45話。神剣ユグドラシル弐式

「リル、ヤツはコレットを殺すつもりだ。全力で叩き潰すぞ!」


「コレットを殺す……? リル、許せない!」


 神獣フェンリルが牙を剥き出しにして、唸る。気の弱い者なら、それだけで卒倒してしまいそうな殺気が放たれた。

 だが、親父は涼しい顔をしている。


「ほう。凶暴な神獣フェンリルがエルフの王女と友誼を交わしていたのか。これは驚きだな」


「親父、ひとつ言っておくぞ。リルは好きこのんで、王国の都市を破壊したんじゃない。何者かに操られていたんだ!」


「なに?」


 俺の訴えに、親父は目を瞬いた。


「ソイツは、親父にコレットを討つよう依頼したディアドラである可能性が高い! そんなヤツの手先になって侵略戦争に加担することの危険性が、親父にはわからないのか!?」


「あの女が、神々が施した封印を解いて、フェンリルをコントロールしたとでも言うのか? バカな。それは人の域を超えた所業だ。そんなことが、できるハズがない!」


 親父は言下に否定した。


「うん、ちょっと信じられないね。神獣を精神操作なんてさ」


 ミュシャも日傘をクルクル回転させながら同意する。同じマインドコントロール系統の能力を使うミュシャには、その難しさが理解できるのだろう。


「もし本当だとしても今は関係ない。初めに言ったぞ。阻止したければ、力尽くでこいと!」


 親父は腰を落として【雷槌(ミニョミエル)】を構えた。

 あの体勢は闘神ガイン、最大最強の技を使うつもりだ。親父から大気を震わせる膨大な闘気が噴き上がる。


「あはっ。マスターの本気が見られるなんて、何年ぶりかな? アッシュ、頼むから死なないでよね」


 ミュシャが巻き添えを恐れて、後方に下がった。


「ご主人様! わたくしも一緒に戦います!」


 コレットが馬より降りて、俺の隣にやって来た。


「コレット……ああっ、頼む!」


 一瞬、コレットを避難させようかと思ったが、強い覚悟を宿した瞳を見てやめた。

 コレットはゼノスと戦った時も力を貸してくれた。リルと同じ、俺の頼れる仲間だ。


「【筋力増強(ストレングスブースト)】【対物障壁(プロテクション)】【倍加速(ヘイスト)】【視力強化(アイサイト)】【状態異常防御(ステータス・レジスト)】!」


 コレットは知る限りのバフ魔法をかけてくれる。俺の身体に爆発的な力がみなぎった。


「闘神ガイン様、わたくしたちが勝ったら、わたくしとご主人様の結婚を許してくださいますか?」


「うむ。よかろう」


 どさくさに紛れて、コレットが親父にトンデモナイことを承諾させた。

 命を狙われているというのに、コレットはいつも通り、というか豪胆だな……


 いや、俺に触れる彼女の手は震えていた。表面上は気丈に振る舞っているが、やはりコレットも闘神は恐ろしいらしい。


「コレット、後ろで俺を援護してくれ。ケリをつける」

 

「はい、ご主人様、ご武運を!」


 俺はコレットを安心させるために、そっと背中を叩いた。

 コレットの魔法は、いつも以上の効果を発揮していた。俺の勝利と無事を願うコレットの強い想いが、バフ魔法を通して伝わってくる。

 かつてない威力の攻撃ができそうだった。


「リル、アレをやるぞ、合わせろ!」


「うん! あるじ様!」

 

 俺は【神剣ユグドラシル】を構える。

 ずっと考えてきたことがあった。【世界樹の剣】の究極形態は、オリジナルである【神剣ユグドラシル】なのか?


 【神剣ユグドラシル】を俺の身体に合わせて、もっと扱いやすいように【植物王(ドルイドキング)】で変化させられたら、さらに攻撃力をアップできないか? 俺にとっての理想の武器とは何だ?


 その答えとなる究極の神剣が、俺の手に出現した。植物武器化の能力によって、さらにさらに攻撃力を上昇させるべく微調整を繰り返してカスタマイズした姿──名付けて【ユグドラシル弐式】だ。


「ま、まさかっ、【世界樹の剣】がさらなる進化を!?」


 コレットの息を飲む声が聞こえる。


「ぉおおおおお──ッ!」


 俺は必殺の【天羽々斬】(あめのはばきり)を放った。

 リルも咆哮と同時に、大地を焦がす灼熱の猛火を発射する。

 そのふたつは合わさって、相乗効果的に威力を高めて親父に迫った。


「おもしろいッ!【雷神の鉄槌(トールハンマー)】!」


 【雷槌(ミニョミエル)】が真っ赤に焼け、視界を白く染める特大の雷撃が放たれる。

 かつて、神々の中でも最強と謳われた雷神トールが使ったとされる必殺の一撃。

 共に神をも滅ぼす強烈な一撃同士がぶつかり合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る