第六十三話 うわくろきしつよい









◆ダンジョン都市桜花・第三百三十六番ダンジョン『常闇』第一中間点「住宅街エリア」








 昼食は夏らしく冷やしそうめんにした。


 清涼感があるし、具材切って麺煮るだけなのでお手軽なのだ。


 ウチのパーティには一人信じられない程の大喰らいがいるので、こういった簡単で大量に作れる料理は何かと重宝する。


 そうめんは、薬味や卓上調味料を充実させておけば飽きが来づらいし、コスパも良い。

 消化が早いせいですぐに腹ペコさんが「おなかすいたー」と訴えてくるのが難点といえば難点なのだが、奴の場合、どうせ何を食べたところですぐにペコるので無問題モーマンタイである。



 加えて午後の戦いは、実質二十層のみの一本勝負。



 <歪み泣くコシュタ夜闇の教誨者バワー>というインチキ天啓レガリアのおかげで道中の移動はほとんどストレスフリーになったし、肝心のボス戦もこちら側の戦力が圧倒しているわけだから、遥さんの大事なカロリーが酷使されるような展開にはならないだろう。




「さて、それじゃあ二十層の対策会議を始めようか」




 とはいえ、ブリーフィングはちゃんとやるのが凶ちゃんスタイル。

 敵が弱いからって舐めてかかると、予想だにしない反撃を受ける可能性があるからな。事前準備はもちろん、怠りませんとも、えぇ。


 

「二十層は、十中八九これまで戦ってきたボス達との戦闘になる」



 未踏領域のネタバレをあっさりと明かすチュートリアルの中ボス。しかし、誰も驚く気配はない。



 なぜならば、今俺が語った情報は、攻略組であれば誰もが知っているような常識事項なのだから。



 最終階層前に発生する最後のボス戦は、これまでの中ボスが一堂に会するボスラッシュ――――これは世界中のダンジョンに共通する基本ルールなので、俺が堂々と公表ネタバレをしてもなんら問題はない。……ないのだが

 



「二十層は、十中八九これまで戦ってきたボス達との戦闘になる」

「うわー、新鮮味がないにゃー」

「鳥とミイラは、さっき倒したばかり」



 ……まぁ、そういう反応になるわな。

 死魔に至っては、次で五回目だし。


 だからといって戦闘中にだらけられても困るので、ここは少し強めに喝を入れておこう。




「そりゃあ、個体ごとにみれば少しばかりよわっちい連中かもしれんよ。だけど、俺達は徒党を組んだ連中の強さをまだ知らない。これはつまり――――」

「ねぇ、凶さん。質問、質問」



 隣の席から大変元気な声が上がった。



「……まだ、俺のお説教フェイズは始まったばかりなんだが」

「その話は枕元で聞くよ。それよりも気になったんだけどさ、徒党を組むって事は、あのノッポさんの試練はどうなるの?」

「ノッポさんって、十層のボスの事か?」



 コクリと恒星系の首が軽快に揺れる。



 成る程、いいところに目が行くじゃないか。


 確かに“試練設定型”ボスであるあの厨二病ミイラは色々と特殊だからな。

 奴の厄介な試練が、ボスラッシュでどのように化けるのか? その化け方次第によってはワクワクできるのではなかろうか――――きっと、遥はそんな風に考えて、この質問を繰り出したのだろう。



「そうさな。調べたところによると、ボスラッシュ時の試練設定型の扱いは」

「うんうん」

「基本的に無いものとして扱われるそうだ」

「んっ?」



 その瞬間、遥さんの表情が凍りついた。



「無いものとして扱われるって、どゆこと?」

「いや、言葉通りの意味だよ。試練とか使わずに、普通に攻めてくる」

「でもあのノッポさんって攻撃するのがすごい遅いんだよね」

「そうだな」

「あの縛りがなかったら、どうやって戦うのさ」

「…………」



 ゲームだと、なんか申し訳程度にエネルギー弾的なものを出していた気がする。後ヒーラー的な事もやっていたようないないような…………正直、影が薄すぎてよく覚えていない。



「ちなみにフィールドも闘技場固定だから、十五層のボスはそんなに高い所にいないし、五層の黒い鬼と白い鬼も明るい場所にいる」

「ねぇ、それってむしろ弱体化してないかな!?」




 最もなご意見である。……最もすぎてなにも言えねェ。



「あっ、後ひとつ」

「……まだなにかあるの? いい加減遥さんのワクワクメーターが、死にそうなんだけど」


 机に突っ伏しながら、据わった目でこちらを見つめてくる恒星系。

 

 ワクワクメーターが一体どういう換算システムなのかは知らないが、多分これから流す情報は、確実に減点対象だろう。


 その事に若干の罪悪感を覚えながらも、俺は遥に真実を告げた。



「二十五層クラスの中規模ダンジョンだと、ボスラッシュ時に出てくる再現体の能力値に若干の弱体化補正がかかっているらしい」

「勘弁してよぉ!」







◆ダンジョン都市桜花・第三百三十六番ダンジョン『常闇』第二十層




 

 ボスラッシュとはいうものの、ダンマギ(無印)のボスラッシュは連続戦闘形式ではなく、総力戦形式である。

 

 いや、正しくは“常闇レベルのダンジョンの場合は”というべきか。

 

 五大ダンジョンに代表されるような大規模ダンジョンの場合は、所属するボス数の都合により、連続戦闘形式が取られている。

 しかし三組四体程度の数であれば一度のバトルで処理することが可能なため、斯様かような形式が採られているのだ。



 それを味気ないと嘆くか、楽チンだと喜ぶかは人それぞれだが、少なくとも俺は後者だった。



 だって、ねぇ。戦闘が小分けされるとバフのかけ直しとかしなきゃならないし、何より時間がかかるんだもの。



 そもそもダンジョン毎にボスラッシュがあるとか、それなんてクソゲーって話なわけですよ。だったらその枠で新規ボス配置すればいいじゃん、と当時遊んでいたプレイヤーならば誰もが思った事だろう。

 シナリオの闇深さといい、無印は何かとストレスフルである。


 起源にして頂点なんていうのは幻想だ。大作恋愛シミュレーションRPGシリーズの第一作目だからといって、無印が他よりも抜きんでているなどという事は断じてない。


 無印は、いわば原石なのだ。荒削りなところが目立つけれども、プレイヤーの心を惹きつける魅力も確かにあって、その光の美しさに心を奪われたプレイヤー達の支持によって次作へと繋がった始まりの欠片――――それが無印に対する俺の嘘偽りない評価である。






「というわけで、ハイ。やってきましたよ二十層。皆さん気合入れていきましょうね」

「そこはかとなくがんばる」

「頑張れない、頑張れないよ。こんなの」



 いつも通りなお子様と、いつもよりも数段テンションの低い恒星系。入場通路の壁面にもたれかかって一人シクシクとうなだれる姿は、ただただ不憫。




「本領を発揮できない上に、弱くなってるボスを倒して何が楽しいのさぁ」




 やはり生粋のワクワク狂いにとって、このボスラッシュ仕様は看過かんかできるものではないらしい。


 敵の弱体化を悲しみ、こちらにとって有利な仕様を余計な御世話とぶうたれる――――ゲーム脳といってしまえばそれまでだが、そもそもこいつは死地に飛びこめば飛びこむ程喜ぶようなド変態なので、既存の常識に当てはめるだけ無駄である。



 ワクワクするか、しないのか。遥の行動原理はいつだって単純だ。単純ゆえに、一度下がるとこうなってしまうのだが、はてさて今回はどうやって釣り上げようか。



 脳内の思考領域をフル稼働させながら、何気なく外の景色を見やる。



 格子状の扉の奥に広がる古びたコロッセオ。造りはオーソドックスな円形闘技場で、上層にはアーチ構造で形成された観覧席がある。

 あの場所に遥さんを座らせておけば、色々と丸く収まるのではないだろうか。あるいは逆にあえて遥一人に戦わせるというのもアリかもしれない。

 そもそもこっちにはお子様というビックリ射程モンスターがいるのだ。だから、少しくらい遥に遊ばせても罰は当たらないだろう。

 

 



「リーダー、少しいいか」


 悩める俺の元へ、黒騎士がやって来た。


 漆黒の鎧兜から発せられる重厚かつ渋みマシマシなバスボイス。良い声してるよなぁ、と内心で聞き惚れながら俺は彼に向って言葉を返した。




「なんだい旦那?」

「提案がある。この階の獲物を全て私に譲って欲しい」

「……納得できる理由があるのなら」


 

 すると旦那は、事もなげにこう言ってのけたのだ。



「なに、食後の運動というやつさ。いい加減、馬車の運転にも飽きてきたところでね、ここいらで少し身体を温めておきたい」




 そんな巨大な甲冑つけてたら、温める必要なんてないと思うのだが。










 

 紫色の空の下、砂塵舞う闘技場の中心に、一人の男が立っていた。


 いうまでもなく黒騎士の旦那である。

 無人の闘技場にたたずむ全身鎧兜の黒騎士とか、オタク男子的には燃え度が高すぎてたまらんのだが、今は攻略中なので自重する。でも、機会があったら触らせてもらおう。鎧の質感とか、すごく気になるし。





「ねぇ、本当にいいの?」



 そんな風に俺が旦那との健全なスキンシップ方法についてあれやこれやと模索していると、隣の観覧席に座る遥が心許なげな声で尋ねてきた。



「オジサマだけに任せて、あたし達はここで見てるだけだなんて……なんだか、申し訳ないよ」

「本領を発揮できない上に、弱くなってるボスを倒しても楽しくないんだろ」

「それは、言葉の綾というかなんというか」



 もにょもにょと喋りながら、申し訳なさそうにうつむく恒星系。今日の遥さんは、ちょっとだけ犬っぽい。



「まぁ、今からどうしても加勢にいきたいってんなら止めはしないが、多分その必要はないと思うぜ」

「ワタシも凶一郎の意見に賛成。せっかくの申し出、彼の厚意をむげにするのはくない」

「いいこと言うじゃないかユピテル。んで、本当の所は?」

「楽ができればなんでもいい」



 お子様はとても素直だ。



「分かったよ。今日はおとなしく見てる。……ううっ、でもやっぱりあたしもあっち側に回りたかったなぁ」

「本領を発揮できない上に、弱くなってるボスを倒しても――――」

「もっ、あたしが悪かってばぁ」




 そんな感じに俺達がいつも通りのやり取りを楽しんでいると、いつの間にやらあちらさんの準備も整ったらしい。



 紫色の空から降り注ぐスミレ色の光柱達。大小合わせたその総数は四つ。



 地面へと照射された四つの光は各々独自の濃淡を放ちながら、二十層の地に見知った奴らの影法師を産み出していく。




「EEEMEEEEEEEEE!」



 まず現れたのは、五層ボスの片割れである白鬼だった。



 ヤギの様な角と濁った黄色の瞳、顔の上半分は白毛で、残り半分はグロテスクな深紅色。


 皮膚すらなく、剥き出しの裂けた大口が三日月の様に広がっている姿は、相変わらず気味が悪い。


 というか、日のあるところで拝むと五割増しくらいでキモイな、こいつ。




「BUMOOOOOOOOOO!」



 そして同様の事が、奴の相方にもいえた。




 全身を覆う体毛は真黒色。


 ほとんど全裸に近いその巨躯のいたるところに、おびただしい数の顔が実っている。


 肩に二つ。腕に二つ。腿に二つ。脛に二つ。胴体には団子の様にならんだ三つの顔。背中に至っては、何個顔があるか分からない。



 悪鬼。こいつもこいつで、SAN値をゴリゴリ削ってくる出で立ちをしてやがる。




「我は死魔アスト―・ウィザートゥ、汝ら罪人に試練を課す者なり



 三番目に現れたのは十層の番人こと死魔さんである。



 二メートル五十程もある高い身長、けれどもそこに肉と呼べるようなモノはほとんどなく、やせ細った骨と薄い皮、そして風にたなびく白色の包帯だけが奴の身体を支えていた。

 今日も今日とて厨二感満載な死魔さんは、果たして試練補正のない状態でどこまで戦うことができるのだろうか。個人的には一番注目しております。





「KERYYYYYYY!!」




 そして最後に現れたのは“覆雨怪鳥”カマク。



 不健康そうな紫の体毛。


 人間を片足で掴めそうな程の巨大な体躯。


 全ての生物を心の底から見下しているかのようなふてぶてしい顔立ちは、今日も今日とて健在だ。




「なんかさ、いざこうやってボスさん達が集まっている姿をみていると、ちょっと感慨深いものがあるね」

「だな」



 頷きながら、闘技場に現れた四体の中ボス達の姿に目を細める。



 懐かしくはないし、奴らに愛着なんて湧くはずもない。


 白鬼と悪鬼は、キモいだけだし、厨二ミイラもカッコよさよりも不快感の方がわずかに勝るデザインだ。カマクは……目が気に入らん。明らかに視線でこちらを侮蔑してやがる、憎らしいったらありゃしない。



 そもそも、階下に現れたあいつらは、オリジナルでもなんでもない上に、余計な弱体化補正まで入ったパチ物だ。

 要するにガワが似ているだけの赤の他人。たとえどんな想いを寄せようとも、誰にも、どこにも届かない。





「ここに来るまでに、いろんな事があったよな」

「あったねぇ」



 …………だけど、それでもこいつらは俺達の冒険だったのだ。



 暗がりの中戦った、初めての中ボス戦。

 前人未踏に挑んだ十層の試練。

 十五層に至っては、色々ありすぎてとても一言では言い表せない。



 

 俺達の胸を締めつけるこの感傷の正体は、おそらくある種の寂しさなのだろう。


 ここを抜ければ、後は最終階層守護者戦を残すのみだ。

 厳密には二十一層から二十四層までの通常フィールドが残っているが、空飛ぶ馬車と最強のマップ兵器をようする俺達にとって、そんなものは物の数にも入りはしない。



 勝つにせよ、負けるにせよ、最終階層守護者との戦いが終われば常闇の冒険に区切りがつく。



 ボスラッシュとは、いわば送別会のようなものなのだ。最後のボスと戦う前に、これまで戦ってきたボスキャラ達と再び矛を交えて旅の思い出を振り返る前向きな別れの儀式。




「凶さん、肩貸して」



 俺はなにも言わずに望むものを差し出した。


 こつり、と遥の頭が肩に当たる。シトラスの爽やかな香りがふわりと鼻孔をくすぐった。




「ごめんね、凶さん。あたしもう二度と、あんなこと言わない。どんなに相手が物足りなくても、ちゃんとお別れする」

「……今からでも遅くはないと思うぞ」

「ううん。黒騎士のオジサマの提案を受け入れちゃった時点で、あたしがあの場に立つ資格はないよ。だから、次の機会に」

「そっか」



 遥がそう思うのであれば、そうするべきなのだろう。だから俺はそれ以上何も言わなかった。



「ハルカは、はつじょーき」

「ユピちゃん!?」



 でもユピテルはなんか言ってきた。









 黒騎士が動き出したのは、それから間もなくの事である。





「第五天啓展開、<大火ヲ焦ガセヴェスペル我ハ裁ク加害者也ティリオ>」




 短い現界詞スペルを介して黒騎士の両手にそうされたのは、赤と黒を基調とした巨大機関銃。

 長い銃身と大きな口径から察するに到底人の持ち得るような代物ではないはずなのだが、旦那はそいつを難なく持ち上げた。



 銃口が敵を定め、安全装置が外れ、殺意のこもった左手が躊躇なく引き金とキスをする。



「散れ」




 そして次の瞬間、闘技場は地獄絵図と化した。



 絶え間なく流れる銃撃音、闘技場に舞い降りた再現体達を無慈悲に穿つ深紅の閃光。



 そう、<大火ヲ焦ガセ、我ハ裁ク加害者也>から発射される弾丸は、加工された金属ではない。

 の天啓から放たれしモノは、その全てが特別な霊力を纏った死の光。


 即ち




「光線銃なんだよ、アレ」



 俺の解説に遥がきょとん、と首を傾げる。



「光線銃って……ビーム飛ばしてるってこと?」

「正しくはガス状にした霊力を内部の動力装置でプラズマ化させた後、特殊な回路を通じてエネルギー弾としての形状を整えることで発生する」

「ごめん、よくわかんない」

「――――だよな、うんビームを飛ばしてるんだ」



 それだけ分かれば、この天啓の大半の能力には説明がつくし、下手な蘊蓄うんちくを語ったところで煙たがられるだけだろうから、俺は早々に話を切り上げた。


 

 ……しかし流石さすがは黒騎士、まるで容赦がない。



 中規模ダンジョンの中ボス相手に光線機関銃型の天啓ブッパとか、隙がないにも程がある。



 おかげで常闇の思い出達は、出現から三十秒を待たずして既にボロボロだ。


 

 既に白鬼と悪鬼は蜂の巣となって退場、死魔の細長い身体は見るも無惨に四散して、余命はどれだけ盛っても後数秒。



 そして残るカマクは



「ねぇ、凶さん。あの鳥さんって確か熱に強いんだよね」



 肩にもたれかかっている遥からの問いに首肯で返す。



 カマクは、自身が負った傷を炎などの熱現象に変える事ができる。その際に熱エネルギー系への耐性と、自身の熱攻撃を底上げするバフがかかるはずなのだが




「KERY……YYYYYY!?」



 再生が起こらない。その巨大な翼は深紅の光に焼かれ、穿うがたれ、かされて、為す術もなく大地へと堕ちていく。



「遥さんの目が節穴じゃなければ、普通に効いているようにみえるんだけど」

「普通にんだよ」





 それこそが<大火ヲ焦ガセ、我ハ裁ク加害者也>の持つ特殊能力『反火治アンタレス』に他ならない。




「耐性貫通と自己治癒能力の阻害、つまり敵の耐性を突き破って攻撃できる上に、一ヒット判定で回復力を弱める効果があるのさ、あの弾には」

「うわっ、えぐい」

 


 俺の言葉に、遥が美貌を引きつらせながら反応する。

 気持ちはよく分かる。毎分数千発の発射速度で放てる光弾の一つ一つが、貫通持ちの回復デバフ持ちとかやってらんねぇよな。



 多分、遥の蒼穹やシラードさんクラスの高位熱術耐性持ちじゃないとまともに防げんぞ、アレ。











「終わったよ」





 そうして黒騎士は、寸分のとどこおりもないままに四体のボス達を葬り去った。



 いやはや、貫禄の安定感だ。中規模ダンジョンのボスラッシュを、こうも簡単にさばかれるとは。



 しかも討伐タイムがまたすごいの。三十八秒。一体辺り十秒もかかってない。黒騎士マジぱねぇ。




「ふむ。そんなものか。存外、怪鳥討伐に手間取ってしまったようだ」

「いやいやー、大したものですよオジサマ、あたし達だったらもっとかかってたもの」

「おじじは、がんばった」



 黒騎士の感想に肯定的な言葉を投げかける女性陣。

 良かった。なんだかんだでまとまって――――





「……いや、それはそうだろう。お前達と私とでは冒険者としての次元レベルが違う」

「「は?」」





 まとまって?



「あの、旦那。いきなりどうしたのさ」

「どうもこうもあるまい。事実を言ったまでだよ。私はそこの娘達よりも迅速に奴らを狩った。故に、私の方が冒険者として優れている、何も矛盾はあるまい?」



 矛盾はないけど、ヘイトが急上昇中だよ! 何、急に中学生みたいなこと言いだしちゃってるのさ!?


 というか、そんな事言いだすと……




「ねぇ、オジサマ。確かに貴方は強いけれど、あまりあたし達のことを舐めないでくれるかな?」

「ワタシなら三十秒以内に狩れる」




 ゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうな程迫力のある声で、旦那に反論する女性陣。

 ほーら、みろ。急転直下でギスギス展開だ。ていうか、ウチのお嬢様達の沸点ふってん低いなオイ。




「な、なぁ旦那少し落ち着こうぜ」

「私は落ち着いているよ、リーダー。むしろ、錯乱気味なのはあちらの方さ」



 そこで黒騎士は一旦、言葉を区切り「まぁ、もっとも」と肩をすくめながら続く言葉を言い放った。




「出来もしないことをつい出来ると言ってしまうのが子供というものだ。君達の精神は年相応だよ。すくすくと成長している証拠だ」



 闘技場の中心で、ぶちりと何かがはち切れた。しかも二重奏。









「なぁ、旦那。一体どういうつもりなんだい?」



 闘技場の観客席で、無惨に斬殺されていく様を見やりながら、俺は隣の黒甲冑に問いかけた。




「なに、少し彼女達に発破をかけてやっただけさ」

「煽ったの間違いでは?」

「ニュアンスの違いだよ」

「物は言い様っすね……」




 けれど、ウチの子達の闘争心に火がついたのは確かなんだよなぁ。



 眼前の遥さんは物凄い剣幕で常闇の思い出達をシバキ倒しているし、その様子を入場口からじっと眺めているお子様の目もギラついている。



 女性陣の口から「もう一回二十層を攻略させてくれ」と懇願された時は、耳を疑ったが、まぁ結果オーライというやつだろう……多分。



「チームのモチベーションを高める方法に絶対の正解はない。規律、義理人情、承認欲求、金銭的インセンティブ……あらゆる動機づけは、対応する人間の色によって正にも誤にもなり得るものさ」

「ウチの場合は、それが負けん気だと」

「少なくとも、彼女達には覿面てきめんだったな」



 黒騎士の旦那の言い分に妙な納得感を覚えてしまう。

 どっちも心根の部分で気が強いもんなぁ。




「……悪いな、嫌な役を押しつけて」



 活気のないパーティメンバーに発破をかける、本来であればそれは俺がやらなければならない役所だ。それを旦那は自ら買って出てくれた。結果として自分が泥を被ることになるのもいとわずに、である。





「案ずる必要はない。組織を円滑に動かす為には、多少の刺激も必要だ。そしてその役割は、リーダーでないものが負うべきだと私は考えている」




 そんな事を旦那は平然と言ってのける。




「それにこれは、私の為でもあるのだよ。彼女達に下手なあなどぐせがつけば、未来の私が苦慮くりょする可能性がある」

「それって……」

「あくまでも仮定の話ではあるがね。私がこのパーティーに身を置くか否かの決断は、いずれまた。……しかし、そうさな」



 紫色の空に、機械仕掛けの呼吸が舞いあがる。




わずらわしい損得勘定を除いた個人的所感としては、とても心地の良いパーティだと思う」




 目が飛び出るのかと思った程に俺の心は驚き、震えた。



 あの黒騎士が、俺達の事を褒めている。

 ゲーム時代の彼を知る者ならば、きっと誰もが耳を疑った事だろう。

 今際の際まで孤高を貫き通した彼から、こんな言葉をたまわる日が来るだなんて!




「すごく光栄だよ、ありがとう。一生の宝ものにする」

「……自分でいうのもなんだが、大それた事は言ってないぞ」




 いいの! キュンとくるポイントは人それぞれなの!





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いつも、沢山のコメントありがとうございます。

最近、コメント返信の時間が取れず、中々レスポンスが出来ず、申し訳ありません。

だけど、皆さんのコメントは全て読ませて頂いておりますし、またものすごく力を貰ってます。

三章後半の追い込みの為、しばらく返信が出来ないかもしれませんが、皆さんの想い(特に閑話での熱い紳士魂)はしっかり届いております。本当にありがとうございます。今後とも、末永く続けていけるように頑張ろうと思いますので何卒よろしくお願い致します

( `・ω・´)ノ ヨロシクー



※追記

誤字脱字報告をして下さる方へ


いつもとてもお世話になっております。

誤字脱字報告本当に助かります。

修正後は、チェックの意味も兼ねてコメントを消させて頂く事がありますが、これは修正した文章と未修整の部分を分けるために行っているものですので他意は一切ございません。

今後とも、当作品に何か不備がございましたらガンガン突っ込んで下さいませ

( `・ω・´)ノ ヨロシクー


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