Chapter7-1 事前準備(2)
夕暮れの一歩手前。とある用事があったため、オレたちは王都の別邸へと戻ってきた。フォラナーダ別邸のリビングには、いつもの面々が顔をそろえている。
一人は我が最愛の妹であるカロン。クセ気味の金髪をポニーテールに結わえた色白の美女。誰もが見惚れるだろう美貌と肉体美を有し、さらには光魔法という
まぁ、欠点がないわけではない。“些か不器用なところ”や“恋愛ごとには超鈍感”など色々あるけど、もっとも代表的な部分はブラコンであることだと思う。それは、オレへ向けられた彼女の紅い瞳に、かなりの熱量が込められている点から一目瞭然。
かつては嫁ぎ先をどうしようかなんて悩んだ時期もあったが、もはやその点は諦めている。貴族的利点や私情を考慮しても、外に出すメリットはないし。
一人はオレの婚約者ミネルヴァ。ロラムベル公爵家のご令嬢であり、五属性もの魔法適性を有する才媛。体格こそ百四十程度と小柄なものの、ツインテールに結んだ黒髪は艶やかで、顔の造詣もとても美しい。
ほぼすべての物事を卒なくこなせるミネルヴァは、間違いなく天才の類だ。しかも、その才知に溺れず、どんな強敵が立ちはだかろうと心折れない努力の天才でもある。その不屈の闘志は、オレも尊敬するところだった。
一人はオレの弟子にあたるニナ。ニナは狼系統の獣人で、茶の頭頂部には獣耳、臀部には尻尾が覗き出ている。百七十強の高身長に加え、カロンやマリナにも負けず劣らずのプロポーションを持っており、当然ながら容姿も優れていた。
また、彼女は二つ名持ちのランクA冒険者であり、世界で五指に入る剣の名手でもある。死ぬ運命に囚われていたニナを生かすためにオレが修行を付けた結果、これほどの実力を有するに至ったんだ。
紆余曲折を経て運命に打ち勝ったニナは、オレの婚約約者だったりする。
約が一つ多いって? ニナ曰く、『婚約者が結婚の約束をしたことを指すなら、婚約の予約をしたアタシは婚約約者』らしい。よく分からない感性だけど、彼女が納得しているのなら、それに従うまでだ。
オレに好意を寄せている者の中で、ニナが一番積極的だと思う。いや、他の面々もド直球ではあるんだが、彼女の場合は肉体的接触に遠慮がない。キスを度々ねだってくるし、今だってオレが顔を見せて早々に、こちらの左腕を捕まえてその豊満な胸を押しつけている。理性が試されていた。
一人は狐系獣人のオルカ。サラサラした茶のショートヘアや幼げな顔立ち、小柄な体躯と、どう見ても愛らしい女の子の彼だが、紛れもないオレの義弟だった。
彼は、八歳前後からフォラナーダの内政に関わっている知恵者で、その頭脳は転生者たるオレをも上回る。さらには魔力操作技術にも長けており、火力こそ劣るものの、実力は他のメンバーにも負けていなかった。
オルカとは血縁関係はないけど、とても良好な関係を築けている。というか、仲が良すぎるくらいだな。カロンほどではなくとも、彼も立派なブラコンなんだよね。普段見る感情の動きから察するに、たぶん……いや、決めつけは良くないか。
とにかく、彼もオレの大切な家族というわけだ。
最後の一人はシオン。 淡い青紫色の髪と翠色の目のメイドで、オレの秘書的役割を担ってくれている。また、オレへ好意を抱いてくれているヒトでもある。
彼女の正体はエルフだ。聖王国では忌み嫌われる種族ゆえに、普段は【偽装】の魔法で特徴的な耳を隠している。元は諜報員だったこともあって隠密系統の腕が達者で、何でも高水準でこなせる才知を持つ。
ただ、かなりのドジっ娘なのが玉に瑕だ。何もないところで転ぶし、ふとした拍子にミスを犯す。この前なんて書類の記入欄がすべて一段下にズレていたもの。まぁ、そんなところも可愛くはあるんだが。
ここにオレとマリナを加えたのが、普段より共に行動するメンバーだった。見事にオレへ好意を向けてくれている者ばかりで、自分がとてつもないクズ野郎に思えてきて仕方がない。
……いや、傍から見れば複数の女性を囲っている状況だし、いずれそうなるだろうから、女の敵と称されても否定はできないか。
とはいえ、ケジメはちゃんとつけるさ。彼女たちを不幸にする気はサラサラない。
話を戻そう。
オレたち七人は基本的に仲良しであり、よほど多忙でもない限りは。今のように居間に集まることが多かった。
ただ、今回は些か趣が異なった。何せ、オレがわざわざ全員に招集をかけたんだから。
「お兄さま。本日はどのようなご用向きなのでしょうか?」
ニナにならって右腕に抱き着いてきたカロンが、キョトンと小首を傾いだ。可愛い。
彼女に続くよう、ミネルヴァも口を開く。
「あら、カロラインも知らないのね。私も大事な話があるとしか聞いていないのよ。いったい、何を仕出かすつもり?」
「おいおい、仕出かすなんて人聞き悪いな」
「普段の行いよ」
オレが苦笑すると、ミネルヴァはフンと鼻を鳴らしながらソッポを向いた。
一見すると機嫌が悪い風に感じるけど、感情を目にできるオレは察している。彼女の内心は気遣いで溢れているんだ。今のセリフも、厄介ごとなら協力するという気持ちより出たものだった。
相変わらず素直ではない婚約者の態度に、みんなは生暖かい眼差しを向ける。バレてないと思っているのは、いつだって当人だけだ。
オレはくっつくカロンとニナを優しく引きはがしながら、質問への回答を口にする。
「新しい仲間を紹介しようと思って、みんなを集めたんだよ」
「……また増やしたの?」
「節操ナシ」
すると、ミネルヴァがとても呆れた調子で、ニナが非難めいた感じで言葉を吐いた。声こそ上げていないけど、カロンは半眼、マリナとオルカは苦笑を溢している。
普段通りなのは、誰を紹介するか知っているシオンだけ――かと思いきや溜息を吐いていらっしゃる。
えぇぇ、そんなにオレって信用ないの?
「そういうんじゃないから。能力を加味した部下としての雇用だよ。オレたちと同学年だから、みんなへ紹介しようと考えたんだ」
「でも、女の子なんでしょう?」
「まぁ、女性だけど」
「時間の問題」
「何でそうなる!?」
「「前例を考慮した結果」」
頑張って弁明を試みたものの、ミネルヴァとニナは一切取り合ってくれなかった。返す刀で斬り伏せられてしまう。しかも、過去の行いを引き合いに出されては、こちらも反論しにくい。ミネルヴァ以外の好意を抱いてくれている面々は、何かしらから助けたのがキッカケだったゆえに。
足掻くだけ無駄だと判断したオレは、さっさと話を進めることにした。ゴホンと咳払いする。
「実は、もう部屋の外まで連れてきてるんだ。シオン、通してあげてくれ」
「承知しました」
扉の近くで待機していたシオンは、一礼して部屋の外へ出る。それから五秒もせずに戻ってきた。話題の人物を連れて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます