第118話 2人の想い


 はぁ──。

 先輩と、ウィンちゃんと一緒にギルドへ帰った私。

 ギルドで戦果を報告。


「ニナさん、また大活躍ですね。最近、とっても成長著しいですね、


「ニナちゃん。やるじゃない、最近乗ってるじゃん」


「ありがとうございますぅ、エリアさん」


「そうそう。すっごい成長した、偉いね。ニナ!」


「先輩まで、そう言っていただいて~~とっても嬉しいです!」


 みんなから、精一杯褒められた。最初は、私のことを頼りないとか言っていた人たちが──みんな私のことをすごい──とか成長した──みたいに言葉をかけてくる。


 本当なら、とっても嬉しいはずなのに、そんな言葉をかけられる自分を、どこか遠くから見ているような感覚。




 褒めらているのに、心の底から喜べない。虚無ともいえる感情が心の中を包む。


「ありがとうございます。これからも、みんなの期待に応えられるよう頑張ります」


 とはいえ、先輩の前でそんな自分は見せられない。作り笑顔でお辞儀をしてから、報奨金を受け取る。


 大活躍もあってか、いつもの倍近くの金貨の数。

 それから、とぼとぼと市場で買い物をした後に帰宅。


 すぐに、ベッドに身を投げ天に視線を向けながらつぶやく。


「先輩……やっぱり──そうだったんですね」


 わかってる。ウィンちゃんのこと。


 そもそも一緒に住んでいて、あれだけ仲良しなんだ。互いに、好意という感情がない方がおかしい。


 自然と、二人は交際をするということになる。


 口にしてはいないけど、二人が互いに向けている視線、仕草、表情でわかる。


 仕方がない──、わかっているのに……。


 瞳からにじみ出る涙。あふれ出る感情、自分ではどうすることも出来ない。

 私の感情が、それを許さないのだ。


 まるで、黒い炭のような暗くてドロドロしたようなものが、私の心の中の底にたまり込んでいる。

 この部屋で一人になって、たまりにたまったそれを、心の中でゆっくりと消化していく。


 とってもむずむずするけど、消化しなければとても眠れそうになかった。


 先輩がウィンちゃんに向ける表情。笑み、そして──そこからあふれ出ている感情。それは私には、ずっと向けられてないものだ。

 明らかに、恋愛感情が入った表情。


 ああ……、先輩はやっぱり……。


 でも、私はウィンちゃんの過去を知っている。

 だから、ウィンちゃんを不幸にするような真似はしたくない。それは、先輩への感情とは全く別のところにある。


 だから、ウィンちゃんから先輩を奪うつもりなんてなれない。

 でも──。


「私だって、好きなんだもん」


 未熟で、よく足を引っ張っていた私。そんな私を、先輩は呆れたりせず一生懸命接してくれた。

 笑って、私に接してくれる先輩。ピンチになった時、私をかばってくれた先輩。

 失敗して、シュンとなっている私を、にっこりと笑顔を向けて励ましてくれた先輩。どれも、かっこよかった。


 いつの間にか、私の中で先輩は、あこがれから恋へと変わっていった。


 先輩に だから、今まで努力することが出来たし、地道に強くなって、先輩と肩を並べられるような存在になろうとした。


 何で……何で……。


 私に、最初っから救いはなかったってこと??


 そんな思いがぐるぐると頭の中をよぎり、布団をぎゅっと抱きしめる。

 先輩への思いを込めるかのように、とっても強く。


 涙が、ほんのりとこぼれる。受け入れられるものではない。

 どうしよう。






 ウィン視点。


 魔王軍との戦いが終わった後、ニナさんとガルド様と一緒に王都へと帰還。

 ギルドに戦果を報告してから、報酬を受け取る。


「ウィンさん、ガルドさん。ありがとうございます」


 そう褒めてもらったのが、とてもうれしい。

 その後、市場で軽くお買い物をしてから家に帰った。


 ガルド様は、私に気を使って美味しそうなドライフルーツを買ってくれた。

 確か、リンゴだっけ。



 その後、夕飯を頂いてからドライフルーツを食べる。甘酸っぱくて、とってもおいしい。



 そして、シャワーを浴びた後就寝の時間となる。


 私は、いつものようにガルド様に抱き着いて布団をかぶる。


 今日は、バカンスに長い距離の移動に戦い。いろいろあって疲れているのだろうかガルド様はすぐに夢の中に入ってしまった。私も、大きくあくびをして目をとろんとさせる。


 窓の外に向けると、きらきらと星空が浮かんでいた。とってもきれいで、吸い込まれそう──。


 本当に、夢のような時間だった。


 今でも、目を閉じると思い出す。ガルド様との、楽しい時間。一緒に海で遊んで、一緒に食事をとって、一緒にここよりも星空がきれいな場所で、空を眺める。


 そして、互いに想いを伝えあう。

 本当に、かけがえのないものだった。思い出すだけで、胸がキュンとなってしまう。


 最高の時間だった。


 また、あんな時間を過ごしてみたいって心から思う。ガルド様と一緒の時間。

 それと──ニナさん。

 私がガルド様と幸せそうにしているのを複雑そうに見ていた。


 私がガルド様と一緒にいると、それだけで複雑そうな表情になる。

 なんとなくだけどわかる。ニナさんの、ガルド様に対する想い。


 恐らく、私がガルド様に想っている感情と同じなのだろう。


 何とか、ニナさんにも幸せになってほしい。そのために、私にできることは、何かないかなあ……。

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