人間のメシ(11月29日分)

護衛の仕事中、さんざん「妙なものを食うな」と言われたので、試しに人間のメシを食ってみようとメシ屋に寄った。

だが入った瞬間、店の中がしーんと静かになった。

そのうち何人かが金を払って逃げるように出て行った。

そのせいか、「迷惑だから出てってくれ」と店主に追い出された。


仕方ないのでこの前聞いた黄色い花を食ってみるかと、道端を探していたら、よりによって真正面から人間の男にぶつかった。

すぐに謝ると、「こんなところでどうしたんだ」と訊かれたので訳を話した。

すると、その男がメシ屋の代わりに自分の泊っている宿に来いと言い出した。


実はその男、あの商人と一緒に移動していた学者先生だったらしい。

俺はまるで覚えていなかったが、向こうは話をしてみたかったそうだ。

だいたい人間の顔はどうもみんな同じに見える。

そう言うと、学者先生は笑って「そうだろうな」と言った。

ぼーっとして人にぶつかるような奴だが、どうもいい奴らしい。


飯は塩漬け肉を薄く切ったものと、チーズという黄色いものを炙って溶かしたものを、パンと言うらしいふわふわしたものに挟んだものだ。

塩漬け肉以外はどうやって作るのか分からないが、これが確かに美味い。


あの黄色い花も気になると言ったら、学者先生はすぐにどこかから取って来た。

花を食うのかと思ったら葉っぱを食うそうだ。

苦いが美味かった。塩漬け肉とチーズにもよく合った。

人間のメシも悪くないもんだ。

そう言ったら、学者先生は楽しそうに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る