第10話 溶岩庭園で
火の鳥女将に案内された溶岩庭園は洞窟だった。ちっちゃな噴火している山々があって、赤くドロドロとした溶岩がそこかしこに流れている。
花火が上がる音に似た音がすると、洞窟の中が明るく色とりどりに光る。
全然、溶岩庭園は熱くはないから、火の鳥が見せている妖術なんだと思う。
火を吹く幻の山の麓には、お姫さまやお殿さま風の艶やかな衣装を着た火の鳥が数十羽ほど踊っている。
富士山の形の椅子や雲の形のテーブルが並んでいて、妖怪のお客さん達もたくさん座っていた。
「ささっ、どうぞ」
火の鳥女将がテーブルいっぱいに、洋菓子を並べていく。
「新作は『体が軽くなる様な気持ちになれる柚子ロールケーキ』ですクェ。召し上がれカー」
柚子の香りのするロールケーキは、お皿から数cm浮いていた。
「あ、ありがとうございます。ただ、僕と虎吉ではこんなに食べきれないので……」
「あらあら、それでは食べきれなかった分は甚五郎さんトコに、手前どものお菓子飛行便でお届けしますねクェ。では、ごゆるりと……」
「ありがとうございます。いただきます」
「ニャハハハッ。いただきますニャ」
火の鳥女将は工房の方へ戻って行き、僕と虎吉は柚子ロールケーキからさっそく食べ始めた。
「んーっ、美味しい」
「ニャニャッ、雪春の体が浮いてるニャンよ!」
虎吉に言われて見ると、確かに僕のお尻が椅子より数cm浮いていて、気持ちまでもウキウキしてる。
「虎吉も宙に浮いてるよ?」
虎吉はニャハニャハ笑いながら空中を漂い、手掴みでお菓子を頬張る。
「楽しくなってきたニャン」
でもすぐにロールケーキの浮遊効果は切れて、虎吉は椅子に戻って来た。
「そういえば雪春には、しておきたい話もあったのニャ」
虎吉は急に真面目な顔して、どうしたんだろう?
虎吉にしては珍しく俯きがちで。
「オイラ、思い出したことがあるのニャン。人間界に妖怪
「うん」
「オイラにはご主人さまがいて、ご主人さまには旦那さまがいたのニャ」
「虎吉が妖怪猫又になる前だね」
「旦那さまは浮気をしていたニャ。それを占い師の覚が暴いて、ご主人さまは哀しくって家から出て行ったのニャン」
「……戻って来なかったの?」
虎吉はフルフルと首を横に振った。
「思い出したのはそこまでニャ。同じ妖怪
虎吉は分かっていたんだ。
琥珀さんにどこか突き放すような態度をして距離を取ろうとする虎吉を、僕が気に掛けていたこと。
虎吉は子供っぽくて無邪気で、自分の心や気分に忠実な猫らしい猫だと思っていた。
だけど――、僕が思っているよりも、虎吉はずっとずっと仲間思いなんだなと思った。優しくて大人なんだなと気づかされた。
つづく
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