第14話 桶狭間の戦い(大石恵子想定)

 今川義元という武将がいます。元々は今川家の三男に生まれ、相続権はありませんでしたが、色々とありまして父親と兄がほぼ同時に亡くなり、今川家を継いだのです。それからは内紛を収め、味方をしてくれた者達を取り立てまして駿河、遠江の2カ国の守護として君臨したのです。海道一の弓取りと呼ばれておりました。武田晴信の姉を正室にして甲駿同盟を結んでおり、武田家とは表向き仲が良い事になっております。


 戦国の時代、今川義元は領地拡大を行います。駿河、遠江だけでは満足せず、三河、尾張にまで手を広げました。三河松平家を服従させ織田信秀、あの織田信長の父親ですね、の軍も退けます。その後も織田信秀が死んだり、松平元康、後の徳川家康さんです、を人質に取ったり上手いことやっておりました。


 上杉、武田の川中島の戦いでは仲裁を行なったり、北条、武田と婚姻関係を結んで三国同盟を設立して背後に脅威がなくなりました。今川義元ここにあり!という感じで世界は俺の物だ状態です。そして那古野攻めを決意します。



 この時、すでに今川義元の軍師だった雪斎さんが亡くなっていました。川中島も三国同盟も雪斎さんがいたからなんとかなったのです。今川義元をたしなめる人が居なくなってしまいました。そしてなぜか今川家は飛ぶ鳥の勢いを持って上洛を目指し、那古野攻めが始まります。時は1560年、有名な桶狭間の戦いへと進んでいきます。




 軍師は言いました。山本勘助は、今川義元の配下でもあったと言われていると。今川家、武田家双方の細作であったと後の世には伝わっていると。


 軍師は言いました。桶狭間の戦いは日本の歴史で非常に重要な役割を持っていると。忍びを派遣して事の詳細を教えるようにと。


軍師は言いました。ここでは情報収集のみ、手を出すなと。




 三雄は恵子に桶狭間の真相を知る絶好のチャンスだとしつこくうるさくいわれ、勝頼に指示をしました。確かに歴史をそこまで詳しくはない三雄でも桶狭間と関ヶ原位はわかります。織田信長が少数の兵で今川義元の首を取った大事件、そしてそこから織田家が大活躍して天下統一の一歩手前まで行く事を。


「なあ恵子、だったらここで信長が死んだらどうなるの?勝頼には有利なんじゃない?」


「武田家にとって桶狭間はラッキーだったのよ。武田信玄は海が欲しかったの。人間が生きるのに必要な物って何?」


「お金!」


「それもあるけどね。塩よ。武田家は山梨県でしょ、塩は他国との貿易で買うしかないの。儂は海が欲しい、とかってテレビで見なかった?それとさっきあんたが言ったお金ね。武田は金山を開発してそのお金で戦をしてたのよ。ところが金の産出量が落ちてきたのがこの頃なの。今川の領地には伊豆と安倍川上流に金山があってね。喉から手がでるほど欲しかったのだけれど、でも今川と協定を結んでいたからどうしようもなかったの。で、質問の答えだけど、桶狭間で信長が負けていたら今川は勢力を拡大して武田家をいずれ蹂躙したわね。つまりあんたのご先祖様の勝頼ちゃんも信長でなく今川に滅ぼされていたか、配下になってると思う。今川の娘が武田の長男に嫁いでいてね、長男傀儡作戦発動してたんじゃない?」


「なんか歴史って不思議だね。あの時歴史が動いた!って言うけど必然だったのかもね」


「でね、その桶狭間なんだけど」


 恵子は語り始めました。世に言う桶狭間の戦いは今川義元が桶狭間で休んでいる時に、織田信長の奇襲によって命を落とし、それに応じて松平元康が独立して織田側に味方してというように伝わっております。ですが、本当にそうだったのでしょうか?恵子は歴史を学んできましたが納得がいっていませんでした。そして、世の中に多く伝わっている織田信長側ではなく、今川義元側から調査をしました。そして立てた推論を話し始めます。


「なぜ今川義元が上洛を目指したのか?なのよ、ポイントは。最近の研究では上洛が目的ではなく織田家を滅ぼすのが目的だったと言われてるの。松平元康と織田信長の関係に疑いを抱いていた、松平が裏切る危機感があった、だったらと松平家を捨て駒にして織田家とぶつける算段だったのよ」


「上洛が目的じゃあなかったって事?」


「上洛する意味がない、と言うかわからないの。仮に織田を打ち破って進むとすると美濃にはマムシと言われた斎藤道三がいる。今川軍は2万と言われているけど補給の問題もある。簡単ではないし、そこまでしてこのタイミングで京に登る意味がわからない。確かに北条と武田と三国同盟を結んだから当面敵の心配がないから絶好機ではあるんだけど京まで行くつもりだったとは思えないの。これを機に尾張を手中にしてしまおうというところが妥当ね」


「じゃあ、信長を討つのが目的だったんだ。なのに不意打ちを食らっちゃうなんて間抜けだよね」


「そうなのよ。だからおかしいの。裏があるはず、それを勝頼ちゃんに調べさせて欲しいのよ。ここで歴史を変えない方が武田家のためよ。ベストは今川義元、織田信長、松平元康がここでみんな死ぬ事だけど、それは無理でしょ」


 凄い事言うね、この人確かにそれが武田家にとってベストかもしれない。そうなったら北条と組んで領地山分けだね。ですが、どうやって実現するかというと今の武田家には無理そうです。


「私の推論だけど、きっとこうね」


 恵子は多分こうだったんじゃないかと語り始めた。

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