第13話 母さんの鏡
夕食は大勢でわいわいと食べたので、彩花も美空も笑いっぱなしだった。
妖怪、人間の、種族の垣根を越えて総勢10名で食べる御飯はお祭りみたいに賑やか。
メインは手巻き寿司とシグレが持って来てくれた肉じゃがにしたんだけれど、妖怪のみんなは上手く海苔が巻けなくて、僕は笑いを堪えるのに必死だったよ。
虎吉とポン太は米粒を顔や手につけまくっているし、琥珀さんと酒呑童子は太巻きになったりしてる。
豆助が一番上手に手巻き寿司を作れたので、気づけばみんなの分を頼まれて忙しく作ってあげていたけど、頼られるのが嬉しそうで張りきっていた。
シグレはサクラさんの横に座って緊張しているのが、微笑ましくって。僕にもいつかそんな風に恋をした相手にドキドキする日が来るのだろうか。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
お風呂に入る順番でガヤガヤとしながらも、女性陣が先に入ることで話し合いが落ち着いた。妖怪覚の琥珀さんと酒呑童子さんは馬があったらしく、お風呂の待ち時間は二人で漫画について熱く語り合っていた。
おじいちゃん家は大家族の家庭みたいに大騒ぎだ。みんながみんな、血がつながっている訳ではないし、人間と妖怪で種族も違う。だけど、そこには絆と確かな温もりがあって。
僕の部屋でシグレと僕は眠ることにした。布団を並べてシグレはあぐらをかいてその上に座った。
「なぁ、雪春。じいちゃんから預かってきた物があるんだ」
「んっ? 和尚さんから?」
シグレはパジャマの胸元から二本の扇を出してきた。
「大事な物だからさ。まさに肌見離さず持ってた。はいコレ、雪春の分」
シグレから渡された扇を両手で受け取ると、扇は意外にもずしりと重かった。
「扇のわりには重くない?」
「ただの扇じゃないんだ。開けてみてくれ」
「あぁ、うん」
僕がシグレから受け取った扇を開くと、不思議なことに一点の曇りなく光る鏡になった。
「鏡になった……」
「その鏡はかつて雪春達のお母さんの梓さんが魔除けに持っていたんだって」
「母さんの鏡っ?」
「そう。特別な力があって扱いも難しいから満願寺で預かっていたんだ」
「どうしてこれを僕に」
「鬼の大嶽丸は間違いなく蔵さんを狙ってくる。梓さんの鏡はかつて暴走した九尾ハクセンから色んな人達を匿い守ったんだ」
「……対抗策ってこと?」
「そうだよ。雪春は身を投げ出してでも人を助けてしまうだろうから、じいちゃんが
「
「ずいぶん前に蔵さんが梓さんにあげらしいよ」
蔵之進さんが母さんに……。僕らが産まれる前、母さんや父さんにも妖怪達と過ごした日々があって。
「雪春のお母さんの梓さんは、この扇桜鏡で家族を守ってきたのかも知れないな」
「僕達家族を……」
「でさ、思うんだけど、うちのじいちゃんも甚五郎さんも、あやかしや妖怪が見えるだけじゃないんだよね」
「えっ?」
「じいちゃん達さ、時々、使うだろ? 変な術みたいなの。孫の俺達だって何か出来そうな気ぃしない?」
シグレは目をキラッキラさせて僕を見ている。いい事思いついたというシグレの顔は生き生きとしていて、僕の気持ちまで奮い立たせるのに充分だった。
「ワクワクするよな。雪春、俺と明日から特訓しない?」
「特訓? 良いけど受験勉強は……」
シグレは肩を組んできて猫なで声で囁いてきた。
「もちろん、受験勉強もする。雪春ぅ。俺は強くなって、サクラちゃんに格好いいとこ見せたいんだ」
「わ、分かったよ」
シグレは鼻息を荒くして「恩に着る。雪春も一緒にだからな。絶対だぞ」と付け足した。
特訓ってどんなものだろう?
僕だってみんなを守りたい。だけど僕は戦って傷つけ合うのはイヤだなと思っている。
でも、大嶽丸がもし大切なみんなの魂を奪おうとするならば、僕は立ち向かうべきだ。
相手がいかに強かろうと、みすみす誰かを失うのを黙って見ているわけにはいかない。
ふと、視線を感じて窓の外を見ると、蔵之進さんが、桜吹雪を起こしながら空中で舞を踊っていた。
それは僕らを見守るように。
「蔵さん、結界を張ってくれてるんだ」
「……蔵之進さん」
蔵之進さんの舞を眺めているうちに、僕とシグレはまぶたがとろんとしてきて、誘われるままに眠りに落ちていた。
つづく
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