第91話:ジェルとシロの尾行大作戦
「アレクの居場所は、事前にスマホで確認しておきました。近くにいるはずですよ」
「あ、あれかなぁ。黒い格好だからわかりにくいけど、たぶんそうだよね」
アレクは小さな銀色のアタッシュケースを持って、黒いロングコートを着ていました。
シンプルながらもスラリとしたシルエットが、彼のスタイルの良さを引き立てています。
「おや、変ですね。家を出た時は真っ赤なコートだったと思うんですが……」
「え、そうなの?」
「えぇ。派手なファーや飾りが付いたデザインでどこのロックスターのステージ衣装かなって感じのコートですから、一度見たら忘れられませんよ」
ということはわざわざ着替えたということになりますが、何かあったんでしょうか。
それに手に持っているアタッシュケースも見慣れない物です。
「これは怪しいですねぇ。気になるし尾行してみましょう」
アレクに気づかれないようにこっそり後をつけていくと、彼は人目を避けるかのように人通りの少ない道に入り、その先にあるバーに入って行きました。
「バーに入っちゃった。このまま僕らも入ったら見つかっちゃうよね。僕は姿が消せるからいいけどジェルはどうする?」
「――仕方ありませんね。途中にデパートがありましたから、変装に使えそうな物を買いに行ってきます。シロは姿を消して店内でアレクを見張っててください」
ワタクシは大急ぎで、デパートで茶色いウィッグとサングラスを調達しました。
「やはり女装が一番簡単で気づかれにくいでしょうね……」
軽くウェーブのかかった長いウィッグを被り、サングラスをかけるといい感じにワタクシとはわからないようになります。
もともと女性と間違われるような容姿ですから、違和感も無いはずです。
「コートを脱がなければ中がスーツなのもバレませんし、これでいいですかね……」
こうしてワタクシは変装して、アレクが居るバーに向かったのでした。
扉を開けるとそこは二十席程度の小さな店で、まだ夕方だというのにそこそこ盛況らしく、すでに半分程度の席が埋まっています。
奥のテーブル席に目をやると、胸元を大きく開けた
てっきり誰かと騒いで飲んでいるのかと思ったのに、静かに独りで飲んでいたとは意外です。
ワタクシはアレクから少し離れた席に座り、オレンジジュースを注文してそっと彼の様子をうかがっていました。
彼は
ライトに照らされた艶やかな黒髪、鼻筋の通った凛々しい顔立ち。長いまつ毛。寂しそうに遠くを見つめる透き通った海のような青い瞳。
彼の憂いをおびた顔は、心なしかいつもよりもより大人に見えて、まるで映画のワンシーンのようなどこか現実離れした美しさで――正直、格好良いと思ったのです。
「飲んでいるだけでサマになるなんて、ちょっと羨ましいですねぇ……」
そんな独り言をつぶやきながらジュースをちびちび飲んでいると、カウンター席で年配の男性達がなにやら騒然としているのが目に入りました。
「おい、俺の酒がねぇぞ!」
「おいおい。自分で飲んだの忘れちまったのか。これだから酔っ払いは……」
「いや、まだ飲んでねぇよ! いつの間にか空っぽになってたんだって!」
どうやらシロは姿が見えないのをいいことに、周囲のお酒を勝手に飲んでいるようです。やれやれ、とんでもない神様ですね。
ワタクシが苦笑していると、ギィ……と店の扉が開く音がして、サングラスに黒ずくめの見るからに怪しい雰囲気の男性が入ってきてアレクの向かいに静かに座りました。
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