第115話 別れ、そして試練
本当に充実した時間だった。また、こうしてウィンと一緒に楽しい時間を作っていきたい。
ウィンの笑顔が見たいから──。
朝日の陽光がさし、俺は目を開ける。
眩しい……。
ウィンは、まだぐっすりと眠っている。口をほんのりと開けていて、唇からは少しだけよだれが垂れている。昨日はいろいろと遊んでいたから、疲れもあるのだろうか。
別に早起きしなきゃいけないわけではないし、このままそっとしておこう。
そして、別れの時間となった。帰りの支度をして、宿のキーをマスターに渡す。
「昨日はお愉しみだったかな?」
「まあ、2人で夜空を見て語り合ったり、とっても楽しかったですよ」
「真面目だねぇ。ノリ悪いって言われないか?」
おじさんの悪乗り言葉を軽く受け流して、軽くあいさつ。
「では、ありがとうございました」
「まあ、こんな広くて、夜に多少お愉しみをしても誰にも壁ドンされない場所だ。また、気が向いたらいつでも来てくれ。待ってるよ」
おじさんは、冗談で言っているのだろうか。陽気な口調で言葉を返す。
まあ、からかいの言葉はさておき、海はきれいだし食事も雰囲気も抜群だった。また、機会があればぜひ行ってみたい場所だと思う。
そして、俺とウィンは大きく手を振ってこの場を去った。
最高の、休日だった。
そして俺たちは、来た道を戻っていった。海沿いの道を抜け、晴れ空の中草原の道をひたすら歩く。途中、馬に乗った商人の人とすれ違ったり、挨拶を交わしたり。
海ではしゃいだ疲れもあってか、行きと比べると歩を進めるのが遅い。
とはいえ、急いでいるわけでもない。ウィンのペースに合わせて、ゆっくり目に歩く。
そして、歩き続けて数時間。王都まで残り2時間といったところ。草原が続いている道をしばらく歩いていた時、事件は起こった。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!
いきなり、大きな爆発音が前方からとどろき始める。手をつなぎながら、隣を歩いていたウィンが話しかけてくる。
「何でしょうか? ガルド様」
「爆発音っぽいね。誰か冒険者が放ったのかな?」
おととい、ギルドに顔出しはしたがこの辺りでクエストがあったわけではない。もしかしたら、急に敵が現れたという可能性はある。
今俺はバカンスの帰りでどんな敵が来たかはわからない。だから行く義務があるわけではない。果たして、どうしたものか──。
少し考えて、結論を出した。
行くしかない。仲間たちが、戦っている。
ひょっとしたら強敵かもしれない。それとも、この前みたいに巧妙な穴が仕掛けられている可能性だってある。
ごくりと息を飲んで、ウィンに話しかけた。
「行かせてほしい」
「わかりました」
ウィンがコクリと頷く。そうだ、義務があるとか、ないとかの問題じゃない。
戦っている仲間たちがいる。俺が戦場へ向かう理由なんてそれで十分だ。
魔王軍の兵士たちと、戦いがあるというのだ。
「ウィン、ちょっと加勢したいけど、疲れとか大丈夫?」
一応聞いてみた。俺はまだ大丈夫だが、昨日は夢中になって二人ではしゃいで遊んでいた。
その疲れが残っているなら、ウィンを無理に加勢させる必要はない。もともと俺が行くって決めたからだ。
しかし、ウィンは真剣な表情で俺をじっと見つめる。
「大丈夫です。ガルド様が戦うというなら──私も戦います。お願いします、行かせてください!」
ウィンが、真剣な表情で迫ってくる。
ウィンも、力になりたい。一緒に戦いたいと強く願っているのが理解できる。
下手に断るのも、ウィンの覚悟を踏みにじっているようでよくない。ここは、ウィンの意思を尊重しよう。
「わかった。一緒に戦おう。よろしくね」
「──ありがとうございます」
それでも、ウィンは遊んだりここまでの移動で疲れている。それは頭に入れておこう。
そして、俺たちは戦場の方へと歩を進めていく。
しばらく、草原が連なる道を歩いていると、時折爆発音であったり悲鳴や叫び声のような音が聞こえ始める。
──やはり、戦いが起きているんだ。自然と早足になり、しばらく歩いていると、
魔王軍だ。
何十人かの冒険者と、魔王軍の兵士たちが戦闘を行っている。
状況は、ややこっちが優勢といったところか。
ギルドで、何度か顔を合わせたことがある冒険者たちが、アンデッドやオークの群れと戦闘を繰り広げている。
とりあえず、戦闘に加わろう。どこか手薄になっている場所がないか、周囲を確認していると、見慣れた人影を発見。
ニナだ。
必死になって、兵士たちを倒している。
好意った乱戦の場合、見知らぬ人と一緒に戦うと味方に攻撃を当てないように配慮しなければならず、力が出しにくい。だからできるだけ一緒に戦った経験があったり、コンビネーションが合う人物と一緒に戦った方がいい。
答えは、決まった。後ろを振り向いて、コクリと頷く。
「ウィン、ニナのところに行こう」
「はい──」
早足でニナの方へと向かっていく。ニナは得意とは言えない近距離戦を、必死になって戦っていた。
数匹のデュラハン達と乱戦になっているところに、ニナの隣に行って応戦する。
「協力するよ」
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