国家魔術師をリストラされた俺。奴隷少女と共同生活をする事になった件
静内(しずない)@~~異世界帰りのダンジ
第1話 出会い
たわわな胸を、俺に押し付けてくる。プルンと柔らかい、マシュマロのような感触が俺の胸を包んでいる。
それだけではない。同じベッドで、少女と抱き合っているせいで彼女の柔らかい体と暖かさを全身に感じていた。
たまったものではない。こんな状況で、一晩間違いを起こさずに過ごせるのだろうか。
夜もすっかり遅くなった深夜。
俺はベッドで眠りにつこうとしている。
「すぅ──すぅ──」
この子、いくら疲れ切っているからって、不用心すぎないか?
どうしてこんなことになっているのか。それは、今日の昼過ぎにさかのぼる。
「簡潔に言わせてもらう。ガルド、お前を国家魔術師から解雇する」
「そうですか、今までありがとうございました」
ロディニア王国直轄の国家魔術師だった俺はこうして解雇された。しかし、特に驚くことじゃない。
まるで、テストの答え合わせを終えたような気分だ。
目の前にいるのは、甲冑を着た騎士の人。ひげを蓄えた中年の男。
椅子に体重を乗せ、どこか偉そうな態度で話しかける。
俺は窓の外にある城下町に一度視線を向けた後、騎士の人に視線を戻した。
「一応言っておく。今この王国の中で、何が起こっているかは理解しているな──」
「構造改革──だろ」
そう。構造改革という名のリストラだ。
この国は、数年前まで魔王軍との戦いの最前線だった。
俺達は魔王軍という強敵を前に、世界中の冒険者達と激闘を繰り広げ、犠牲を払いながらも世界に平和を取り戻した。
それから、魔術師をはじめとする王国直轄の魔法使いや冒険者の仕事は極端に減少。
さらに、魔王軍との前線だったときは、戦いのため世界中からたくさん人が来たり、最前線ということで世界中から財政援助があり、財政が潤っていた。
しかし、魔王軍との戦いが終わり戦略的価値がなくなると、世界中の国はこの国に価値を見出さなくなり、投資や資本が続々と引き上げられることとなってしまう。
重要拠点ということに胡坐をかき、目立った産業もないロディニア王国の財政は瞬く間に貧窮し始め、その影響は随所に現れていった。
給料未払いが多くなり、生活に貧窮した役人たちの不正があからさまに増えていく。
財政的にヤバいというのは、宮殿内でもよく噂されていた。こういった国家魔術師や裏方を支えている人を解雇する動きがあるのは以前からつかんでいたし、次は我が身であるということもなんとなくわかっていた。
それだけではない。長かった争いの中、俺達国家魔術師や魔法を用いて魔王軍と戦っていた冒険者というのは国民達からヒーローとしてあがめられ、地位も向上した。
しかしそれは王族にとって、自分たちの地位や権力を脅かしかねない存在だと感じるようになっていくことでもある。
それでも今までは国を守るために戦力として必要不可欠であったが、魔王軍という脅威がなくなった今、それも不要となり自分たちの権威を守るためにも、俺達の力を削いでいく必要があったのだ。
そして半年ほど前から、兵士も国家魔術師も次々解雇される動きをすでに見せていたのだ。
だから、特に驚きはしなかったし、これからどうするかも決めてある。
「まあ、今までご苦労だった。お疲れ様だ」
「そうですね。こちらこそありがとうございました」
両手を机に置き、そのまま頭を下げる。
顔を上げると、兵士の人が、腕を組んで話しかけてくる。特に敵だとか、厄介者であるとかいう感覚はない。
今まで、一緒に苦労を培ってきた戦友だという感覚なのだろう。
最後に、すっと手を出してきた。
「じゃあ、あんたのこれからの健闘を祈って」
「そうだね」
固く、握手を交わす。
そして俺はすっと椅子から立ち上がり、この場から去っていく。
俺たちが魔王軍と戦っていたころはいつもピカピカで、当たり前のように暗い宮殿の中を照らしていた廊下のシャンデリア。
維持費削減という名目のもと掃除をする召し使いは半分にまで削減され、どれも埃っぽい。
さらに、油を買う経費さえ賄えないのか、半分は灯がついていないので建物全体が薄暗く見える。
全盛期には最高級の職人と原料によって作られた真っ赤だった赤絨毯。整備が行き届いていないのか、薄汚れていて色褪せていた。
いつも見ている風景でも、国の状況によってここまで変わってしまうのかと感心してしまう。
これから、どうなっちゃうのかなこの国は……。
そんな心配事を胸に王宮を出ると、王宮の周りにたくさんの人だかり。
そして、その人だかりは城壁の前に立っている一人の男に羨望のまなざしを送っていた。
「おおおっ、国王様! 期待してますぞ」
「イケメン。結婚して~~」
「新国王様──セクシー、カッコイイ!」
いつものことだ。みんな、この国が下り坂になっていることを知っていて、それを何とかしてほしいと彼に期待を寄せているのだ。
キャンベル=ブレイザー=ソルトーン。
病気がちで、政務を取れなくなった先代の国王が引退した後、後を継いだ息子の若き国王。
さわやか系でイケメンともいうべき顔つき、改革を何度も口にして強い物言いを繰り返す言動が特徴。
下り坂ともいうべき状態の我が国。それを解決するための救世主として、国民達は彼に羨望の眼差しを向け、期待を寄せているのがわかる。
彼は、国民を勇気づけるような物言いで、国民たちに訴えかけていく。
「私はこの国を何とかしなければいけないと思った。力を貸してください」
さわやかな笑顔を、演説を聞きに来た国民達に送っている。
ちょっと言葉の文法がおかしい所はあるが、イケメンで女性人気も高く、演説もうまい。
彼なら、この傾きつつある王国を何とかすることができるだろう。
俺の役目は、終わった。これから、一人の冒険者としてひっそりと暮らさせてもらおう。
そう考えながら、俺は振り返ることもなくこの場を後にしていった。
あれから数か月。
俺は一人の冒険者として、新しい一歩を歩み出した。
山でダンジョンを攻略をしたり、動物たちを狩ったり──。
俺と同じくリストラされた元仲間や、新しく冒険者となった人たちに物事を教えたりしながら仕事をこなし、生活をしていた。
収入こそ、減ってしまったが……。
そんなとある日。
珍しく、強い雨。ザーザーと滝のような雨が地面にたたきつける。
仕事が終ってギルドから出た瞬間、いきなり土砂降りになった。
ついてない……。
俺は山でオークたちとの戦闘を終え、家に帰ろうとしたときの事──。
今日は予想外のオークたちの奇襲にあってしまった。
俺は無事だったが、他のパーティーの人が大けがを負ってしまった。
そのせいで治療に手間取り、終わるころにはすっかり日が暮れてしまう始末。
強い雨の上に夜もかなり遅く、人通りもほとんどない。
中流層の人が住む、木造のアパートが連なる通り。
いつもより疲れた足でとぼとぼ歩いていると──。
「なんだ、あれ……」
道の先、誰かがちょこんと体育すわりをしているのがわかる。
待て待て、この雨は夕方からずっと降っていたはず。
慌てて早足になり、その場所へと足を運ぶ。
少女がいた。
俺より一回り年が小さい、幼い顔つき。十代半ばくらいだろうか。
何かに怯えているようにブルブルと体を震わせ、うつむいている。
黒いストレートの髪は手入れがされていないのだろう。ふけ交じりで、ボサボサ。いたるところにくせ毛。
体の方は、もっと悲惨。ずっと外に居たせいか、雨でずぶぬれになっていた。服はよれよれのボロボロで、ところどころ黒ずんでいる。
しばらくシャワーも入っていないのだろう。体中は垢まみれ。
頬は痩せこけ、やつれているのがよくわかる。
とりあえず、話しかけてみよう。
少女のもとに歩き、目の前で歩を止めると、彼女の目線に合わせるように体育すわりになる。
「ど、どうしたの? 風邪ひくよ」
少女は声に反応して顔を上げた。
「追い出されました」
「だれから?」
少女は目をそらし、伏し目になりながら、言葉を返す。
「──奴隷商人から」
奴隷商人? 体育すわりをしているからよく見えなかったが、よく見ると、首に奴隷の証である首輪がついている。
どこかで見たことがある外見。記憶をたどり、思い出す。
そうだ──思い出した。
彼女は、つい最近まで俺と同じ国家直属の傭兵だったのだ。しかし、追放され姿を消した。その後の彼女の顛末を、うわさで聞いた事がある。
Aランクまでいった彼女が追放されて以降なぜ消えてしまったのか──。
問題は、彼女がAランクの強さを誇ってた理由。
彼女の力。それは周囲への加護や回復能力、そしてこの国では一、二を争うと言われた赤色に光る電撃魔法。
通称「赤い稲妻」。
しかし彼女は体つきが弱く、接近戦になるとEランク程度の力しかない。
以前のパーティーでは、そんな彼女の対人能力の弱さを組織で補っていた。
一対一では部類の強さを誇る剣士に、近距離戦闘のエース。そして、どんな状況でも的確に指示を出せるリーダー。
彼らの高度で精密機械とも言われた連携がウィンの対人関係の弱さという短所を補い、長所であった周囲へのサポートを生かして全力で戦っていた。
しかし、俺と同じように彼らの権威化を恐れ、財政難になった王国は彼ら全員を解雇。
パーティーは解散になり、「その経験を他の冒険者に還元するように」との命令の元、二度と彼らでパーティーを結成しないようにとの誓約をし、他のパーティーに合流した。
そして、新しく入ったパーティーで、彼女は打ちのめされることになる。
新しく結成されたばかりのパーティーは、チームプレーに欠け、個人技任せと言ってもいいウィンにとっては最悪の状況。
集団戦の中で、ウィンは何度も個の力での対応を余儀なくされた。
その数だけ、自らの弱さをさらけ出した。
そして──。
「お前、全然だめじゃねぇかよ! Aランクなんてウソだろ!」
「首だ首。使えないお前なんて顔も見たくねぇよ! この詐欺女!」
ひどい罵詈雑言を浴びせられ、パーティーを首になった。
その後、よほどショックだったのか彼女は魔法を使うことを拒むようになり、表舞台から去ってしまったと聞いた。
まさか、こんなことになっていたなんて──。
雨は、相変わらずザーザー降っている。このまま少女を放っておけば確実に体調を崩してしまう。
なんにせよ、やることは一つしかない。
「とりあえず、俺の部屋に案内するよ。立てる?」
俺はそっと右手を差し出す。
少女はおびえた目をして、おびえている。警戒して、怖がっているのがわかる。
どうしようか……。
彼女を見ながら考え込む俺に、一つのアイデアが浮かんだ。
けれど、そのアイデアは強引な代物だ。
相手によっては通報されてもおかしくはない。
迷いはあったけれど、その方法で行くことにした。
仕方がない。こんなところで放っておいたら、確実に体調を崩す。
「じゃあ、案内するよ」
勇気を出して手を出して少女の手をつかむと、すっと自分のもとに引き寄せる。
そして体を反転させ、少女の肩をつかんで、言った。
「大丈夫。変なことをするわけじゃないから」
にっこりとした、作り笑いで。彼女はしばし考えこんでから、かすれたような声で、ぼそっと、つぶやいた。
「……わかりました」
おびえた彼女の眼が、ほんのりと和らいだ気がした。
その後、少女を傘に入れて再び夜道を歩く。傘は彼女がこれ以上ずぶぬれにならないよう使ってしまっているので、俺の体はもうびしょぬれ。
「そういえば、名前は?」
「──ウィンと申します」
「そうか、俺はガルド。よろしくね」
☆ ☆ ☆
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