第5話 妖狐ライコウの洋服姿
「ハクセン様、準備が整いました。甚五郎殿の用意の品を荷車に載せ終わりましたよ」
店の扉を開き入りながら、聞こえた声の主は妖狐の
黒服のスーツに身を包んでハリウッド映画のエージェントさながら、ボディーガードの人みたいな雰囲気である。
「ライコウさん、いらっしゃい。今日はずいぶん服装がばっちり決まってるね〜」
「おぉ、雪春、息災か? がっはっは。ハクセン様をお守りするわけだからなぁ、服装もそれなりにしてみたのだ。この服は以前にな、人間世界の店で猫又の虎吉に洋服を選んでもらったのだぞ」
そ、そっかぁ。虎吉の見立てか。完全に虎吉の趣味に走っているな〜。ははは。
妖怪九尾ハクセンの右腕と呼ばれるライコウさんは
僕達の座る席の横に立つと、ライコウさんの体がお店の電気の灯りを遮り、テーブルや僕等に影を作り落としてる。
「ライコウ。席が暗くなった……。お前も座れ」
「ははは、申し訳ありません。では」
妖狐のライコウさんが九尾ハクセンの横の椅子にゆっくりと座ると、琥珀さんがクスクスと笑った。
「まさか、あやかし界で
「へえ〜? そんなに不思議なことかな。あっ、今、お茶でも淹れるね」
僕は急須にお茶を注ぐために立ち上がる。琥珀さんも立ち上がりかけたけど、僕は「一人で大丈夫です」と厨房に向かう。
「雪春くん、妖狐は人間で言ったらカリスマ、あやかし達の憧れでもあるんだよ。中には神の眷属になる者もいるからね」
「へぇ、そうなんだ」
「琥珀、あまり持ち上げるな。そんなに大した事はない。ボクは泳ぎはイマイチでね。蔵之進と川泳ぎ勝負したらまんまと負けたんだ」
ハクセンったら、いつの間に蔵之進さんとそんな勝負をしていたんだろう。でも二人が仲良くなってるなら良いことだよね。
僕はお湯を沸かそうとヤカンを戸棚から出す。おじいちゃんがずぅっと大切に使っている大事な道具の一つだ。
ヤカンに水を注ごうとして、ぱかっと
「うわぁっっ!」
もくもくとヤカンの中から白い煙が、ドライアイスみたいに溢れ出てくる。
「どうしたっ!? 雪春!」
「雪春?」
「雪春くんっ、大丈夫ですか?」
「け、け、煙が、ヤカンから変な煙が出てるぅ」
僕はヤカンを指差しながら、厨房に駆けつけてくれた背後の三人を振り返る。
煙を見た九尾のハクセンの顔がさっと変わった。なぜか面倒くさそうな、しかめっ面だ。
煙が床になだれ込むと、すぐに消えていく。煙が消えた先から出て来たのは――。
つづく
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