第59話 謎の装置
それだけではない。
「この装置、なんだかわかりますか?」
ニナの言葉通りだ。もしかしたら、ヤバい代物なのかもしれない。
時限爆弾みたいに、いきなり大爆発を起こすとか。
「確か──見たことはあるんだよな」
ソルトーンは右手を頭に何かを思い出そうとしている。見覚えが、あるのだろうか。
しばらくすると、何かを思い出したかのように指をはじく。
「ああ、あったな……こんなの」
「わかるんですか?」
「ちょっと、まってろ」
ソルトーンが席を立ち、後ろにある本棚へと向かった。
そして、ソルトーンは一冊の本を取り出す。
「以前、魔王軍について研究していた時、こんなやつを見たことがある」
そして本をパラパラとめくり始めた。
中身は、魔物たちの図鑑のような物になっていて、各所に魔物たちの絵とその説明が入っていた。
そして、ほんの終盤になって、とあるページを開いて俺達に見せつけてきた。
「ほら、これだろ。ニナが見せてきたのって」
ソルトーンが指をとある場所を指す。
その内容にニナは驚いてピクリと体を動かす。
「はい、そうです」
俺も、絵と実物を互いに確認したがほとんど一致している。
それだと見て、間違いないだろう。
「魔物──トランペソドロン」
「手短に言う。こいつは魔物と言っても特に武器はないし攻撃をするわけでもない。だが、厄介な力がある」
「なんですか? それは──」
「簡単に説明すると、録音機能だ」
すると、ソルトーンがトランペソドロンを手に取り、裏の部分を見せてきた。
ぶつぶつとした黒い穴に、上の部分に目のような模様。
「こいつ、音を記録する機能があるんだよ。この黒い穴の部分から音を集めて、どこかに送っているんだ」
「それって、まずくないですか?」
「そ、そ、そうですよ!」
ニナの言う通りだ。兵士というのは、人によっては要人たちの警護につくことだってある。
要人たちがぽろっといった言葉の中に、重要機密がある可能性だってある。
相当な、重要案件であることに変わりはない。情報が筒抜けになってしまっているのだから。
ソルトーンが指を組んで、俺たちをじっと見る。
「かなり深刻な事態だ。今すぐ何とかしないといけない」
その通りだ。しかし、こんな事件俺は聞いた事も経験したこともない。
取りあえず、今できることは一つしかない。
「先ずは、製造元に行った方がいいですね」
「そうだな。ただ、それくらいで解決するとは、思えない」
ソルトーンも言う通りだ。
録音機能がある装置を製造工程から服に仕込むなんて、知恵が回る奴らだ。当然、バレることくらい想定済みだろう。
行った所で、すぐに解決するとは思えない。
それでも、行くしか道はない──。
「とりあえず、製造元にこんなものがあった──と言ってきます」
今からでも、行ってみよう。
「ニナ、この後時間ある? 行ってみよう」
「私は、大丈夫です。一緒に行きましょう」
「よろしく、頼むぞ」
ソルトーンが座りながら頭を下げてきた。
そこまでされたら、成果を出していかなければと思ってしまう。
「わかりました。では、行ってきます」
そう言って頭を下げると、ニナと一緒にこの場を後にした。
「行こうか、ニナ」
「はい! 手がかり、見つかるように頑張ります」
そう言ってニナは拳を強く握って俺の方を見る。
とても意欲があるのが、分かる。俺も、ニナに負けないように頑張ろう。
王宮から歩いて数十分ほどで、問題の街工場にたどり着いた。
街のはずれにある、小さな町工場を言った感じだ。
安っぽい眼鏡をかけた、痩せているおじさん。
服は、よれよれで薄汚れている。どこか貧しそうな雰囲気だ。
「おや、あなた達が話に聞いていたガルドさんとニナさんですか。こんにちは」
「よろしく、お願いします」
おじさんと互いに頭を下げて、握手をする。
いきなり敵意を見せたり疑ってかかるのは得策ではない。
「すみませんね、いきなり訪れる事になってしまって」
「いえいえ、お気になさらず。まさか、こんなものが混入してしまっているとは──」
「いやあ……しかし、こんな装置──私には、身に覚えがないですよ……」
おじさんは困った表情で頭を押さえながら言葉を返して来る。
「従業員でしょうか。何なんでしょうね……」
おじさんは迷っている様子だ。
取りあえず、現場を見た方がいいな。いろいろ分かるかもしれない。
「ちょっと、製造場所をうかがっても大丈夫ですか?」
「え、えっ。構いませんが、何も──ないと思いますよ」
はピクリと反応した後、どこかおどおどしながら言葉を返す。
どこか隠しているかのような態度。何か、ありそう。
顔を合わせ、互いにコクリと頷く。
「ありがとうございます。では、見せていただきます」
そして俺達は作業所へと足を運んでいく。
木造の大きめな部屋。従業員の人たちが、机に向かって作業をしている。
「ここでは、兵士の人たちが着る軍服を、製造しています」
「確かに、そうですね」
従業員の人たちの動きを観察してみるが、特に何かを仕掛けたり怪しい素振りはない。
当然、部屋を見てもトランペソドロンはない。
「なんていうか、亜人の人ばかりですね」
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