第67話:錬金術式ダイエット
「とりあえず前にテレビで見た、糖質ダイエットを試してみましょうか?」
「糖質ダイエット?」
「要はパンやお米を食べない生活をするんですよ」
「なんだ、簡単じゃねぇか! じゃ、後はよろしく!」
アレクは大喜びで、ソファーに寝転がってテレビを観始めました。
「ちょっとアレク、運動もしないと痩せませんよ?」
「えー、めんどくさいな。代わりにやっておいてくれよ」
「いけません、ほら。ジョギング行ってらっしゃい!」
ワタクシはテレビが観たいとごねるアレクを急き立て、外に送り出しました。
「晩御飯作って待ってますから。三十分くらい走ったら帰ってらっしゃい」
「おう、わかった」
三十分後、アレクは額に汗を浮かべて帰ってきました。ちゃんと言われた通り走ったようです。
「おかえりなさい、アレク」
「ただいま。あー、腹減った。シャワー浴びてくるから飯頼むわ」
「はいはい、できてますよ」
「お、カレーかぁ~。良い匂いだな」
十分後、食卓で不満そうな顔をする彼の姿がありました。
「……おい、どうしてお兄ちゃんのだけご飯が無いんだ」
「忘れたんですか? 糖質ダイエットですよ」
「いや、カレーのルーだけとかキツいだろ!」
「そういえば、シロから明太子のおすそ分けをいただいたんですよ」
アレクの反論を無視して、ワタクシは冷蔵庫から友人にもらった明太子の包みを取り出しました。
「うぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんでこんな時に……!」
「カレーライスもいいけど、やっぱり炊きたてご飯と明太子の組み合わせって美味しいですよね。ついついおかわりしちゃいます」
ワタクシは彼の前でご飯に明太子を乗せて美味しそうに食べました。
「……あぁもう! 糖質ダイエットなんてやめやめ! 俺もカレーと明太子でご飯食べる!」
――こうしてアレクは糖質ダイエットをあきらめました。
「ふむ……糖質ダイエットがダメなら
「代謝を上げるって、どうすりゃいいんだ?」
「体を温める食べ物がいいですね。唐辛子みたいに辛いものがいいかと」
「カプサイシンってやつか」
「そうです。なのでこれをどうぞ」
ワタクシは、真っ赤な液体が入った小さな瓶をアレクに手渡しました。
「錬金術で生成した唐辛子ドリンクです」
「うへぇ、辛そう。大丈夫なのかよ……」
「辛さの単位は『スコヴィル』と言うのですが、一般的な日本の唐辛子で三万~五万スコヴィル。辛くて有名なハバネロで十万~三十五万スコヴィルらしいです」
「へぇ~、なんかすげぇなぁ」
「そのドリンクは魔術的圧縮を応用した結果、一億スコヴィルになりました!」
アレクは慌てて瓶をゴミ箱に投げ捨てました。
「あ、勿体無い……」
「劇薬じゃねぇか! お兄ちゃん殺す気か!」
「ワタクシ達は不老不死だから大丈夫ですよ。それぐらいしないと一ヶ月で十キロ痩せるのは無理だなと思ったので……」
「ダメダメ! 代謝上げるとかもういい! 他の方法にしてくれ!」
「しょうがないですねぇ」
こうしてこの後も豆腐ダイエットやリンゴダイエットに、通販で売っているダイエット器具など、一ヶ月の間いろいろ試したのですが……
「あぁぁぁぁぁ! これもダメだぁぁぁぁ!」
「アレクったら、またそんな急に投げ出したりして」
「やっぱり十キロ減量って無理なのかなぁ……」
彼は鏡の前でポーズを取って、自分の姿を眺めています。
「――でも、さらに体が引き締まったようには見えますね」
「え、ホントか⁉」
「えぇ。とても良い感じですよ」
なんだかんだでお菓子を我慢して、低カロリー食にしてしっかり運動していたのが功を奏したのでしょう。
体重はそこまで落ちなかったものの、アレクはギリシャ彫刻のように程よく筋肉の付いた美しい体になっていたのでした。
「よーし、俺のパーフェクトボディで世界を魅了してやるぞ!」
「その意気です!」
「俺のステージ、ネットで全世界に配信されるからジェルも絶対観てくれよな!」
「もちろんです、がんばってくださいね!」
「おう。未来の大スターに期待しててくれ!」
――こうして、彼はニューヨークへと旅立ちました。
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