6日 【掌編/コメディ】おまえが最強じゃねーか

 逃げなくては。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……」


 エイジは息を切らして夜の路地裏を走っていた。暗がりは視界が悪く、何度もつまづきそうになる。しかし転ぶわけにはいかない。いま転んだら、心まで折れてしまう予感があった。エイジの精神は身体と同じく既にボロボロ。ぎりぎりのところでなんとか奮い立たせ、走り続け、曲がり角を左に曲がり――――

 行き止まりにぶち当たった。


「ハァッ……! ハァッ……! ハァッ……!」


 力が抜けて、へたり込みそうになる。

 いや、諦めるものか。

 追っ手が来る前に逃げおおせなくては。

 エイジは瞳に意志を取り戻し、踵を返した。


「見いつけた♪」


 もう、遅かった。


「お……おまえは! 組織の幹部のひとり――――〝黄昏使い〟のジャーク……!」

「ハァーイ♪ ボォクが君の抹殺を仰せつかったジャークさ。『組織』に楯突いた罪をここで償ってもらうよ~。それにしてもキミ、逃げ足だけは早いよねぇ~。ま、鬼ごっこはこれで終わりなわけだけど♪」

「くッ……」

「俺もいるぜ……」


 路地裏の暗闇から新手が現れる。エイジは更なる絶望に声を震わせた。


「お……おまえは! 組織の粛清チームのリーダー――――〝億戦錬磨〟のサイア……!」

「おまえの仲間は既に俺たち『組織』がひとり残らず抹殺した。最早おまえひとりが生き残ったところで勝ち目はない。おとなしくここで死んでいけ……」

「そ……そんな……」


 エイジは膝から崩れ落ちた。そんな彼に圧倒的な絶望が降りかかる。


「ウニョホホホ! ワテクシにもエイジ氏を抹殺させていただきたく~!」

「ッ!? ま……まさか……おまえは! 組織で最も残虐な幹部――――〝死の道化師〟ワルイーゼ!」

「私は……あの人間を……抹殺すれば……よいのですね……」

「おまえは! アジト地下で封印されていた組織の切り札――――〝原初の災禍〟ゴック・アーク!」

「グギャギャギャギャギャッ! ギャガァァァァァア!!」

「もはや組織にも扱いきれない大怪獣――――〝暴殺魔獣〟アクジナス!」

「(低次存在には聞き取れない言語)」

「世界を三度滅ぼした神話の存在――――〝暗黒邪神〟ワルス・ギアク!」

「(声を発するだけでこの場にいるすべての生物は発狂し死に至る)」

「概念レベルの存在の中でも『悪』の概念を司る神――――〝冥闇ノ業魔〟イヴィルージャ!」

「(そこに存在するだけで地球が滅亡)」

「宇宙にあるすべての星を死の荒野に変えた概念的存在――――〝輪廻終焉幻魔〟ジャネン=ア=クィー!」

「(存在するだけで10^10^10^16個もある多元宇宙のすべてが滅亡)」

「無数にある異世界をも容易に滅ぼした超越的存在――――〝死滅概念〟ジャア=クスギワ=ル!」

「(上記の存在すべての上位互換としてすべてを滅亡させる)」

「人智を超えており低次存在の言語では説明できない逸脱せしモノ――――〝理解不可能〟×××××!」


 すべてが滅んだ世界にて、絶望するエイジは、泣き叫んだ。


「こんな奴ら……どうやって倒せばいいんだァァァァァァァアア!?!?!?」

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