第107話:青の龍の背に乗って
「――それでこれ、どうするんだ?」
「えーっと、ひき肉や調味料と混ぜましょう。粘りが出るまでよく混ぜること、だそうです」
アレクとリュージさんが眺める中、ワタクシは玉葱やひき肉をボウルに入れて、しっかり混ぜ合わせていきます。
その後に冷蔵庫で冷やしておいたゼラチン入りのスープを確認すると、上手い具合にゼリーのように固まっていました。
「リュウジさん、これをフォークで細かく崩してバラバラにしてくれますか?」
「うん! バラバラにするヨ!」
細かく崩れたスープの塊と具材をヘラで混ぜ合わせると、いい感じに小籠包の中身が出来上がりました。想像以上に簡単です。
「後はこれを皮で包めばいいんですよ。今回は市販の
ワタクシは袋から真っ白な皮を取り出し、フチを水で軽くぬらして具材を真ん中に乗せ、らせん状にひだを作りながら丸く包んでみせました。
「こんな感じで包むんですが……リュウジさんもやってみましょうか」
「やってみるネ!」
彼も見よう見まねで、ひだを作って包もうとするのですが、具材を入れすぎたらしく上手く閉じられないようです。
「……これ包めないヨ」
「ふふ、あまり欲張って中身を入れると破れてしまいますからね。少し中身を減らしましょう。――ほら、これで包めましたよ」
「ジェルさん上手ネ!」
包み終わったものを蒸し器に並べて十分程度蒸すと、美味しそうな匂いと共に見事な小籠包が出来上がりました。
ひとつ小皿に取って表面のツヤツヤした皮を箸でつついてみると、中から鶏がらスープがこぼれてサッと小皿に広がります。
食べてみると、スープとオイスターソースの旨みが口の中に広がり、ごま油の良い香りがしました。味付けも問題無いようです。
「ジェルさん! 大成功ダヨ!」
「よかったです。後はお母さんの前でリュージさんがこれを作って差し上げれば完璧ですね」
その言葉に彼は眉を下げて、少し考え込みました。
「……私、ちゃんと出来るか不安ネ。アレクさん、ジェルさん、誕生日におウチ来て一緒に作ってクダサイ!」
「あの。おウチってもしかして――」
「私のお父さんとお母さん暮らすおウチデース!」
――龍神の父親と母親、いわゆる偉い龍の神様の住まいへ同行した上に、料理まで披露しないといけないのですか⁉
「それはかなりプレッシャーですね」
「すげぇな、神様の家って面白そうじゃねぇか!」
好奇心旺盛なアレクは、
「お願いヨ、ジェルさん。私、お母さん喜ばせたいネ」
リュージさんはワタクシの両手を包み込むように握って、
「……しょうがないですねぇ」
「
リュージさんはワタクシに抱きついて感謝の意を示しました。着物からふわりと少し甘い上品なお香のような香りがします。
「あ、あの。わかりましたから、離れてください……」
「ハイ、それじゃアレクさん、ジェルさんヨロシクオネガイシマス!」
彼は畏まった表情で、右手の拳を左手で包むジェスチャーをして礼を伝えました。
神の御前で料理を披露するなんて緊張しますが、約束してしまったものは仕方ありません。
楽しそうに後片付けをするリュージさんの隣で、ワタクシは小さくため息をついたのでした。
――そして誕生日会当日。
保冷バッグに材料を詰めて、ワタクシ達はリュージさんを出迎えました。
「ではリュージさん、案内お願いいたします」
「うん! おウチまで飛んで行くヨ、背中乗ってクダサイ」
「背中に乗る……?」
リュージさんと一緒に店の外に出ると、急に彼の姿が光り輝きその姿が大きな青い龍へと変化していきます。
おそらくそれが龍神である本来の彼の姿なのでしょう。
「……ジェルさん、私怖いデスカ?」
青く輝く鱗に立派な角、人間など簡単に真っ二つにできるあろう鋭い牙と爪。
しかしそんな姿をしていても、彼は大きな頭を地面すれすれに下げて
可愛らしい。そんなことを思ったら失礼かもしれませんが、何となくそう思いました。
「――いえ。とても素敵ですよ」
そう答えてアレクと一緒に彼の背によじ登ると、表面は鱗に覆われているせいか鋼のような硬い感触で、少しひんやりとしています。
背中に生えている金色の毛から、リュージさんの着物と同じ香りがしました。
「それじゃ、私のおウチに出発デス!」
その声と共にふわりと宙に浮き上がり、ゆっくり空へ昇って行きます。
「そういえば、でんでん太鼓持ってマスカ?」
「でんでん太鼓?」
「よく知らないけど持ってると、龍の背中乗ってても落っこちないらしいヨ!」
「え、アレク、持ってますか?」
「……持ってねぇな」
それに対し、リュージさんは上昇しながら答えました。
「落ちたらゴメンネ!」
「いやゃあぁぁぁぁぁぁ! 帰る! ワタクシ帰りますっ!」
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