第139話:カラサワ?
恐る恐るワタクシ達が「チキン」と答えると料理人は頷いて、さらに聞いてきます。
「カラサワ?」
カラサワ……? あぁ、辛さはどうするかと聞いているんですね。
「カライ、とてもカライ、すごくカライ、インド人も驚く辛さ、象が死ぬレベル」
「象が死ぬレベルってなんですか⁉」
「象さんカワイソウネー」
「なんで食べさせたんですか!」
「冗談ヨ~。食べたのは店長だけネ! 店長、病院送りダヨ!」
そんな辛いのは困ります。アレクはともかく、ワタクシは辛いのがそこまで得意ではありませんから。
「甘口や普通のカレーは無いんですか?」
「甘口も普通も売り切れネー、ドーモスミマセン」
「しょうがないですねぇ。辛いのでいいですよ」
「じゃあ俺も同じで」
料理人は頷いてオーダーを紙に書いています。
「セットのお飲み物はドウシマスカー?」
そういえばランチには飲み物もついてくると書いてありました。
「飲み物は、ラッシーとチャイとカレーから選べるよ?」
「いや、カレーは飲み物じゃねぇだろ」
アレクが素早く突っ込みましたが、料理人はまったく気にしない様子で続けました。
「カレーは甘口か普通か選べるヨ!」
「そっちはあるのかよ!」
――なんなんですかねこの店は。
とりあえず問答してもまともな回答は得られ無さそうだったので、無難にラッシーを頼むことにしました。
「はいはい、ラッシーね~。サービスのデザートは食後でいいデスカ?」
「えぇ、食後でいいですけど」
デザートが食後なのは当たり前なのになぜ聞くのだろうかと思いましたが、とりあえず食後と答えておけばいいでしょう。
世の中には、先にデザートを食べる人もいるのかもしれませんが。
「はい、ワカリマシター」
それから待つこと十分。
目の前に、ターリーと呼ばれる銀色の丸い大皿に乗ったナンやカレーが置かれました。
いかにも辛そうな雰囲気の赤みの強いカレーに、もっちりと分厚そうなナンからは表面に塗られたバターの良い香りがしています。
カレーの隣には鶏肉をヨーグルトとスパイスで漬け込んで焼いたタンドリーチキンに、ミンチを串焼きにしたシークカバブが。
そして黄色いサフランライスの側にはアチャールと呼ばれるピクルスが小さく盛られています。
その隣の小さな器にはオレンジ色のドレッシングのかかったサラダが、彩りを添えていました。
――これは素晴らしい!
スパイスのいい香りと、ラインナップの豪華さにワタクシ達はすっかり気を良くしました。
「うわ、美味しそうだな~! いただきまーす!」
「いただきます……おぉ、これは! 辛いけど美味しいですね!」
美味しい食事にすっかり夏バテ気分が吹き飛んで、元気がでたように思います。
「……ふー。お腹いっぱいだ。食べすぎたなぁ~」
「ワタクシも久しぶりにおなかいっぱい食べて、ベルトが少し苦しいです」
そんなことを言っていると、厨房から店員さんが大きな銀色のお皿を持ってやってきました。
「デザートお持ちいたしました~! デザートの甘口カレー大盛りです!」
「ひっ!」
「もうカレーはいいよ!」
さらにナンまで追加されてワタクシ達は大変な思いをしたのですが、家に帰ってネットで口コミを見ると、大食いと思われる人たちの絶賛するコメントでいっぱいでした。
「たしかに美味しかったですしねぇ……」
今度はメニューをもっとよく見て注文してみようと誓ったワタクシ達なのでした。
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