第45話 親子会談

 三雄は川中島がどうなったかを恵子に伝えました。


「そう、そうなったの。それはもう歴史が変わっているわ。真田源五郎昌幸が川中島になんてあり得ない。貴方が歴史を変えたのよ」


「そうかも知れない。でもブーブルを見ても歴史は変わっていないのはなぜだ?」


「多分時間が違うから。この世界の過去だとしてもこの時間の世界の過去ではないのかも。わかりにくいよね。要は過去は変えられないのよ、何があっても。だってもし貴方の先祖が死んだら貴方はここにいない事になるでしょ?そうはならないの。勝頼ちゃんの時代で何が起きても今の私達には影響は出ないってこと」


「だったら過去が変わってもいいんじゃない?勝頼に味方してよ」


「そんなに簡単に割り切れない。だって私は歴史学者よ、変わった歴史に興味はないの。正しい歴史に興味があるのよ。やっぱりこれ以上関わると私がおかしくなる。あなたがこれ以上勝頼に関わるなら別れるわ」


「い、いや、おい。何もそこまで」


 ガチャン、と電話が切られました。そんな事言ったってここまできて放っておけるわけないでしょ。ここで勝頼を見捨てる俺の方がいいって言うのかよ、おかしくね?その晩は久し振りに自棄酒を煽る三雄でした。





 三雄は定期ミーティングに諏訪にきていますが勝頼は現れません。これで3ヶ月連続でスカされています。前回は川中島が終わって古府中へ呼び出されていた時でした。


「無事なら良いが」






 勝頼は岡崎から駿河、そして信玄の隠し湯と移動していて諏訪へは戻っていません。その為に三雄との定期ミーティングが延び延びになっています。そしてついに隠し湯に義信が現れました。この数日前に飯富兵部が新屋形に呼び出されました。何かと思って行ったらとんでもないことに。事情を聞いた兵部は頭を抱えながら、


「お方様、お屋形様に逆らってはいけません。今川家との同盟は大事ですがお屋形様は太極を見ておられます。お屋形様を亡き者にする事など出来ませんし、何より家臣が義信様についていきません。親を殺すなどと」


「父上も祖父上を追放したではないか。わしには同じ事が出来ないと言うのか?」


 義信が声を荒だてます。兵部は、何言ってんのこいつ、と思いました。あの時は家臣が皆そうなる事を願っていたからうまくいったのだ。今の義信様が同じ事をやってもついていくものなどいるまい。なぜそんな事がわからないのか?


 飯富兵部は義信の傅役です。こんな風に育ててしまったのは自分の責任と、信玄に心の中で詫びました。そして義信には心で反発しても声に出して言う事が出来ませんでした。


「義信様。お屋形様と一度じっくり話し合ってみてはいかがでしょう。お屋形様は自分のお子を呼び出して殺すようなお方ではありません」


「罠ではないのですか?義信が殺されるような事があっては」


 また三条の方が割り込みます。


「ですからお方様。そのような事はありません。それならば切腹を命じれば良いのです。わざわざ闇討ちのような事をする必要はありませんので。お屋形様は本心から義信様と語り合いたいのです。それに呼び出されて行かないとなるとそれこそ疑われますぞ」


 これが最後の機会かもしれない。義信様がお屋形の心を理解できれば解決するのだ。兵部はくれぐれもお屋形様のお考えをよく聞き従うようにと話して帰っていきました。


 於津禰は、今川家の事しか考えていません。早く義信が家督を継がないと今川家が危ないと寿桂尼に言われています。飯富兵部が帰ったあと、


「義信様。武田は今川と同盟を結んでおります。同盟を破り駿河を攻める事にならないようお願いいたします」


「わかっている。そのような義に反する事は出来ない。義がなければ世間はついては来ない」


 於津禰は夫婦でイチャイチャしながらしつこくすり込み作業に勤めました。信玄が今川を攻めるのなら追い出しましょうと。




 そして、信玄の隠し湯に義信が現れたのです。到着するなり、


「勝頼が来ているのか?なんだあいつ?」


 家来から聞いて不信に思います。ただでさえ不信感満載なのに。ところが勝頼は呑気に、


「兄上、お久しぶりでございます」


「ここで何をしているのだ?」


「はい。穴山殿と三河へ行った後駿河を旅しまして、偶然ですが氏真様と寿桂尼様にお会いしたのです。その報告に来たところゆっくりしていけと言われついつい長居をしてしまいました。実は父上とゆっくり話をしたのは初めてで色々と勉強になりました」


「勉強になったとな。それに駿河へ行っていたのか?何か言われたのか?」


「寿桂尼様からは於津禰様の事を聞かれたのですが、まだお会いした事がないとお伝えしたところ驚いておられました。それがしは伊那にいて古府中へはほとんど行った事がないと説明をしてご納得いただけました」


「武田との同盟の事は何か言ってなかったか?」


「同盟というより氏真様の事を心配されておりました。女衆と蹴鞠というものをやっておられましたがあれで国が治るものなのでしょうか?」


「義兄上は武よりも文に長けておられるのだ」


「なるほど。あ、父上がお待ちです。それとそれがしの初陣は関東攻めだそうです。それでは!」


 勝頼は徳を連れて伊那へ帰っていきました。そして信玄、義信の会談が始まりました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る