弐.呪いのポエム
「つまり、神主の孫であるあなたが大和舞を披露するとなってから怪文書が来るようになったのね」
「そうなんすよ」
私は神主の孫に案内されて、家の客間に連れられた。
次は本物のイケメンからお茶をもらい、ゆっくりと味わいながら飲んでいた。
「えっと、お名前は……」
「あっ、俺は
そう言うと、ヤマト君は輝かしい笑みを浮かべた。
この笑顔だけで、もう神々しいのだ。
若さなのか、イケメンだからなのか分からないが。
「それにしても、残念ですね」
そう言うと、私はチラリと横を見る。
そこには動けなくなった神主がうめき声を上げながら、巫女さんに看病されていた。
先ほど、私はイケメンに見惚れて力を緩めてしまい、神主の引っ張る力に負けてしまった。
神主が力加減を考えていないせいで、私の身体は宙を浮くように神主に引っ張られてしまった。
そのせいで体制を直す事はできず、神主にタックルする形となった。
そうして二人仲良く倒れたのだ。
私は神主がクッションになったので、痛い程度で済んだのだが、神主は打ち所が悪かったようだ。
ぎっくり腰が悪化して動けなくなってしまった。
「まぁ、舞なんてじいちゃん踊れなそうだったし、ここは俺にまかしときゃいいんだよ」
神主に笑顔で手を振っている。
神主は何か言いたそうな顔をしながら、ずっとうめき声をあげていた。
「まぁ、こんなオンボロ神社じゃそんなに人は集まらないだろうし、じいちゃんはゆっくり休んでて」
まぁ、何とも酷い言い方だ。
だが、確かに塗装がところどころ
そして、先ほどから見ていた参拝者の方達も、もう定年を迎えていそうなおじいさん、おばあさんしか来ていなかった。
近場の若者が来るとしたら、お祭りか肝試しくらいだろう。
「じゃあ、お姉さん。とりあえず、こっちに来て」
そう言うと、ヤマト君は立ち上がり手招きをした。
私は頷いて着いて行った。
部屋を出て、長い廊下を歩いていた。
いくらオンボロと言えど、建物は立派なものだ。
この前、ここで走り続けたあの廊下並みに長い気がする。
「よし。じゃあ、いいかな」
そう言うと、ヤマト君は立ち止まってこちらに振り向いた。
「はい、お姉さん」
そう言うと、ヤマト君は手を出してきた。
最近の若い子は何がしたいのかわからないが、私はとりあえずヤマト君の手に、自分の手を乗せた。
「……いやいや、違うから!!反対、反対の手に持ってる市松人形!!」
そう言ってヤマト君は指差した。
私が持っているのは箱なのに、よく中身が分かるものだと感心しながら渡した。
「ふーん。長い事無理してたみたいだね。傷ついてんな」
中身を開けないで、市松人形の状態を当てるヤマト君に私は驚いた。
「えっ、中身わかるの⁇」
「うん。この子、よく頑張ったんだね。そろそろご主人のところに送ってあげないとね」
そう言うと、ヤマト君はまた歩き始めた。
私はヤマト君の横について歩き始めた。
「でも、神主さんがダメだって」
「あーじいちゃん、呪われてそうなの嫌いだからね。この子、成長しちゃってるから不気味に見えたんでしょ」
やはり神主は市松人形が怖いようだ。
母親と言い、どうしてこんなに愛らしい人形を怖がるのか不思議である。
「成長って⁇」
「この子、元々お河童だったでしょ⁇長い年月かけて腰まで伸びてるからねー。くっついてる方の手は少し大きくなってるみたいだし。じいちゃんこの前、見なきゃいいのにホラー番組見てたからねー」
そう言うと、ヤマト君は箱をすっと開けて見せてくれた。
髪の毛がどのくらいだったかは覚えていないが、確かに手は右と左で大きさが異なっている。
元からかもしれないが、見ないで当てたヤマト君が言うのだ。
きっと本当なのだろう。
「そしたら明後日のお祭りの時、昼時にお焚き上げするから。お焚き上げするものの中に入れとくね」
そう言うとヤマト君は、私に待てとジェスチャーをしてどこかに行ってしまった。
この長い廊下に置いていかれるのは、本当に嫌なのだが仕方ない。
少し待っていたら、ヤマト君は戻ってきた。
手には大きな段ボールを抱えていた。
中身はどうやら手紙、つまりは怪文書だろう。
「これ、怪文書。見てみて」
そう言うと、ヤマト君は私に手紙を渡してきた。
私は恐る恐る中身を見た。
『私、いつも見ているの。
ずっとずっと見ているの。
どんなに君が振り向いてくれなくても。
ずっとずっと見ているの。
私は星で、あなたは月。
あなただけが私を輝かせるの。
自由なあなたのために。
私、頑張るの。
私、ずっと頑張るの』
なんて言えばよいのかわからない文章だった。
だが、これが怪文書だろうか。
それこそただのポエムではないか。
「それ、俺が高校の入学式の次の日に、下駄箱に入ってた手紙なんすよ。それから毎日入ってるんっすよ」
毎日ポエムを下駄箱に入れられていたら、気分は最悪だろう。
告白とか、屋上に来てとかならまだいいだろうが、これは返事のしようがない。
「それで、ずっと放置してたんっすけど、じいちゃんが舞を俺とやるって言ってから、放課後はすぐに家に帰って練習してたんすよ。そしたら、これっすね」
そう言って次の手紙をくれた。
ポエムがどのように変化するのかがワクワクしてしまう。
『どうして⁇どうして⁇
私、何かした⁇
どうして⁇
こんなに思っているのに、
どうしていなくなるの⁇
私を見捨てるの⁇
許さない。許さない。
許さない。許さない。
ジジイ、許さない。
君の負担になること、すべて。
すべて許さない。
元に戻さないなら
ジジイ、殺す。
祭り、中止しろ』
「……」
ネジが何本飛んでいったかわからない怪文書だった。
まだまだ溢れかえっている手紙を見る気にはなれないので、私はそっと手紙をヤマト君に返した。
「……とりあえず、犯人は女性だね」
「えっ⁇マジ⁇」
「そして、犯人はヤマト君と同じ学校の生徒だね」
「えぇっ⁉そこまでわかるの!!⁇」
私の推理にヤマト君は驚いていた。
まさか、この少年は気づいていないのだろうか。
鈍感すぎではないだろうか。
どう考えても、入学式の日にヤマト君に一目ぼれした女生徒が、それから毎日ヤマト君が登校する前に学校に来てポエムを置いていったのだ。
そして、放課後はヤマト君の後をつけて見守っていたのだ。
だが、神主が祭りで舞をやると決めたせいで、ヤマト君が放課後に遊び回る事なく帰ってしまった。
多分、神社まで着いて来ていたと思うが、神主が人目に付かないところで練習をさせていたので、姿を見る事ができなかったのだろう。
だから神主を許す事ができず、ヤマト君を縛り付けている祭りを中止させたかったのだろう。
彼は奔放な人だから。って勝手な妄想で決めつけて。
「とりあえず、見た感じ本当に殺そうとか思っていないと思う。本当にジジイが許せないだけだと思うよ」
「そっか……」
悲しそうな顔をするヤマト君が可哀想で、私は思いつく限りの言葉で励ました。
励ましながら、ふと頭の中に過った。
そう言えば、ポエムのような話……私の小説になかったっけと。
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