人生の実績解除
抜きあざらし
序
今日、五十歳になった。
とはいえ何か特別な祝い事をするわけでもなく、朝方に妻と娘に「お誕生日おめでとう」と言われ、夕食のデザートにショートケーキを食べるぐらいだ。
ケーキだって、十歳の娘が喜ぶから買っているだけであって、自分で食べたいわけではない。むしろこの甘すぎるホイップクリームが、年々辛くなってきたぐらいだ。
来年は、もう少し控えめなケーキを選んでもらった方がいいのかもしれない。
だが、妻と娘がネクタイを買ってくれたのは嬉しかった。
部長代理への出世祝も兼ねているらしく、それなりに高級な代物だった。普段買わないブランドのものだったので、新鮮な気分になれる。明日はこれを締めていこう。
遅くなってしまったが、夕刊に目を通す。これといったトピックはない。しかしなぜだか、とある殺人事件が目についた。五十歳の男性が、八十歳の男性を刺殺……犯人が同い年だからだろうか。聞いただけで、背筋に悪寒が走る。
明日は朝から会議だ。早く寝てしまおう。
朝型の妻を起こさないようベッドへ潜り、柔らかい枕に頭を埋める。
あまり寝付きが良い方ではないのだが、なぜだか今日はすぐに寝入ることができた。緩やかな微睡みの中へ、意識が、沈み……。
………………。
真っ白い空間に、無数のパネルが浮かび、並んでいた。淡く光っているほんの一部と、そうでない他大多数。
夢を見ているのだろうか?
不思議と気怠さのようなものはなく、クリアな意識で周囲を見渡す。どうやら、パネルには文字が書かれているらしい。
その中で、何枚か存在する光っているものに目を向けた。
結婚する――65%
これが一体なんなのか、すぐには理解できなかった。
他のパネルも確認する。
車を購入する――19%
就職する――31%
子供をつくる――88%
海外旅行に行く――54%
実績を確認する――56%
次に、消灯しているものを。
人を殺す
借金を踏み倒す
宇宙人と会う
宝くじに当たる
ペットを飼う
少し考えて、その法則に気づいた。
今まで体験したことのあるパネルが点灯していて、そうでないものが消灯しているのだ。
確か、娘と一緒に遊んだゲームにもこのようなシステムがあった気がする。プレイヤーの行動に応じて、対応した実績が開放されていくのだ。
ならばこれは、それの人生版……といったところか。
だとすると、隣に記入されている数字は達成者の割合だろうか? そう考えるとイメージに合わない数字もちらほらあるが、母数がわからないのでなんとも言えない。
しかし、これは愉快な体験だ。
まるでこれまでの人生を振り返っているかのような、そんな気分になれる。
なるほどこれは、五十年生きた自分へのご褒美とも言えるだろう。いつ目が覚めるかわからないが、それまでじっくり堪能したい。
20人以上と性行為を行う――51%
50回以上性行為を行う――33%
どうやら回数によるものもあるらしい。若気の至りを感じさせられ、なんだか照れくささを感じてしまう。妻や娘には知られたくない情報だ。
マイホームを建てる――18%
なるほど、これは五分の一を割るのか。
先生をお母さんと呼ぶ――31%
デートをすっぽかされる――43%
中にはこんなユニークなものもあった。それぞれ当時の恥ずかしい記憶が蘇り、なんとももどかしい気持ちになる。
他には一体どんなものがあるのだろうか。
パネルの森を練り歩く。いつしか、実績の確認に夢中になっていた。
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