Interlude-Orca ケンカするほど何とやら
時系列は「決闘(6)」の二、三ヶ月後くらいです。
――――――――――――――
ゼクス
中でも特に大きな影響を及ぼしているのは、領城への新たな入居者の存在かな?
その当事者は今、ゼクス
「というわけで、ロラムベル公爵の要望により、学園入学までミネルヴァさんが一緒に生活を送ることになりました。みんな、仲良くしてくれ」
「……よろしくお願いするわ」
ゼクス
このタイミングでの共同生活。要望を出してきたのが
それよりも、今はミネルヴァさんの方に集中しよう。
正直、彼女には良い印象を抱いていない。ゼクス
まぁ、ゼクス
「お久しぶりです、ミネルヴァさん。前にも自己紹介はしたけど、改めて名乗りますね。ゼクス
誰よりも彼女を敵視しているカロンちゃんや、コミュニケーション能力にやや難のあるニナちゃんでは先陣を切るのは無理がある。ボクが率先して挨拶した。できるだけ笑顔を向け、握手のために右手を差し出す。
「ええ、よろしく」
僅かに笑みを作り、握手に応じてくれるミネルヴァさん。
おや、思ったよりも好感触だ。もっとトゲのある反応を想定していたのに。
その後、ニナちゃんとカロンちゃんも挨拶したけど、対応は普通だった。いったい、どういうことだろう。
不思議に思い、ゼクス
「一つ質問があるわ」
全員の挨拶が終わったところ、不意にミネルヴァさんが口を開く。
それにゼクス
「何ですか?」
「ニナと名乗った彼女、ハーネウス家の縁者……リナ・モノウロ・ユ・タリ・ハーネウスの姉妹か何か?」
「あー……」
彼女の質問に、ゼクス
リナという名前は初耳だけど、ボクは何となく事情を察した。たぶん、リナというのは――
「リナはアタシの双子の妹、です」
ミネルヴァさんの問いに答えたのは、ニナちゃんだった。相も変らぬ無表情で淡々と返す。
対し、ミネルヴァさんは首を傾ぐ。
「双子? ハーネウス子爵とは幾度か話したことがあるけれど、そんな話は聞いたことがないわ」
「アタシは一族の恥として扱われてたから……たぶん、周囲には語ってなかった、です」
「嗚呼、なるほど。察したわ。ズケズケと質問して申しわけなかったわ」
「別に気にしてない、です。過ぎたことなので」
ニナちゃんの話し振りより、大方の事情を悟ったらしい。ミネルヴァさんは珍しくも素直に謝罪を口にした。肝心のニナちゃんは通常運転だったけど。
ハーネウス家とロラムベル家に交流があったとは。派閥は違うのに……嗚呼、ハーネウス家も魔法至上主義だったからか。主義主張の繋がりで親しくなることは、しばしばある。
話が一区切りついたところで、ゼクス
「じゃあ、四人で親睦を深めてくれ。すまないけど、オレは仕事が残ってるんだ」
そう言って、早々に退室してしまった。
えっ、このメンバーだけ残していくの!?
「「「「…………」」」」
場を支配するのは沈黙だ。
とはいえ、いつまでも現状維持は宜しくない。この空気を動かせるのは……ボクしかいないよねぇ。
ニナちゃんは論外。カロンちゃんはミネルヴァさん相手だと無理。消去法で、ボクがホストを務める以外に選択肢がなかった。
「えっと……じゃあ、お茶会でも開こうか!」
親睦を深めようにも取っ掛かりがないため、無難にお茶会を提案する。
意外なことに、ミネルヴァさんは乗り気だった。
「せっかくだから、私がお茶を淹れるわ」
しかも、自ら茶淹れをしてくれるという。
ボクは目を見開く。
「えっ、淹れられるの?」
思わず口に出してしまったのも、仕方ないと思う。だって、公爵令嬢ともあろうお方が、お茶淹れの技術を有しているなんて信じられるものではない。
「ご、ごめんなさい」
失礼なセリフだったと焦るボクだけど、対するミネルヴァさんは苦笑を溢すだけ。
「意外だと思われるのは理解しているわ。私も、覚えたのは最近だもの」
「あれ、そうなんですか?」
てっきり、昔からの趣味かと思った。
すると、彼女は顔を逸らしながら答える。
「ほら、彼の趣味が紅茶じゃない?」
彼?
……え、もしかして!?
「ゼクス
「……」
返答はないけど、その無言は肯定と同義だった。
ここ最近で一番の驚きかもしれない。いつも悪態を吐いているから、ゼクス
そう考えた時、カロンちゃんが不意に立ち上がった。
「どうせ、点数稼ぎではありませんか?」
「ちょっ!?」
まさかの発言に目を丸くする。
ボクが止める間もなく、カロンちゃんは言葉を紡ぐ。
「お兄さまが未知の魔法を扱えると知って、ゴマスリのために覚えたのでしょう?」
「……何ですって?」
「か、カロンちゃん、言いすぎだよ」
ミネルヴァさんが柳眉を鋭く上げる。
ボクは慌てて
「だって、それ以外に考えられないではないですか。あそこまでお兄さまを傷つけるような発言を連発してた輩が、今さらになって趣味を合わせるなど。酷い手のひら返しです」
「ぐっ、そこを突かれると痛いけど、お茶淹れに関しては別よ。これは彼の力が明らかになる前から覚えてたんだから!」
「どうだか。そのようなこと、後より何とでも仰れると思います」
「だったら、ゼクスに聞いてみなさいよ。私の九令式の後、私の淹れたお茶を振舞ったんだから!」
「なっ、いつの間に!? ズルいですよ、泥棒猫!」
「ど、泥棒猫って何よ! 私は彼の婚約者なんだから、どちらかといえば、あなたの方が泥棒猫の立場でしょう?」
「言うにことかいて、
「ええ、いいわよ。前々から気に入らなかったのよ。妹のくせにシャシャリ出てきてッ。義姉の実力を知らしめてやりましょう!」
「後からシャシャリ出てきたのはそっちでしょうに。今さら謝っても遅いですからねッ!」
「それはコッチのセリフよ!」
唐突に始まった口ゲンカ。カロンちゃんもミネルヴァさんも留まることを知らず、徐々にエスカレートしていく。そうして、ついには中庭での魔法合戦へと発展してしまった。
無論、ボクもニナちゃんも止めようとはしたよ。でも、まったく取り合ってくれなかった。
結局、ミネルヴァさんがボロ負けして、泣きながら部屋に閉じこもってしまうという結果に終わる。
親睦会だったはずが、真逆の成果を叩き出してしまい、ボクは頭を抱えた。
――と思ったんだけど、話はここで終わらなかった。
この後、カロンちゃんとミネルヴァさんは度々口論することになる。顔を合わせればケンカしているのでは? と疑えるくらいには、見る度に言い争いを重ねていた。そして、最終的には魔法合戦に発展する。
最初のうちは慌てて止めに入っていたんだけど、そのうちボクは察した。『嗚呼。これ、”ケンカするほど仲が良い”と同系統のやつだ』と。
あの二人はソリは合わないようだけど、根本的には似た者同士の模様。
はぁぁぁぁぁ、必死になって止めようとしていたボクがバカみたいじゃないか。
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