ぼっちな主と彼が起きているときは消える家来達とおっさん

いまノチ

第1話ひとりぼっちなご主人様の1日

午前0時。屋敷の主が目を覚ます。

もうすぐ13歳を迎える主、レイラルドはその翡翠色の目をパチパチと瞬かせた後、大儀そうに起き上がる。

夜中も真夜中の時間であるが、部屋には明かりの魔道具が灯っている。これは別にずっと点いている訳ではない。彼が寝る前は消えていた。

レイラルドはぐっと一つ伸びをしてから、サイドテーブルに置かれた紅茶カップを手にする。

ほんのりあたたかな紅茶は、彼の目覚めに合わせて入れられた物だが、紅茶を入れた人物の姿はこの部屋に見当たらない。

それを疑問にも思わない。当たり前だからだ。

ベッドから下りて、先にトイレを済ませた後、洗面所に向かい顔を洗い、歯を磨く。

用意されている服に着替えると、鏡台の前に行き櫛で髪をとかし、身嗜みを確認する。

前に寝間着のまま、髪もボサボサで過ごしたら、家来に「我々は見てますよ」とのだ。仕方なく身嗜みを整えている。

部屋から出て、一階にある食堂に向かう。廊下の明かりの魔道具も全て灯っている。食堂も当然明るく、湯気の立つ食事が置かれている。

席に座ると、祈りの文言を唱えて食事を摂る。前に祈らずに食べたら家来にちゃんとするように

黙々と、幼い頃に教わった通りのマナーでカトラリーを使い食べ進める。

食べ終わった後、食器類をワゴンにのせて厨房へ行き、水が張られた流しに食器を沈めると、ぽつりと「美味しかったよ」と呟いてそこを後にした。


2階の書斎に行くと、カーテンを開ける。

外はまだまだ暗い。星が燦然と輝いているのをじっと眺めた後、机に置かれた日記帳に目を通す。


昨日は特に変わった事はなかったらしい。

今日御用聞きの商人が14時に来るらしい。何か欲しい物があればリストアップして欲しいとの事だ。


特に欲しい物は無い。前回新しい本を数冊頼んだので、それが届けられたらいい。その旨を日記帳に書くと、インクが乾いた事を確認して閉じた。

はぁ、と一つ溜め息を吐き出した後、日記帳の隣に置かれていた今日の課題に取り掛かる。


屋敷は、静かだ。

主以外誰もいないかの様に。




休憩を何度か挟んで課題を終わらせると、外は明るくなっていた。

うーと伸びをした後、書斎を出る。


庭に出て、木剣を素振りする。

黙々と、黙々と。

昔は、もう少しこうしなさい、ああしなさいと言われながら行っていたのに、今は誰の声も無い。

日記帳にはああしろ、こうしろと指摘が書かれているが。


広大な敷地の、大きな屋敷。

自分の息遣いと、木剣が空を切る音だけが響く。



ふう、と一つ息を吐き出して、タオルで汗を拭うと屋敷の中に戻る。

コップ一杯の水を飲んでから、厨房の冷蔵庫(魔道具)からあらかじめ作られた食事を取り出す。魔道具でそれを温める。

前に温めないで食べたら、翌日料理人から苦言が

面倒なのでここで食べたいのだが、以前厨房で食べた際、案の定だったのでちゃんと食堂で食べる。


黙々と食べ終えると、《目覚の食事》と同じように食器類を流しに沈める。

本当は洗いたいが、駄目だとのでやらない。洗い方もわからない。下手に手を出さないほうがいい。


時計を確認して、部屋に戻る。

洗面所で歯を磨いて、その後トイレを済ませる。


ソファーに座り、テーブルの上の本を開く。栞が挟まっている場所は、確かに昨日ここまで読んだ記憶がある。


流行りだという小説は面白い。

集中して読んでいると、ふと意識が遠退く。











体の力が抜け、前のめりに倒れそうになる主を、従者の青年は抱き止める。

主の手から本を回収し、主が見ていた頁に栞を挟む。後数頁で終わりそうだったのに、時間切れだったようだ。


「トーリ、レイラルド様を浴室に」

「分かった」


体躯の大きな護衛の男に声をかけて従者は主の身体を託す。


メイド達がリネンの交換や部屋の掃除に取り掛かる。


深く眠っている主を壊れ物のように扱いながら、洗髪や洗体を行う。終ればマッサージをしながらのスキンケアを念入りに行い、寝間着を着ていただく。

準備の整ったベッドにそっと寝かせる。

小さな寝息を立てている主の頭を優しく撫でた。


「おやすみなさいませ、我が主」





願わくば、よい夢を。











これが、王孫レイラルドの1日だった。

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