて見た......いや二度目......
竜が目を閉じていた為、ゆっくりと後ずさりすると、後ろからふいに口を塞がれた。
「動くな」
威圧する小さな声が聞こえた。
タニアがゆっくり上の方を目で追うと、目付きの悪い一見して普通の人じゃないとわかる面構えの男が、タニアを捕まえていた。
「あれに気づかれたら命はねえ、こっちにこい」
そう言って、タニアを来た方の道へとひきずっていった。
「ちっ、お宝があるって聞いて来てみりゃ、バケモンが居やがるとはついてねえぜ」
男は後ろをみながら言う。 その時、タニアはペチペチと男の腕を叩いた。
「静かにしてろ、心配しなくても、お嬢ちゃんを売っぱらったりしねーよ」
更に腕を叩くタニア。
「やめろ、竜が起きたらどうする......」
男が振り向くと、竜の顔が吐息がかかるくらい二人の近くにあった。
「ひぃぃぃぃぃ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
二人は同時に叫び声をあげ逃げ出すが、竜は両手で花でも摘むように、二人を摘まんだ。
「ひぃぃぃぃぃ、食わないでくれぇぇ!!」
男が情けない声を出す。
「わたしを誰だと思ってるの! 王子の求婚を拒否したんだから、もうなんだって怖くないんだから!」
そう、それは今より少しだけ遡った話。
わたしはタニア16才。 小さな宿屋の娘で、父は猟師で母は薬師で道具屋を営んでいた。
家族三人仲良く暮らしていたが、流行り病で両親が亡くなり、一人になったが、何とか道具屋を切り盛りしていた。
ある日、わたしの道具屋の前に、大勢の従者を引き連れて馬車がやってきた。
それはこの国、ディスバラル国の王子ルクドラ様の馬車だった。
王子は国民の生活を見るためといいつつ、夜な夜な遊び歩いていると巷では有名な人物だった。
その悪名高い人物がわたしの前に現れ、何をするかと思っていたら、ルクドラ様はその整った顔で、道具屋を見回した。
「ふむ、タニア、君のような若い女性が一人で道具屋をやるのはどうなのかな、こんな町の外れでは人もあまり来ないだろう。 生活ままならないのではないか、ん?」
なにか意味ありげに、王子がわたしに聞いてきた。
「いえ、こんな道具屋でも生きていくには十分です。」
「いや......そうか、でも、やはり危険だ。 どうかな、我が王宮にきてはどうかな?」
「どういうことですか?」
「私はこの間、馬車から君を見かけた。 そんな若さで女性が一人道具屋をやってるというではないか。 私は思った、これを知って救わずしては王家の恥、だから我が妃と迎え救おうと思ったのだよ」
そしてタニアに流し目を送り、自慢げに髪をかきあげようとした。
「え? いやですけど」
王子が髪をかきあげるより速くわたしは即答した。 考えて断ったわけじゃなくて、自然に、そう、ごく自然に断るぐらい嫌だったのだ。
あまりのスピードで断られた王子は、一瞬何が起こったのかわからないようだったが、後の従者がプッと吹き出したことで、みるみる顔が赤くなっていった。
「そ、そうかわかった......まあいい、だが後悔しなければよいがな!」
そう吐き捨てるように言うと、帰るぞと声を荒げ帰っていった。
その数日後、わたしの道具屋は閉店させられた。 薬に違法なものが混ざっているという嫌疑で、わたしは国外に追放となったのだ。 でも、これが王子の求婚を断った報復なのは明白だった。
わたしは国を追われ、そしてこの森にやってきた。 ここは魔物が多く住み支配する意味が無いためから、どこの国にも属さない《死の森》と呼ばれる場所だったからだ。
そして、わたしは今、竜のまえにいる。
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