Chapter7-2 校外学習(2)
オレの展開する【
パッと見た限りだと外傷はない。だが、大の字で寝る彼は微動だにしなかった。いや、歯を食いしばる程度の動きはあるけどさ。
勘の良い者は察せるとは思うが、アカツキが地に伏している原因はオレだ。無属性魔法【圧縮】によって、彼を地面へ叩きつけている最中なのである。
ちなみに、ただの【圧縮】だと純粋な身体能力で抜け出されてしまうので、五十くらい重ねがけした上で、
状況から察せると思うが、これは模擬戦だ。ドンパチ争った末に、オレがアカツキを捕捉したわけである。
本来は、【圧縮】みたいな単純な魔法に捕まるアカツキではない。しかし、【時間停止】のお陰で上手く事を運べたんだ。
最初こそ上手く発動できなかった【時間停止】だけど、戦っていくうちに感覚が掴めていった。行使できるのはオレの支配領域――結界や【
やはり、強者との戦闘は、かなりの経験値をもたらしてくれる。独自の研究だけでは、短期間でここまでの成長は見込めなかっただろう。実力の拮抗した好敵手の存在は、何よりも得難いものだと実感したよ。
さて。さすがに魔力が厳しくなってきた。そろそろ決着をつけよう。
オレは【圧縮】の効果範囲を狭め、アカツキの元へ近づく。大逆転されないよう、細心の注意を払いながら。
彼の隣に降り立ったオレは、【
こちらの勝利が確定したので、【圧縮】を解く。すると、ブッハァァァとアカツキは大きく呼吸を始めた。
嗚呼、圧力が強すぎて息ができていなかったのか。この魔法はそういう攻め方もできるんだな、覚えておこう。
「くっそぉ、負けた。やっぱり時間操作は卑怯だって!」
どこかズレた感想を抱いている間に、アカツキは復活した様子。寝転がった状態から飛び上がり、心底悔しそうに地団太を踏んでいる。
オレは呆れた。
「オレを卑怯って言うなら、あんただって十分卑怯だろうに。何だよ、神性強化って。オレじゃ、逆立ちしたってマネできないじゃないか」
今回の模擬戦は、元々アカツキが新魔法をお披露目したいと吹っかけてきたもの。当然、それは先の試合中にオレへと振るわれた。
神性強化。アカツキは自身のアイデンティティである“神の使徒”の要素を活用してきたんだ。文字通り“神性”を強化して己を上位存在へ格上げし、まさに次元の違う攻撃を仕掛けてきたわけだ。
次元が異なるゆえに、体術も魔法も
「そっちも魔眼なんてヒトの特権を使ってんだ。お相子だろう?」
「ヒトと神の使徒じゃ、規模がまるで違うんだよなぁ」
魔眼はヒトが人外へ抗うための術なのに、肝心の人外までも一歩先に進まれては意味がない。
……あれ? アカツキって、原作で神性強化なんて技を使ってたっけ?
「………………」
現実で聖女がアカツキに挑むとも限らないし、気にしないでおこう。どうせ、アカツキも手加減すると思う。うん、大丈夫だ、きっと。
「どうした?」
「いや、何でもない」
少しボーっとしすぎたらしい。アカツキが怪訝そうな表情を浮かべたため、
それから、話題を変えようと続ける。
「そういえば、アカツキに訊いておきたいことがあったんだ」
「訊いておきたいこと?」
「
光の大魔法師。それは魔族セプテムが、自身の主たる『西の魔王』を指した呼称だった。
大魔法司とは『魔を極め、魔の真理に到達した者。魔法を司る者』だとセプテムは語っていたが、どこまで真実かは判然としない。奴自身、そこまで詳しいわけではなさそうだったし。
ゆえに、この手の話題に詳しそうなアカツキへ尋ねた。『西の魔王』に関連する内容は、カロンの死の運命にも関わってくるため、小さな情報でも逃したくないんだ。
オレの問いを受けたアカツキは、神妙な表情を浮かべた。
「もしかして、『西の魔王』の話か?」
「知ってたのか?」
「嗚呼。といっても、残念ながら詳しくは知らないぞ。俺がこの世界に降り立ったのは、『西の魔王』が封印された後だ。長く世界を放浪してたからこそ、大魔法司って言葉を知ったに過ぎない。聞いたところによると、大昔に存在した大魔法司たちは、ある日を境に姿を見せなくなったんだとさ」
「そうか……」
アカツキなら何か知っていると考えたんだが、空振りに終わってしまった。
とはいえ、諦める選択肢はない。各地で情報を集めれば、何かしらのヒントは手に入るだろう。幸い、我がフォラナーダの人材は優秀だ。
それに、大魔法司とはアカツキが降り立つより昔――『西の魔王』封印前後の時代に存在した者だと分かった。その辺りの資料を重点に探ってみよう。
「あー、そうそう」
ふと、アカツキが何か思い出したかのように言う。
「もしかしたら、ダンジョンに何かあるかもしれないな」
「ダンジョン?」
オレは首を傾ぐ。
魔獣の巣窟でしかない場所に、大魔法司の情報があるのか? まさか、最奥に何かある?
こちらが疑問符を浮かべているのを余所に、彼は続ける。
「あそこって、この世界の力のバランスを保つための
「楔?」
「嗚呼。あれがないと、この世界はあっという間にパンクする。膨れ上がった風船みたいにな」
あっけらかんと語るアカツキだったが、その内容はとても笑えるものではなかった。
つまり、ダンジョンの崩壊イコール世界の崩壊ということだろう。『西の魔王』が世界中を呪っていることと言い、この世界の存亡は紙一重すぎないか?
オレが戦々恐々としていると、アカツキは肩を竦めて笑う。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だぜ。ダンジョンは神の創り上げたもの。俺やお前が本気を出さない限り壊れないさ」
「それならいいんだけど」
「話を戻そう。今言った通り、ダンジョンは神が創った。生半可な攻撃じゃ壊れないし、内部では結界系の魔法は使えない。何故なら、神の支配領域も同然の場所だからだ」
「結界系が使えないってことは、【
「実際に行使してみないと分からないが、【
「めんどくさ……」
オレが思わず溢すと、アカツキは苦笑いする。
「面倒くさいんだよ、ダンジョンって。俺たちでもそう思うんだから、他の人類にはそれ以上だ。攻略できてないのも当然だろう?」
「……何となく、言いたいことは察した。神の領域である前人未踏の場所であれば、『魔の真理に到達した者』なんて大仰にうそぶく大魔法司について分かる可能性がある。そういうことか?」
「その通り!」
ニッと笑い、サムズアップするアカツキ。
正直、かなり安直な意見だとは感じている。神の領域だとしても、大魔法司の情報があるとは限らない。むしろ、世界のエネルギーバランスを保つという性質を考慮すると、最奥に余計な何かを置かない方が効率的だとも思う。
しかし、他に手掛かりがないのも確かだ。ちょうど校外学習でダンジョンへ向かうことだし、ついでに最奥への調査に赴いても良いだろう。
「ありがとう。せっかくだし、調べてみる」
「役に立てたのなら良かったよ」
その後、オレたちは感想戦とお互いの魔法のアドバイスを交わして解散した。
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