第126話 最後の、アルバイト


 ガルド様との共同任務から数日がたったある日。


「ふぅ──」


 久しぶりのメイド服。胸元がまる出してやっぱり恥ずかしい。スカートも短くて、ちょっとジャンプだけで下着が見えちゃいそうなほどでちょっと恥ずかしい。けれど、そんなこと言ってられない。


 深呼吸をして、心を落ち着かせてからお客様に頭を下げる。


「今日は、ありがとうございました」


「こっちこそ。久しぶりにウィンちゃんに会えてうれしいよ。また、来るからね」


「いいえ、こっちは今日で最後の予定なので……」


「ああ、冒険者の方に集中するのか」


「そんな感じです」



 そう言って、お客さんは店を去っていった。そう、今日はカフェ「ドリーム☆カフェ」でのアルバイト最終日。


 というか、ここ最近ほとんどカフェに来れていなかった。理由は簡単、最近両親の国への遠征に、魔王軍との戦い。そしてバカンスに潜入捜査。


 バカンス以外は重要なことばかりだし、バカンスも、それ以外の日の大半は消耗しきった体力を回復させるため必要だし、何より仕事で忙しいガルド様との数少ない一緒にいる時間。


 こんな状況でアルバイトを入れたとしても、明らかに中途半端になってしまう。ガルド様やニナさんパーティーたちに申し訳ないし、レーノさん達にも罪悪感を感じてしまう。


 それなら、どっちかにしっかり力を入れた方がいいと私は感じた。

 そう感じて、少し働いてからいったんやめることとなった。

 別に、ここで働くのが嫌だったというわけではない。


 時折エッチな視線が来るのが気になるけど、レーノ先輩とか信用できる人がいてとてもいい場所だった。


 けど、私はガルド様と一緒に魔術師として戦うことを決めた。

 他にもニナ先輩とか、信じられる人がいてとてもいいパーティーだと思っている。


 そして、ガルド様やギルドの人達から私も強い力を貸してこの国のために力になってほしいと要請があったのだ。


 私も、名残惜しい部分もあったが、この店にはレーノさんも、アンナさんもいる。私がいなくても、繁盛しているし大丈夫だろう。

 そう考えて、今日を区切りに正式にギルドでの活動に専念することとなったのだ。


 しばらく店で働いていなかったが、最後にみんなと一緒に働きたいと考え、シフトに入らせてもらったのだ。


 最後の仕事なので、自然と気合が入る。私をご指名してくれたおじさんにお冷を渡した。


「ど、どうぞ」


「久しぶりだね、ウィンちゃん」


「そ、そうですね」


 そう言葉を返すと、おじさんはぐへへと言わんばかりににやけ顔になる。思わず一歩引いてしまうが、我慢して対応を続ける。


「おおっ、やっぱりウィンちゃんのおっぱいでっけー」


「お客様、やめてください!」


 そうした矢先、おじさんはなんと両手をこっちに伸ばして、おっぱいを揉んできたのだ。


 恥ずかしいけれど、大きいおっぱいがむにゃんむにゃんと揺れる。や、やめて──。


「お客様、そう言った行為はおやめください」


 恥ずかしがりながらなんとか手を止めようとするが、おじさんはやめてくれない。


「お客様──」


「この前と比べて、やっぱ成長したよね。片手じゃつかみきれなくなってる」


 確かに下着がきつくなってる感覚はあるけど、じゃなくて──。

 どうすればいいかわからなくなって、店の奥から声が聞こえた。


「ウィン──」


「はい?」


 レーノさんだ。ムッとした表情で、腰に手を当ておじさんを指さした。


「お客様。当店ではそう言ったセクハラ行為は禁止となっております」


 レーノさんは、こういう時本当に頼りになる。心からほっとした。


「いいじゃんいいじゃん、少しくらい揉んだって減るものじゃないし」


 しかし、おじさんはニヤリと笑ったまま全くやめようとしない。相変わらず胸を触ってくる。

 それを見ていたレーノさんが、大きくため息をついて言った。


「こいつに、お仕置きの電撃をぶちかましてあげなさい!」


「え──」


 予想もしなかったレーノさんの言葉に、戸惑ってしまう。キョロキョロと周囲を見ていると、レーノさんはひそひそと耳打ちしてくる。


「こういうやつは、一発痛い目に見せないとわからないのよ」


「そ、そうなんですか……」


 本当は実力行使とかはしたくないのだけれど──。

 私はおどおどと戸惑ってしまう。


 いくら失礼とはいえ、相手は魔法が使えない。そういう人に魔法を使うのはやはり気が引けてしまう。

 出来ればあまりやりたくない。


 そんな風に考えていると、レーノさんがポンと肩に手を置く。


「いいのよ。あいつはそれをお見舞いするくらい失礼なことをしたんだから。たまにはこうして痛い目を見せないと、わからないのよ。それに、放っておくとこの人はこここういう場なんだと勘違いしちゃうのよ。この人のためでもあるの、こういったことをすると、痛い目を見るって経験させてあげないといけないのよ」


「わかりました……」


 恐る恐る、私はおじさんに手を伸ばす。あまり強くし過ぎないように。


 バリバリバリバリ──。


 おじさんに向かって、電撃を加えていく。


 真っ黒こげになって、倒れ込むおじさん。大丈夫かな……やりすぎたかな。

 心配でそっとおじさんに手を伸ばす。


「す、すいませんでした」


「たまには、こういうのも悪くはねぇ……ご褒美ってやつだ」

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