第百九十九話 天城の神々と天翔ける最新の神話達8
◆ダンジョン都市桜花・第百十八番ダンジョン『天城』最終層・杞憂非天・第一神域『万物平定』:『破界砲撃手』:清水ユピテル
白砂の闘技場に獣達の雄叫びが重なる。
ケラウノス――――彼の神話において至高神ゼウスの
ソレが、その名を冠した
「AWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
その数は三。
三柱のケラウノスが、
爆発する霊力。鳴響く雷轟。大型の列車砲を彷彿とさせるその巨大な口腔から放たれし瘴気の雷は
だが
「NuuN!」
ゼウス神の巌のような双脚が躍動する。
ケラウノスの黒き神威が彼の肉体を焼き尽くすその刹那、至高神は飛んだのだ。
眉間に深い皺を寄せて、翡翠色の嵐を纏いながら、灰色の空へと高く高く雷神は飛び立っていく。
間一髪。しかし、それは確かに冒険者達に傾きかけていた流れを変える
「ムダじゃ」
――――ならない。直線に放たれた筈の黒雷達が急激な速度で進行方向を変えて、上へ上へと差し迫る。
少女の放った術式が
足場はおろか、突起物の一つもない壁面に霊力の踏み台を作り出し、次の壁面へと跳躍。
幾ら神威の理と言えども、エネルギーの奔流である事に変わりはない。
であれば、一度別の障害物にぶつけてしまえば、それで落着。
誘導兵器は、その正しさ故に誤爆する――――術式の特性を瞬時に見抜き、あまつさえ完璧に近い対応策を講じたその智慧は、流石と言えよう。
「だからムダじゃ」
しかし、ソレらは大神の目論見を越えていく。
ぶつからない。
彼がどれだけの角度をつけて逃げようと、あるいは完璧な進行状況でその身を翻そうと、黒雷達は意にも介さずゼウス神を追い続けた。
壁に当たらず、ブラフを見抜き、いつまでも、どこまでもついていく。
「Ko……shaku」
埒が明かぬ。ゼウス神が斯様な判断を下し、抗戦の構えへと撃って出たのは壁を抜けた直後の事である。
無窮とも思える広がりをみせる灰色の天。
この宙域の果てである偽りの天頂へと翔け上がったゼウス神は、その全身から無尽の白雷を迸らせ、地より昇りし
「《
かくして白雷の神威が降り注ぐ。
守りの要である《
天を下る三種の白雷達。
轟く神の威光が侵略者の発した黒雷を捉え、堕ちていく。
出力は
故に「純粋な術理の勝負に持ち込めば、後の結果は自明である」と、ゼウス神が勝負の
「ムダじゃと言うておろうが!」
彼は、瞠目した。
目の前の光景が、あまりにも世の理を欠いていたからだ。
白雷が、己の全霊をもって射ち放った渾身の
黒雷の進行方向をまるで自ら譲るように、明後日の……あらぬ方向へと曲がり、歪み、堕ちていく。
言うまでもなくゼウス神の
故に、これは敵側の干渉。
そして全知全能の
追尾する黒雷、あらゆるブラフにかからず、常に最善手を取りながら接近するその動き、そして極めつけは白雷がひとりでに避けたというあり得べからざる事実――――まるで、そう、黒雷の着弾が宿命づけられているかのようにあらゆる事象が、一つの結末に向かって収束している。
然り。これこそが少女の保持する『破界砲撃手』の権能『
あらゆる回避に追いすがり、もたらされた迎撃は
誘導ではない。
必中ですらない。
それは、全ての攻撃が必ず当たるという運命の創造である。
回避どころか迎撃すらも許さず、すり抜けや透明化すらも無効化する正真正銘の百発百中。
その発動条件を満たす為に、ユピテルは己の力でゼウス神に自身の術式を一定回数以上当てる必要があったのだ。
だから数を重視した。ならばこそと霊力を抑えた小技を中心に戦線を組み立てていた。
だが、今は違う。
あらゆる攻撃が必ず敵に命中するという“運命力”を獲得した今のユピテルに小技を使う道理など無い。
満を持しての
最早、ゼウス神にケラウノスの叛逆を止める手立てなどなかった。
『破界砲撃手』の紡いだ運命に従い、主神の肉体を貫く
瘴気を帯びた闇の雷霆がゼウス神の霊格を侵し、乱し、灼いて、壊していく。
二重属性の強みがここに来て輝いた。純粋な雷に対しては万全とも呼べる耐性を持つゼウス神であっても、
あるいは彼が本物であったのならば、この絶技すらも無傷でやり過ごす事が出来たのであろうが
故に
「NuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN!」
故に彼は、ゼウス神は、偽りの至高神は爆散した。
その白く雄々しき肉体を最期は一面の
訪れる灰色の静寂。
冒険者達は、黙したまま雷神の消えた天を静かに見つめる。
そして
「Uuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu――――!」
灰色の無より、天帝が蘇る。
他の十二偽神の大半が持つ肉体の再構築能力を、彼もまた有していたのだ。
灰色の空に顕現する黒髭の雄神。
その肉体は、ゼウスの
全能を捨て、雷神としての側面に特化を遂げた極雷の天帝。
彼の神が新たに賜った
「ハッ」
そして少女は、その者の姿を捉えた瞬間に確信した。
「ゲームセットだゼ、パチモン」
刹那、天帝の背中に青い稲妻が迸る。
少女の発したものではない。
ましてや己の意志で我が身を貫く筈がなかった。
それは『オリュンポス』の意志でもなく、ここにいるアズールや納戸の攻撃でもなく、その他この最終階層に集いしあらゆる冒険者の干渉ですらなかった。
空間と創造を司るダンジョンの神が、今は眠りし
それは隠された摂理であり、有史以来冒険者の間で永らくの間伝説として語り継がれてきた真偽不明の
同一の名を有する
対象となったのは、ユピテル。
どちらが本物のユピテルなのか――――その判別において、姿形や種族の在り方等は些末の問題と言える。
更に言うならば、彼女達は共に偽典。
この世界の歴史に名を刻みし、ユピテル神とはその生まれからして異なる別の存在である。
であれば、その真贋を何を以て測るのか?
決まっている。神話だ。
各々がこれまで積み上げてきた歴史が、逸話が、物語が、インクの文字となってその
少女は、己の名を高らかに名乗り上げた清水ユピテルには沢山の
ケラウノスを植え付けられた暗黒期、家族と共に黒雷の獣を調伏した転換点、常闇の最奥で三つ首の邪龍を仕留め、相方の精霊と共に新たな道を見出し、“烏合の王冠”のユピテルとして数多の冒険譚を紡いできた。
一方の
“笑う鎮魂歌”が、最終階層を封鎖していたが為に起こってしまった“
本来であれば弱点とすら言えない程の“名の被り”が致命的な毒素となって天帝の存在を蝕んでいく。
零落する神格。
霧散する霊力。
形態変化によるパワーアップが、
「OooOOOOOOOOOO!」
しかし、それでも、どれだけ己の
守る。守る。ただ、この領域を守るその為だけに己はあるのだと滅私の化身は崩れ落ちる肉体を砲身に変えて捨て身の一撃を放とうとし
「そこがズレてんだよ、
地の底より湧き出でる極大の
「ゴリラが言うには、ゼウスって神様はとんでもない俗物だったらしいゼ」
全知であり、全能であり、そして兎に角下半身事情にだらしなく、しょっちゅうしょうもないミスをしては人や神を困らせた――――それがこの世界に刻まれた本物のゼウス神の
「大体、主が命がけで城を守るってどうなんジャイ。ワタシなら、
忠義、無欲、自己犠牲。
それらは一般的な視点から見れば大層な美徳なのだろう。
だが、それは
己よりも城を大切にするゼウスなど、贋作以外の何であると言うのか。
「良いカ、
クジラちゃんにおんぶされた状態のまま、ユピテルは鼻を鳴らして言い放つ。
既に三体のケラウノスは臨界点を突破し、白砂の闘技場は黒雷の獣達の霊力によって侵されていた。
そのベビーフェイスはいつも通りの無表情。
何を考えているか分からないと良く言われる銀髪の少女の頭の中で、彼と交わした切ない約束の思い出が再演される。
“なぁ、ユピテル。もしもこの戦いが無事に終わったら”
反芻される彼の言葉。
ときめく胸の高鳴りは、恋にも似た甘い香りで
“特別ボーナスとしてキャッシュで一千万円支給してやるから、兎に角真面目にやるんだぞ”
「百万回くらいガチャで爆死してから出直してきやがれってんだい、ベラボウめぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
降誕【神威の
世界は光り、
ゼウスVSユピテル。
最古と最新の贋作達による神話の衝突は、かくして
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