第72話 王妃殿下の病と治療
王城に転移した私たちは、国王陛下の執務室へと向かった。
いつもは謁見の間に向かうのだが、今日は王太子殿下であるトマスさんがいるので、執務室に向かっているのである。
「父上、トマスです。入ってもよろしいでしょうか」
「かまわぬ。入るがいい」
国王陛下から入室許可が出たので部屋にはいる。
「どうしたのだ。手紙での報告ではなく、直接王城に来るとは。
私に代わり、玉座に就く気になったのか?」
「どうせ、退位してファミーユに行くつもりでいるのでしょうが父上は、まだまだお若いのですから、しっかり国王として頑張って下さい。
代わりに私がファミーユで羽を伸ばしますから」
「ズルいぞ。私の妹である元アリステラ公爵夫人であるマリアベルもアリステラ公爵派だった連中も排除されたのだ。
いい加減、王城で王太子の務めをしたらどうだ」
「そんな冗談を言い合っている場合ではないのです。
母上の病について、もしかしたら治療できるかもしれないので、参ったのです」
「それはまことか!!」
「この世界では、未知の病かもしれませんが、サクヤや前世のアイリスが居た世界では、治療法がある病気の可能性もあるので、連れて参ったのです」
「そうであったか。では早速、クリスティーナの寝室に参ろう」
私たちは、王妃殿下の寝室へと移動した。
「入るぞ」
「ルーヴァンどうされたのです。
トマス!ダメですよ。王城に来ては……」
「まったく父上、母上に話してないのですか。
もう大丈夫なのですよ。全部片付きましたから」
王太子殿下のトマスさんが居ることに王妃殿下が驚いていましたから国王陛下は、王妃殿下にアリステラ公爵家がどうなったかを話されてないのですね。
「はじめまして、サクヤと言います。現在、どのような感じですか?体が重いとか、熱っぽいとかありますか?」
「そうですね。今は大丈夫なのですが、言葉を発しにくいなったり、足がよくつったりします。
ずっと寝ているので、筋力が低下したのか手足に力が入りにくいなり、最近では、手足の感覚が感じにくいです」
「食事の好き嫌いとかはありますか?」
「お酒が好きです。豚肉や豆類は嫌いなので、食べないです。野菜も生だと体か冷えるので、温野菜にしてもらってます。」
お酒好きで、豚肉豆類が嫌いか。どちらもいいつまみになるのにな。
体が冷えるのを気にするってことは冷え性なのかな。
「お酒は今も飲まれてます?」
「いいえ。以前は少しよくなったりする時があるので、治ってきたと思って飲んでましたが、またしばらくすると同じ症状になるので、今は飲んでません」
「病気になられる前などは、食べていたけど、今は食べていないものとかは?」
「えっと……パンとか穀物は、伏せるようになってからは、運ばれてくる食事から無くなりましたので、食べてないです。病を患う以前は、普通の方より少ない量ですが食べていました」
「パンを出さなくなったのは、国王陛下の指示ですか?」
「そうだ。食欲がなかったから、パンを食べると他の物が入らなくなってしまうから、パンを出さずに他の物で栄養を取ってもらおうと思ってな」
「では王妃殿下見させてもらいますので、ベッドに腰掛けたまま、足をこちらに降ろして下さい。
一人では難しいようなら……国王陛下かトマスさん手伝ってあげてください」
「私が手伝います」
トマスさんに補助されて、王妃殿下は、ベッドから足を降ろした。
「じゃあ、叩きますね」
サクヤが王妃殿下の膝の下のくぼみを叩いた。
ああ、小さい時に足が自然に跳ね上がるのが楽しくってよくやったよ。それ……あれ、王妃殿下の足、叩いたのに跳ね上がらないぞ。
確かこれは、何かの病気の検査方法の一つだったような……
「王妃殿下の病気は、脚気ですね。ビタミンB1という栄養素の不足原因です。
栄養素の不足による病ですが、放置していると心不全が悪化して、命を落とす病気です。
何度も一時的にだけ治ったと感じたのは、ビタミンB1不足が食事により、一時的に僅かに改善されたり、治癒師がそのような治療をしたからでしょう。
ビタミンB1は、水に溶けやすく、摂取しても体に吸収されにくく、吸収された後も体外へ排泄されやすいという特徴があり、不足しやすい栄養素のなのですが、多く含まれていると言われる豚肉や豆類は食べず、野菜は温野菜、伏せってから穀物も食べなくなったので、更にビタミンB1不足となり悪化したんでしょう。
お酒好きでたくさん飲まれていたみたいですし、アルコールを分解するのには、ビタミンB1が使われますし、妊娠中もビタミンB1が消費されていきますからね。
体調が悪くなり始めたのが、妊娠された頃からとのことですしね」
前世で何かで見た記憶があるんだけど、インスタント食品中心の食事、清涼飲料水の多飲、アルコールの多量摂取により、ビタミンB1が分解に使われ、野菜不足など偏った食生活をしている。
だから現代人は、潜在的にビタミンB1が不足している脚気予備軍が急増しているらしいだよね。
「治るのか?」
「ビタミンB1不足が解消されれば治りますよ。
ビタミンB1が豊富な豚肉、ウナギ、豆類、穀物、野菜も温野菜ではなく生の野菜を食べ、ビタミンB1の吸収を助けるニンニクとかネギ、ニラなど食べるようにしてください。治ってからもお酒の飲み過ぎには気を付けてくださいね」
「わかりました」
「アイリス。さっき言った食材、収納にある?」
「たくさんあるよ。なんに使うの?料理するの?」
サクヤは、料理出来なかったはずだし、再会してからも料理するところ見たこと無いけど、いつの間にか料理できるようになったのかな?
「違うよ。僕が料理できないのしっているでしょう。
食材からビタミンB1を抽出して、ポーション作ってもらおうかと思ってね。
アイリスは、錬金術使えるから作れるでしょう。
ビタミンB1だけだと飲み難いから、飲みやすくなるように味を調整してあげてね。よろしくね」
やはり、今も料理できなかったか。
ビタミンB1を抽出したポーションって、サプリメントみたいなものかな。
この世界では、錬金術も魔法の一種みたいな感じだから味は、イメージすれば、飲みやすい味に調整できるかな。
「わかったよ」
「さっきも説明しましたが、ビタミンB1は、吸収されにくく、不足しがちなので、完治するまでは、念のためにポーションをお渡ししますが、通常の食事だけであれば過剰に摂り過ぎてしまう可能性はほとんどありませんが、ビタミンB1ポーションを飲み過ぎると、過剰摂取により頭痛や不眠、いらだちなどの症状が出て体に悪影響に及ぼす可能性がありますので、一日一本だけにしてください」
「わかりました」
「クリスティーナの命を救ってくれてありがとう」
「国王陛下。まだ治ってませんよ。王妃殿下がバランスのいい食事を取り、ポーションの力を借りつつなおしていくのですから」
「だが、命を落とす危険は、ないのだろう」
「はい。僕が言った通りの物をちゃんと食べて、ビタミンB1不足が解消されれば、大丈夫ですよ。
完治したあとにまた元の食生活に戻るとまたなりますけどね」
私は、サクヤが説明している間に王妃殿下のためにせっせとビタミンB1ポーション作りに勤しんでいた。
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