第98話 だだをこねるニナ、そして帰宅


「あ~~っ、ずるい!」


 ニナが俺に向かって指をさし、顔をむすっと膨らませて言う。

 なんだよこんな時に……ニナ、たまにこうなるんだよな。

 何かと甘えてきて、抱きしめたり体に触れるようなことを要求してきたり。


「仕方が無いだろ。消耗が激しいんだから」


 ニナは不満げな表情で視線をそらした後、何か思いついたようなようにぱっと表情を変えた。

 ニナはわざとらしく額を抑えた後、座り込む。


「あ~~ん、私も力が。先輩、おぶってください~~」


「いや、立てるでしょ」


 どんな理由かは分からないが、どう考えても演技だ。冷静に突っ込む。

 ニナはスッと立ち上がったあと、俺の脚を軽く蹴飛ばした。

 不満げな表情で言う。


「先輩、そういう所ですよ」


「なんだよ」


 なんだか不機嫌だな。何か悪いことでもしちゃったのかな? ニナ──実力もついて来たのに、たまに変に甘えてくるのだ。


「もうガルド君は──女心わかってないねぇ」


「わかるようにはっきり言え」


 からかうようなエリアの言葉。

 気まぐれというやつなのか。俺にはよくわからない。


 まあ、なんにせよ冗談を言う余裕ができたということだろう。勝利して、みんな無事で帰ることができただけでも良かった。



 取りあえず、戻ろう。体を休めてから、これからのことを考えるとは考えればいい。



 フラフラとした足取りで、俺達は街へと帰っていく。

 ギリギリの戦いだった。けれど、ウィンが最後に決めてくれた。


 ウィンがもう一度戦えるようになった。その事実が、何よりうれしい。

 ウィンの表情が、どこか誇らし気になっている。


 あとは、両親のことだけだ。今日の戦果は、しっかりと両親に報告できる成果だ。

 俺も、うまくフォローしてウィンが納得できるようにしていきたい。



 街へと帰還。直後は全員限界まで戦っていたため、次の日まで休息をとった。

 俺もウィンも、泥のようによく眠る。


 存分に疲れと取ってほしい。




 次の日、両親に戦果を報告。


「本当か? ウィン、戦えるようになっただと?」


「はい」


「信じられないわ」


 両親は、戸惑いながら互いに顔を合わせている。

 まあ、あんなひどいことをしたやつらだ


「これを……」


 当然、これくらいは想定してある。なので、数枚の紙を取り出し机に置く。

 ここのギルド協会からの感謝状と、俺達の功績を詳細に記録された書類。


 シャフィー名義で、ウィンの功績が事細かく記されている。

 この国のギルドで、一番信用できる人物のサイン。

 流石にここまで証拠をそろえれば、両親も信じるしかないだろう。


「……分かった。認めよう、ウィンが戦えるようになったことを」


 父親の方が、そうつぶやいた。


 どこか、信じ切れていないような納得がいっていない様子。

 しかし、ウィンは今まで何も貢献できなかったからここまで冷たい扱いを受けてきた。


 結果を出した以上、嫌悪感があるとはいえ今までのような態度をとるわけにはいかない。

 互いにきょろきょろと視線を合わせた後、気まずい表情になった。


 オホンと咳をしてから、口を開く。


「すまなかったな、俺が悪かった。ウィン」


「私も、自分の目が節穴だったって認めるわ。素晴らしいとしか言いようがないわ」


 両親は罪悪感を感じているような、複雑な表情をしている。

 それでも、今までのような罵倒する事はない。ウィンのことを認め始めたのだ。


 当然、今更遅いというのは当然だが──もうウィンが罵声を受けることはないだろう。

 それが、とてもうれしい


「ウィン。今まで申し訳なかったわ。ウィンに行った罵倒の言葉は全部。撤回します」


 その言葉に、ウィンは大きく目を見開く。


「ありがとうございました」


 そう言って、深々と頭を下げた。

 いざこざがあったとはいっても、やはり両親。認められたという事実に、心から喜んでいるというのがわかる。


 その表情も、どこか誇らしげ。

 本当によかった。


 両親は、それでも戸惑っていた。今までウィンを役立たずだと罵ってきたこと。そして、それが誤りだったことを認めたくないせいか、複雑な表情をしていた。

 そして、俺の方を見るなり気まずそうに話してきた。


「あんた、ウィンに手出しはしてないでしょうね」


「出してません。ウィンの意思に反して、欲望をむき出しにするようなことはしてません」


 俺は自信を持って言った。なにもやましいことはない。ずっと、ウィンのことを大切に思ってきた。


「はい、ガルド様とはやましいことは一切していません。私のことを、欲望の対象にせず、一人の人間として見てくれています。ですから、心配しないでください」


 ウィンの、きっぱりとした表情。両親は、表情を少し柔らかくして互いに見合い、コクリとうなずく。



「まあ、今まで罵声を送りづつけてきた身だ。今更罪が償いきれるとは思っていない。どれだけ恨まれても文句は言わん。こっちも、ウィンとのかかわりは最小限にするつもりだ」


 ウィンは、両親に言われた言葉を思い出したのか、体を震わせ、縮こまってしまう。


「だから、もうこっちはウィンに干渉したりはしないわ。必要があったら、助け舟は出すけれど──」

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