神社の呪い
壱.合法イケメン
爽やかな風が吹き、木々は優しい音を奏でる。
私、
まぁ、いつも通る道なのだが。
しかし、今日は一味違う。
なぜなら、今日は初めての取材なのだ。
先日のマンションの呪いの件で、モリモリに置いてけぼりにされた私はどのくらいの時間、そこに立っていたかは定かではない。
我に返った私は、自分の置かれている状況を瞬時に理解し、モリモリに鬼電したのだ。
当日は出なかったものの、早朝にかけたら七回目に出た。
どうやらモリモリは朝が弱いらしく、いつもの調子で喋ることができていなかった。
むしろ日本語さえまともに話せない状態で、電話に出たのだ。
そんなことはお構いなしに私は長々と説教をした。
なぜ置いて帰ったのか。
頭の心配をしろとか。
せめて部屋まで送れとか。
思いつく限りの怒りをぶつけた。
そのせいでモリモリは遅刻したらしい。
その日の午後、私は山田に呼び出されて二人で説教された。
山田にも文句を言いたかったが、ここはグッと堪えて、説教を甘んじて受けた。
決して山田が怖かったからではない。
私が大人になってあげようと言う優しい心遣いだ。
説教の後、モリモリが私に声をかけてきた。
お
人見知りの激しい私としてはなんの拷問かと断ったのだが、モリモリが耳打ちしてきたのだ。
最近、噂になっているイケメン神主への取材だと。
……私は即決した。
参りまする!!……と。
最近の呪いの出来事で、私は人見知りかつイケメンが苦手だと思っている人が多いとは思う。
……それはいらぬ心配でござる。イケメンは大好きでござる。
ただ、ヒロインの立ち位置ではなく、野次馬や追っかけくらいの距離がいいのだ。でないと、
モリモリのナイスチョイスのおかげで、私は難なくイケメンに出会える……いや、拝めるのだ!!
ヒロインのようにイケメンとキャッキャうふふは命の危険がある。
だが、第三者視点なら美味しいのだ。
かなり美味しいのだ。
ずばり、合法的に会えるイケメン。略して合法イケメンなのだ!!
山田はぐぬぬっと悔しがっているに違いない。
モリモリはとても良い人だとは思うが、あの性格だ。
今頃、山田を翻弄しているに違いない。
山田、ざまあみろだ。
そんなことを考えていたら、木々の隙間から鳥居が見えてきた。
お目当ての神社に辿り着いたようだ。
私は鳥居をくぐり、ゆっくりと階段を上る。
上った先には可愛らしい巫女さんが掃除をしている。
「……レベルたけぇな」
おっさん化しつつある私の顔を両手で叩いた。
ここで不審者として通報されるわけにはいかない。
まだ、合法イケメンに出会えていないのだ。拝むまでは捕まるわけにはいかない。
私は根性で通常営業の顔に戻した。
巫女さんのレベルが高いなら、神主は最高レベルにいくはずと、期待がどんどんと膨れ上がってきた。
「あの……すみません」
巫女さんに声をかけると、掃除をしていた手を止めてこちらを見た。
「こんにちは。いかがなさいましたか??」
そう言うと巫女さんは、天使のような笑顔を振りまいてきた。
ここは神社なのに、天国かもしれない……
成仏しそうな顔を再度叩き直し、気合を入れた。
「本日、取材に参りました海藤美乃梨と申します。よろしくお願いします」
そう言うと私は名刺を差し出し、深々と頭を下げた。
なぜ人見知りの私がここまで話せるのかというと、秘密の特訓をしたからだ。
取材すると決まってから今日まで、とにかく必死に頑張った。
毎朝モーニングコール代わりに、モリモリへ電話をして必死に練習したのだ。
そのおかげで、カンペなしでも取材内容が出てくるようになったのだ。
そう。これまで頑張った成果を今、ここで試されるのだ。
「あぁっ、海藤様ですね。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
巫女さんはまたも天使の笑顔を私に向けてから、社務所へ歩き始めた。
もしかしたら……イケメンじゃなくて、美少女との恋に落ちてしまうかもしれない。
心臓の爆音が止まらない。
そんな阿呆なことを考えていると、巫女さんがだいぶ先に行ってしまっていた。
私はおいて行かれないよう、駆け足で付いて行った。
巫女さんに案内された和室で私は、座布団に座りながらソワソワとしていた。
パパっと取材をして、できる女アピールをしなければならない。
そして、合法イケメンを見なければならない。
私は待ち時間の間、ブツブツと呪文を唱え始める。
呪文の内容はずばり、今日の取材内容だ。
取材内容は、『早朝の
要は、早朝に神主が拝殿で怪しい呪文と変な物音を立てていて、とても不気味だと一部で噂になっているのだ。
それは何なのかを追求しようということだ。
そんなことよりも、世間のイケメン好きは神主の休日や好きな食べ物とか、そう言うありきたりなものが好ましいと思うが。
取材の内容を考えたやつは、乙女心が分からないおっさんだろう。
私は大きくため息をついた。
「失礼します」
とても耳に残る良い声が聞こえた。
その後、スッと
「お待たせしました」
丁寧かつ美声に、これは期待して良いと私は鼻から勢いよく息を吐いて気合を入れた。
そして、最高の作り笑顔で振り返った。
「初めまして。海藤美乃梨と言います。趣味は読書です!!」
いつもながら、可愛らしい声を出せたと思う。
だが、そこには誰もいないのだ。
私は作り笑顔を崩さないよう固定しつつ、当たるを見渡した。
だが、誰もいない。
なぜ誰もいないのかと頭にはてなを飛ばしていると声がした。
『あっそびっましょ』
少しずつ私の笑顔は引き
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます