第184話:つむじ風の正体

「ふむ、つむじ風に乗って現れる生き物なんて聞いたことがないが……山の管理を預かる身としては確認せねばならん」


「俺たちも一緒に行こうぜ!」


「えっ、ワタクシもですか⁉」


「だってジェルも気になるだろ?」


 確かに気にならないわけではありませんが、そんな野次馬根性で付いて行っていいものでしょうか。


「天狗さん、実は俺の弟、すげぇ術が使えるんだ。たぶん役に立つと思うぞ」


「確かにワタクシは、物の形を変えたり防御障壁を張ったりはできますけども……」


「なんと。天狗にしたい人材であるな」


「それはお断りします」


 ワタクシ達は同行を許可され、天狗と共に山頂へ向かいました。

 天狗がバサバサと団扇でワタクシ達に風を送ると、あっという間に山頂へと飛ばされます。

 転送魔術より便利そうでちょっとうらやましいです。


 地面に降り立つと、すぐにバサバサと草木が揺れる音がして、奥からつむじ風が現れました。

 あれが化け物でしょうか。


 即座に天狗が高く飛び上がり、錫杖しゃくじょうでつむじ風の中に居るであろう何かに攻撃を仕掛けます。

 しかし、錫杖はすべて弾かれてしまいました。

 天狗は慌てて翼を広げて空に逃げますが、つむじ風も追いかけようとしています。


「おいおい、天狗さんやべぇんじゃないか⁉」


「そうですね……天狗様! こちらに逃げてきてください! ワタクシ達が何とかいたします!!」


 そう叫んで、急いで地面に魔法陣を描き、呪文を唱えると光の中から着物を着た骸骨が現れました。

 契約している骸骨の宮本さんです。

 天狗がこちらに逃げてきたのを見て、ワタクシはさらに叫びました。


「宮本さん、あのつむじ風を切ってください!!」


「……承知した!」


 緊迫した空気に状況を察したのか、宮本さんは弾丸のように駆け出し、二本の刀を手の中に出現させました。

 そしてそれを素早くXを描くように交差させて振りぬいたのです。

 その衝撃波でつむじ風が飛散し、中から本体があらわになったのですが――。


「えぇぇぇぇぇぇ⁉ なんでサメ⁉」


 中に居たのはサメだったのです。そんなバカな。


「空飛ぶシャークって本当にいたんだな!」


 つむじ風が無くなったサメは、地面に落下してビチビチと跳ねています。


「このサメも斬れば良いでござるか?」


「いや、待たれよ」


 宮本さんが刀を構えると、天狗がそれを制しました。


それがしは動物と話す術を知っておる。何ゆえにこのようなことをしたのか聞いてみようと思うのだが」


「天狗さん、サメは動物じゃねぇぞ」


「確かに魚と話をするのは初めてだが……サメよ、どうしてそのようなことをしたのだ?」


 天狗さんがサメに近づいて話しかけると、サメの動きが止まりました。


「……ふむ。どうやらこのサメは迷子らしい。海に帰りたいと言っておる」


「海ってどこだよ?」


「このサメは見た感じホオジロザメのようですから、日本の海で問題ないかと」


 ならば、と天狗さんは団扇でサメに風を送りました。するとサメは空を泳ぐように、飛んで行ったのです。


「ここから一番近い海に送っておいた」


 こうして、事件は無事に解決しました。きっとサメも今頃は海でのんびり泳いでいることでしょう。


「山で空飛ぶサメを見た、ってキリトに言ったら笑われるかな?」


「きっと信じないでしょうねぇ」


 動画を撮っておかなかったことを残念に思いながら、ワタクシ達は山を後にしたのでした。

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