Interlude-Caron 教えて、カロン先生!
フォラナーダが表舞台で動き始めて一ヶ月か経過しました。世間の
お兄さまとオルカは仕事、ニナは冒険者の依頼でしたので、今回は
些か残念ですが、それでも数ヶ月振りの息抜きには心が躍ってしまいます。ダンさん、ターラちゃん、ミリアちゃんはお元気でしょうか。
いつもの広場に顔を出せば、彼らの姿はすぐに発見できました。あちらも
「久しぶり~、カロンちゃん!」
「おひさ」
「おう、久しぶりだな!」
「はい、お久しぶりです。皆さん」
お三方の変わらない明るさに、自然と笑顔がこぼれます。心配はしておりませんでしたが、こうしてお三方の元気な姿を見られてホッとしました。
挨拶もそこそこに、ミリアちゃんとターラちゃんが神妙な表情で問うてこられます。
「色々大変だったみたいだけど、もう大丈夫なの?」
「心配した」
王宮を巻き込んだ大事件だったので当然と言えば当然ですが、お二人も
「大丈夫ですよ。お兄さまや部下の方々のお陰で、今日も元気にすごせていますから。ご心配してくださり、ありがとうございます」
「そっかー。それなら良かったよ!」
「安心だね」
「……ほっ」
心よりの言葉だと察してくださったようで、ミリアちゃんとターラちゃんは安堵の表情を浮かべてくださいました。ついでに、ダンさんも胸を撫で下ろしておられます。
「ダンさんも心配してくださったのですね。ありがとうございます!」
「べ、別に、そそそそそんな大したことじゃねーよ」
お二人と同様にお礼を告げたのですが、何故か顔を真っ赤にしてソッポを向かれてしまいました。どうしたのでしょう?
「そ、そんなことよりも、カロンに頼みたいことがあるんだ!」
やや空気が生温くなり始めたところ。居たたまれなくなったダンさんが声を張りました。
話題を変えることに異論はありませんでしたので、
「頼みたいこと、ですか?」
「えっと。わたしたちに魔法を教えてほしいんだよ」
答えたのはミリアちゃんでした。
ただ、その答えは
「何故、
そう。ターラちゃんを除くお二方は、今春より初等学舎へ通学しておられます。そこでは基礎勉学の他に、魔法の基礎も教わっているはずです。今さら、
「学校で習う魔法とカロンたちが使ってる魔法って、なんか違うだろう? 俺たち、カロンたちが使ってる方の魔法を知りたいんだよ」
「嗚呼、なるほど」
彼の言葉を聞き、得心しました。
確かに、
うーん、どういたしましょうか。
一応、魔法知識の拡散は許可されています。お兄さまは、二、三倍程度の【身体強化】の知識や【
とはいえ、
加えて、一つ気掛かりな点がございます。
「
魔法を覚えたい目的、そこが重要でした。
お兄さまは常々仰っております。選択肢が増えることは、必ずしも良い面ばかりではないと。未来の可能性が広がるのは確かですが、本来なら選び得ない余計な択まで混ざるようになると。
何を申し上げたいのかと言うと、ダンさんたちが他人より優れた魔法を身につけた時、それを安易に周囲へ振り回さないかが心配なのです。もちろん、彼らが他者を傷つけて悦に浸る人間ではないことは承知していますが、未来に絶対はあり得ません。
まぁ、それを言い出してしまったら、誰にも魔法を教えられなくなってしまいます。ゆえに、先の質問を投じました。
これもお兄さまの受け売りですが、『強い意志や心に誓った目標は、あらゆる誘惑を振り切る力の源泉になる』そうです。これと決めた芯さえあれば、何があってもブレることはないと、お兄さまは仰っていました。
ですから、
「俺は……俺は、強い魔法を覚えてコイツらを守りたい! 昔、チンピラに襲われたことがあっただろう。あの時はゼクスやカロンに助けられたけど、本当は悔しかったんだ。もちろん、お前らには感謝してるけど、それ以上に何もできなかった自分が許せなかった。だから、強くなりたい!」
「わ、わたしも同じ。ダンくんが倒れてるのに、泣いてるだけなんて嫌だから……だから、カロンちゃんたちの魔法を覚えたい!」
「そうですか……」
ダンさんとミリアちゃんの熱意は本物でしょう。彼らの言葉より何も感じないほど、
ただ、それだけで良いのでしょうか? 守りたいと言う意志のみでは破綻してしまうような――
「考えすぎ」
「ひやっ!?」
どう結論を下すか熟考していたところ、
しかし、焦りはしません。何故なら、
「お兄さま、気配を消して近づくのはお止めください!」
いつの間にか後ろに立っていらっしゃったのは、お兄さまでした。【偽装】によって姿を変えられていますが、間違いありません。お仕事が早く片づいたのでしょう。
彼は悪びれた様子なく、「悪い悪い」と肩を竦められます。
もう! そういうお茶目な面は大変可愛らしいとは思いますが、こちらの心臓の負担も考えてほしいものです。
とはいえ、いつまでも怒っていては話が進みません。切り替えましょう。
お兄さまが他のお三方との挨拶を終えるタイミングを見計らって尋ねます。
「それでお兄さま。『考えすぎ』とは?」
「魔法を教えるかどうかって話なのに、難しく考えすぎだよ。もっと気軽に教えちゃっていいから」
「えっ」
思わぬ言葉に、絶句してしまいました。
「教えていいって言った知識なんだから、ガンガン広めて大丈夫さ。その辺も踏まえて許可を出したんだし。まぁ、人を選ぶのは賛同できるけど、ダンたちなら問題ないだろう?」
彼の説明を受け、得心しました。
言われてみれば、お兄さまが教えた後のことを考えずに許可を出すはずがありません。盲点でした。
「ってわけで、カロンは教えてくれるってよ。
「えっ、タリィも?」
先程まで蚊帳の外だったターラちゃんは、突然水を向けられ目を見開かれました。
お兄さまは当然だろと言わんばかりに頷かれます。
「どうせ、来年には教えてほしいって頼みこんでくるんだ。一年程度は誤差だよ」
「えー、ターラだけズルくねぇか?」
「オレたちが学園に通うようになったら、一年間は独学になるんだ。
「うーん、そんなもんか?」
「そんなもんだよ」
ダンさんが非難の声を上げましたが、お兄さまは理路整然と一蹴してしまわれます。
お三方が納得されたのを認められると、お兄さまは何やら彼らに囁かれました。
すると、ダンさんたちは横一列に並ばれます。
はて、何をするのでしょう?
「「「よろしくお願いします、カロン先生!」」」
一斉に頭を下げるダンさん、ミリアちゃん、ターラちゃん。
ええええ、いきなり何なんですか!?
突然の行動に困惑する
――ですが、同時に満更でもない気持ちを抱いておりました。カロン先生という響きに、ちょっとだけ甘美を覚えたのです。
「し、仕方ありませんね。
「「「ありがとう、カロン先生!」」」
さすがはお兄さま。
手玉に取られて少しだけ悔しく思いますが、友人の実力が向上するのは良いことでしょう。深く考えないことにします。
こうして、
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