第12話 カップ麺でスマイル
Side:ショウセイ
荷馬車に乗り寝転がり空を見上げる。
青い空は地球と同じだ。
どことなくこの青い空が地球にもつながっているのではないかと、たわいない事を考えた。
「そろそろ、一休みしましょう!」
ゲーリーさんが御者台から声を張り上げた。
ガクンと馬車が停まる。
他の馬車も停まったようだ。
「街まではあと一日です」
「わりかしと近いんだな」
「ええ、そんなに遠出は出来ません」
キャラバンの人達は馬に水を与えたり世話をしている。
うん、暇だ。
少し小腹も減ったな。
そうだ。
カップ麺をみんなに振る舞ってやろう。
俺は石でかまどを組み、ライターで薪に火を点けた。
ヤカンに水を張り、お湯を沸かす。
しばらくして、お湯が沸騰したので、カップ麺に注いだ。
カップ麺のスープの匂いが辺りに立ち込める。
「むむっ、機能美を感じる」
「ありふれた携帯食だよ」
「いや、これは工夫されている。一つ頂いても?」
「持って行っても良いよ」
ゲーリーさんはお湯が注がれていないカップ麺をつぶさに観察し始めた。
「容器は密封されていて、お湯を注ぐだけで、食べられるようになっている」
そして、容器の蓋を開けるとお湯を注ぎ始めた。
「スープと具や麺が一体になっている。これは究極の形だ。これはどこに行けば手に入るのですか?」
ゲーリーさんに詰め寄られた。
「ちょっと、スープがこぼれる」
「すいません、興奮してしまって」
「俺の故郷では安価で売っていたよ。でも、願っても、ここでは手に入らないけどね」
「そんな貴重な物を分けて頂いたのですね。よく考えたら、チャンスです。カップ麺でしたっけ。これを作って売れば良いんです」
「作れそうなのか」
「ええ、魔法を使えばね」
異世界を舐めてたな。
カップ麺を作るような技術があるとは。
「ぜひ、頑張って下さい」
「ええ、頑張りますとも。ところでヒントを下さい」
「聞いた話では、麺は油で揚げていたとか。具材は凍らせて乾燥させるとか」
「なるほど、参考になります。試作品ができたら持って行きます。召し上がって感想を下さい」
「はい、その時は」
スマイル100円を頂いた。
キャラバンの他の人達もカップ麺を食べて笑顔になっている。
スーパーの安いのだとカップ麺は100円しない。
一人からスマイル100円を貰うと黒字だ。
村に帰ったら、村の人達にも振る舞ってやろう。
Side:キャラバンの一員
馬を休ませる為にキャラバンが停まった。
忙しい。
色々とやらないといけない仕事がある。
ふと得も言われぬ、かぐわしい香りが漂ってきた。
腹がぐーっと鳴る。
「みなさん、召し上がって下さい」
キャラバンに同行している村人が、何やら容器を持ってそう言っている。
さっきのふと得も言われぬ匂いはこの容器からしているようだ。
受け取って観察してみる。
麺をスープに浸してあるのか。
お湯を注ぐだけでスープになる携帯食は売っているのを見た事がある。
しかし、麺や具材もとなると見た事がない。
匂いを嗅ぐ。
食欲を誘う匂いだ。
何の匂いだろう。
肉とも違うし、野菜とも違う。
「この味付けは何なのですか?」
「ああ、海の魚介と海藻とスパイスだと思う」
なるほど魚と海藻か。
腹が鳴る。
もう我慢できない。
フォークで料理を口にかき込んだ。
美味い。
複雑な味で、後を引く味だ。
一つ食べきって、もう一つ欲しくなった。
ゲーリーさんがこの携帯食を作る話をしている。
さすがに商会を仕切っている人は違う。
これを食って作ろうなんて発想はない。
だってどのくらいの食材を使っているのか想像しただけで頭が痛くなる。
海で獲れる魚と海藻だろう。
それにスパイスだ。
組み合わせを試行錯誤するだけで金貨が飛んで行くはずだ。
でも、これが旅の途中に気軽に食べられるようになったら、楽しいに違いない。
旅の楽しみが一つ増えたような気がした。
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