第5話 ぎゅっと、手をつないで
「これが、私──」
「そうにぃ、超かわいいでしょ!」
ニカッと笑い自信満々な表情で腰に手を当てるエリア。
確かに、とてもかわいい。
ボサボサだったロングヘアの黒髪は、エリアが整えてくれた。おまけにぴょんと出ていた髪が全て整理され、サラサラできれいに整えられたストレートヘアーになった。
エリアはウィンに自分の姿が見えるように鏡をいろいろな位置に動かす。
「素敵だよ、ウィン」
「そ、そうですか?」
ウィンは顔を真っ赤にして、頬を抑えながら鏡に映っている自分と髪を、じっと見ている。
「綺麗な姿になったのが、信じられないって感じだねっ」
「は、は、はい……。毛づくろいとかしくれて、大切にされたことなんてありませんでした」
今まで、不憫な人生を送ってきたんだな。
エリアも、大きく息を吐く。
「じゃあ、そんな人生の埋め合わせになるくらい、これから大切にされなさい。この男に」
そう言ってイタズラじみた視線をこちらに向けてきた。やめろ、プレッシャーをかけるな。
異性との交際経験が無いのはお前も知ってるだろ!
「……分かりました」
ウィンは、複雑そうな表情でコクリと頷いた。そして俺の顔をじっと見つめてくる。
とりあえず、ウィンを失望させないように気を付けよう……。
何はともあれまずは髪を整えた。さっきまでとは見違える姿に思わず見入ってしまう。
「エリア、次はどうする?」
「決まってるでしょう。服服! こんな粗末な服じゃ、可哀そうよ」
腰に手を当て、エリアが迫ってくる。
「わかった。まともな服買うから、行こう」
俺達はすぐに支度し、街に出た。
街の中でも賑やかで、いろいろな商店が連なっている地区。
その大通りを外れた細道に、エリアがよく行っていた服屋があった。
「ここなら一通りの服がそろってるわ。じゃ、一緒に選びましょ」
「はい……」
ウィンはどこかうれしそうに顔をほんのりと赤くし、ぴょんぴょん跳ねている。
やはり、こういった場所が好きなのだろうか。
こういう時、俺は蚊帳の外だ。
二人は、店主の人と一緒に楽しそうにいろいろな服を選んでいる。
フリフリのついたワンピースや、緑っぽいジャケットなど──。
「これも、かわいいです」
「うん、ウィンちゃんに似合うと思うわ」
「でしょう店主の言う通り。私も似合うと思うわ」
女性の服選び──。時間がかかりそうだ。
昔のパーティーでは一セットの服をそろえるのに、何軒も店を回ったものだ。
対して違わない柄の服をこれは似合う──だとか。
通称「繁華街引きずり回しの刑」。
女性たちは水を得た魚のようにはしゃいでいたが、こっちは「どうせ同じななのだから早くしてくれ」とため息をつきながらついていったりしていた。
けれど、ウィンがそれで笑顔を取り戻している。自然と少しでもいい服が見つかって喜んで欲しいという気分になる。
「どうせならいっぱい買っちゃいなよ。どうせガルドが払うんだし──」
「おい!」
エリアの言葉にはイラっと来たが。
そして、数十分ほどすると服選びは完了。籠の中に5~6着の服がたたんで詰められ、会計。
「ほら、支払いの時間よ」
「……わかった」
服、結構値段がするみたいで予想していた値段を大幅に超えていた。
……また、仕事増やせばいいか。
会計が終わると、ウィンがぺこりと頭を下げてきた。
「ありがとうございます。こんなにお金を出していただいて」
「……いいよ。また稼げばいいし」
すると、店主の人がここで着替えるかどうか聞いてきた。
ウィンが嬉しそうにはっとする姿を見て、俺はその背中をポンと押す。
「行ってきなよ。待ってるから」
「……分かりました」
そして、ウィンは店の中の更衣室で服を着替えてくる。
「か、かわいい……」
そのかわいらしさに、ごくりと息を呑む。
白を基調としたフリフリのワンピース。
ウィンの持つ清楚さやかわいらしさを前面に押し出した様な服装だ。
「ガルドさん、ど、どう──ですか?」
ウィンは切ない表情になって前かがみになり、俺の方に視線を置く。
前かがみになったせいで、大きな胸の谷間が、くっきりと見えてしまっている。
そして、整った顔つきと表情。ウィンが持っている魅力を全面的に引き出しているようで、今まで見た彼女の中で、一番美しく感じる。
スタイルの良さと、あどけない表情、幼い顔つきが相まって、とても魅力的に見えた。
「す、素敵だよ、ウィン。かわいらしくて、似合ってると思う」
「あ、ありがとうございます」
その表情は、さっきまでとは違い、嬉しそうな笑みを持った表情。
深々と、頭を下げてくる。
「褒めていただいて、ありがとうございます」
「欲情して、今夜はお楽しみなんてことが無いようにね」
「しないよ」
ニッコリとしながら、エリアがからかってくる。
エリアも、ウィンが喜んでるのを見て、機嫌がいつもよりいい。
「じゃあ、私はここで帰らせてもらうわ。仲良くするのよ!」
「ああ、そっちこそ元気でな」
「今日は、ありがとうございました」
エリアは笑顔で手を振ってこの場を去って行った。
元仲間だけあって、俺のことをよく理解してくれる人だ。ああいった人は、大切にしていきたい。
そして、ウィンに視線を向ける。
「俺達も、帰ろうか」
「──はい」
俺達は帰路に就く。
それにしても、ウィンが嬉しそうな表情をしてくれて何よりだ。
捨てられたということもあって、さっきまでずっと、少しだけうつむいて、やさぐれたような、あきらめているような表情をしていたのが変わった。
背筋がまっすぐになり、前を向いてきりっとした表情になる。
ほんの少しだけ自信を取り戻したのを感じた。
すると、ぎゅっとウィンが手を握ってくる。
「え? ちょ──」
思わず動揺してしまう。
絹のようになめらかで、冷たい…。
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