第133話 安心できる、人たち



 ごくり……。


 いつもはガルド様たちと一緒に訪れるギルド。

 今私は、そこの奥にある応接室のような場所にいる。初めて入る奥の部屋。

 アロマなにおいが立ち込めていたり、観葉植物やお花が飾られているおしゃれな雰囲気の部屋。


 値段が高そうなふかふかの黒いソファーにちょこんと座って目の前の人物に話しかける。


「何の話でしょうか──フィアネさん」


 そう、目の前の席には私を呼び出してこの部屋に誘い込んだフィアネさんがいる。


 いつもはおとなしくて、おとなのお姉さんという印象のフィアネさん。

 今は、私と対面して、私をじっと見ている。


 にこっと微笑んだり──かと思うと不思議そうな表情に変わったり。

 なんていうか、ミステリアスな大人のお姉さんという印象だ。


 何なのかな……何を話してくるかわからなくてドキドキする。

 思わずフィアネさんから視線を離して周囲をキョロキョロしてしまう。


 そして、私がごくりと息を飲むとフィアネさんは手を組んで話しかけてくる。


「じゃあお話、始めようか。ウィンちゃん」


「はい」


 何のことだろう。まさか役に立たないから首とかかな……。


「ウィンちゃん、ガルド君のこと好きでしょ?」


「あっ……」


 やっぱりバレていた。まあ自分でも表情に出ていたし、時間の問題だとは思っていた。

 相当鈍感な人物でなければ、わかってしまうだろう。


 そんな人、いるのかな?


「はい、ちなみに、交際もしています」


「そうでしょうね。2人の素振りとか見ていれば。すぐに理解できたわ。一応きいておくけど、ウィンちゃんはそれで大丈夫なの?」


「大丈夫です。ガルド様のことはよくわかています。一緒にいて、とても誠実で素敵な人だと──強く感じました」


 自信をもって、コクリと頷いた。何の問題もない、恥じることなんてない。

 本心なのだから──。


「そうね、そこまで言うなら──私はもう何も言わないわ。


 フィアネさんが、にこっと微笑んだ。

 大人の笑顔って感じで思わず見とれてしまった。



「彼、恋愛に疎いところとかあるでしょう?」


「そ、それは……」


 鋭い質問に、私は体をピクリと跳ね上がらせてしまった。


「やっぱり、ウィンちゃんもそう思ってたんだ──」


「えっその──それは……」



 しどろもどろになり、腕をぶんぶん振ってこたえるが、フィアネさんはくすくすと笑いながら言葉を返してくる。


「もう、態度ですぐにわかるわ。隠し事が苦手なタイプなのね」


「うぅ……」


 私は、何も反論することが出来ず、縮こまったあと口元を隠すようにして紅茶を飲む。

 確かに、私も感じる。


「それは……ちょびっとだけ……感じてはいます。一緒に寝ているのに、全く手を出してこないし──ニナさんにも、思わせぶりな態度ばかり取って……」


「あっ、わかってた?」


「はい。私は、先輩という職務上ニナさんやほかの人にもリーダーとして接しなきゃいけないというのは理解してます。でも、ニナさんは明らかに本気そうで……このままいくとニナさんが傷ついてしまいそうで……」


「勘が鋭いわね。この前、それでちょっともめちゃってね……」


 フィアネさんが少しだけ表情を引きつらせ、顔を傾ける。


「ほ、本当ですか?」


「ええ……ちょっとね。でも、解決したみたいだし心配する必要ないわ。今日もニナ、すっごい意欲持ちながらクエストに行ったわ」


「そ、それは良かったです」


 心の底からほっとして、胸をなでおろす。ニナ先輩も、いつも私のことを気にかけているいい人だから。ただ、私とガルド様の関係を知っているから──ちょっと気まずいところだった。


「まあ、ニナちゃんなら心配しないで。彼女、最初は浮ついたところとかあったけど、今はとてもしっかりして、強い子に成長してる」


「そうですよね」


 それが、ニナ先輩のイメージだ。なんにせよ、ニナ先輩は大丈夫そう。


「ちなみに、ガルド君とはどこまで行ったの? 本当に本番までしてないの? ほら、誰にも言わないから本当のこと行っていいわ」


 フィアネさんはひそひそ声になって行ってくる。確かに、普通の人ならそこまで行ってもおかしくはない。だけど──。


「本当にキスから先は、してないんです。信じてもらえるか、わからないですが」


 フィアネさんは、その言葉を聞いた瞬間フフッと笑った。


「わかるわ。ガルド君のことだから、そんな事だろうと思ってたわ。やっぱり」


「まあ、彼ならあなたが嫌がるようなことはしないと思うは。ウィンちゃんの素振りを見ている限り、問題はなさそうね。何かあったら、私も相談に乗るわ。どんどん頼っちゃって」


「……ありがとうございます」


 ほっと息を吐く。フィアネさんは、満面の笑みを浮かべている。


 理解してくれる人で、本当によかった。

 ガルド様と出会う前は、こんなことなかった。いつも孤独で、悩みこむことがあっても一人でふさぎ込むばかり──。

 頼れる人がいるというのは、本当にうれしい。


 ガルド様と出会ってから、私の身の回りには信じられる人がとっても増えた。

 ガルド様はもちろん、ニナさんにフィアネさん、レーノさん。


 みんな、私が悩んでいるときに心からをそれを打ち明けられる信頼できる人だ。


 私の周りにそんな人がいっぱいいて、心の底から安心できるって感じられる。


 幸せって感じられた。

 このまま、みんなとこんな日常を送っていきたい。



 心から、そう思えるのだった。


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