第41話 ヒーラー、精鋭パーティをヒールする

 俺が駆けつけた頃にはカタリナ率いるパーティはもはや壊滅寸前の域までに至っていた。

 俺達は急いで部屋の中へと入り、倒れている2人の元へと駆け寄る。


「大丈夫か!?」


「くっ……これ……くらい……平気よ……うう……」


 サラシエルは立ち上がる素振りを見せるが上手く力が込められていないのか、立ち上がることが出来ない。


「油断していました……まさかこれ程の力でしたとは……」


 セインが顔を上げ、割れた片眼鏡を片手でかけ直す。

 2人とも傷が酷く、立ち上がることが出来ない様子だった。俺は直ぐにも治療を試みた。


「骨が折れているかも知れない……なら、”完全治癒”!」


 俺は、セインとサラシエル1人ずつに完全治療の魔法をかけてやった。完全治療の素早い回復速度によって瞬時に傷が癒えていく。回復には致命傷でなければ数秒もかからないため、あっという間に2人は回復してしまった。


「き、君は上位回復魔法が使えるのか!?」


「あああああんた何者よ!? 完全治療なんて私たちレベルの回復術士……いや、大神官ハイプリーストに匹敵するわよ!?」


 2人が驚いているのを無視して、俺は進んでいく。そして、ライナの近くへと向かった。ライナは少しぎょっとするが逃げようとはしなかった。俺はライナの無くなった右腕の様子を見る。傷口は塞がっているが、これでは戦闘に支障が出てしまう。もしかしたら、完全治療で治せるかも知れない……しかし、無くなった部位を治療するのにどれくらいの時間が掛かるかは分からなかった。その間に、朱雀に攻撃されてはどうにもならない。


「セシリア、ルミナ、ソレーヌ!! 俺はカタリナとライナの回復に集中する。その間に時間稼ぎだけで良い、朱雀を食い止めてくれ! 少しの間、俺の援護がないから十分に注意するんだ。やれるかみんな!?」


「任せて! 無理はしないわ。セレナさんの傷で朱雀の怖さは分かってるし!」


「私が責任もってみんなを守ります!」


「お任せを! フールさんに代わって皆さんの援護をします!!」


 3人が返事をすると、ソレーヌはその場で弓を構え、セシリアとルミナはカタリナの隣に来るように前へと出た。


「お……お前達は危険だ!!」


「カタリナさん、あなたは下がってフールに回復して貰ってください。その間に私たちが朱雀をなんとかします」


 そう言ってセシリアは2刀の刀を抜き、朱雀に向かって構える。


「しかし、私は前衛だ! 守るのは私の役目だ!」


「大丈夫です! 私がカタリナさんの代わりに全員を守って見せますから!!」


 ルミナが背負っていた大きな盾を前に出す。


「私たち、結構良いコンビなのよ!」

「私たち、結構良いコンビですから!」


 2人の台詞が見事にハモるとカタリナは2人を見て、どこか『任せられる』気持ちが生まれてくる。

 カタリナは持っていた盾を下ろした。その時、カタリナは初めて2人を『信頼』したのだと気づく。


「……2人とも、死ぬんじゃないぞ!!」


「分かってるわよ!」

「了解です!」


 カタリナの叫び声を受け止め、2人は返事と共に駆けだした。


「セイン! サラシエル! お前達2人も様子を見つつ援護をしろ!!」


「了解です!」


「くぅううううう!! やってやろうじゃない!!」


 一方、フールはライナに完全治療の魔法をかけた。


「何しやがるてめぇ!? うっううう!?」


「動かないで!!」


 痛みで暴れようとするライナを一喝し、ライナの腕の回復に専念する。完全治療の威力はすさまじく、溶けた腕の付け根からゆっくりと腕が生えてくる。そして、数分をかけてライネの腕が完全に完治し、自由に動かせる程になった。


「こ……こいつはすげぇや……何なんだよお前……」


 ライナは完治した腕を動かしながら驚いた様子だった。すると、前から前衛から下がったカタリナがこちらへやってくる。ライナの元通りになった腕を見て、目を見開いていた。


「ば……馬鹿な、完全治癒だと!? F級冒険者がこんな魔法を……」


「そんなことは今は良い!! カタリナも早く回復を!!」


「ま、待て! そんなに馬鹿みたいに上位回復魔法を使うなど、直ぐに魔力切れが起こってしまうぞ!! 私は”治癒ヒール”で良い!」


 そうだった、カタリナは俺が特殊能力ユニークアビリティを所持していることは悟っているが俺の特殊能力の内容を知らない。……ここは適当に理由を作ろう。


「大丈夫だ! 魔力回復のアイテムは持っている!! それにこんな緊急時に回復を渋ってはいられないだろう!!」


「そ……そうだが……」


「直ぐに回復してやる…… ”完全治癒”!」





 カタリナへの回復を行っている最中、セシリアとルミナとソレーヌは朱雀と交戦している。

 俺たちの登場にも動揺せず、静かに佇む朱雀に向けて、セシリアが仕掛ける。


「何よその余裕ですみたいな表情!! ムカつく!! はぁあああああ!!!!」


 セシリアは力強く握った2刀の刀を朱雀に向かって切りつけようとする。しかし、朱雀はそれに合わせて羽を羽ばたかせ、後方に下がりセシリアの攻撃を回避した。


「むぅう!! 腹立つわね!!」


 更にセシリアは刀を振り回して連撃を仕掛ける。それでも朱雀はセシリアをあざ笑うかのように、それを華麗に避ける。ある程度セシリアが攻撃を仕掛けた時、後ろでルミナが叫ぶ。


「セシリー!! 孤立は危険だから戻ってきて!!」


 ルミナの言葉にセシリアは大分、ルミナとの距離が少し離れてしまっていることに気がついた。攻撃に夢中になり、前へ前へと出てしまっていたようだ。もし、孤立させて1人ずつ倒そうとしていた朱雀の作戦であるなら危ないところだった。


「ごめん、ルミナ!! ありがとう!!」


 ルミナの見事な広い視野によってセシリアは素早いバックステップで朱雀から離れ、ルミナの元へ戻って来る。

 自分の作戦がばれた朱雀は、奇声のような鳴き声を大きく上げると羽を一振りする。その羽から大きな炎が朱雀の身体から離れると炎の波がセシリア達に向かって襲いかかってきた。


「セシリー!! ここは私が!!」


 ルミナがセシリアをかばうように前へと出ると、ルミナは盾を構える。


「お願い……私たちを守って!! 展開!! ”防護結界プロテクトシールド”!!」


 ルミナが叫ぶと、盾が青く輝きだす。すると、盾を中心に青いオーラが防御範囲を拡張するように広がり、結界が2人を包む。そして、炎の波がそれにぶつかったとき、炎の波は結界によってかき消され、セシリアとルミナには一切傷が付かず、後ろにも火が向かうことはなかった。


「凄い! 凄いわよルミナ!! おっきな盾が作れるのね!!」


「えへへ、バール王から頂いたこの盾の力だよ~~♪」


 攻撃を防いだ2人の様子を見て、朱雀は空中に浮遊しながら睨み付けている。


「対象を……捉えました!! 食らえ!! ”拘束封魔弾バインドアロウ”!」


 セシリアとルミナの更に後方でソレーヌが矢を射ると、光の矢が朱雀の身体を捉え、網のように矢が変化する。そしてその光の網に朱雀が捕まり、身動きが取れなくなって地面に墜落した。


「セシリアさん!! 今です!!」


「ナイスだよソレーヌ!! 行くわよぉおおお!!」


 セシリアはルミナの後ろから飛び出し、また朱雀の元へと駆けだした。その時、セシリアの刀に冷気が宿り始める。


「これって……」


「私です! 武器に氷属性を付与させました!!」


 遠くでセインの声が聞こえた。どうやら、属性付与の魔法をかけてくれたようだ。

 セシリアは光の網によって上手く飛べることが出来ない朱雀に向けて刀を振り下そうとしたとき、更に大声が聞こえてくる。


「身体を攻撃するな!! 羽を切れ!!」


 そう叫ぶ声はカタリナのものだった。セシリアは瞬時に対象を胴体から翼へと切り替えると右の翼に向けて刀を振り下ろした。


「”二重氷結斬ブリザードスラッシュ”!!」


 冷気が纏った二刀の剣の刃が朱雀の羽を切り裂くと朱雀の羽は切り落とされた。


「やった!! 切れた!!」


 セシリアはバックステップで後ろに下がり、距離をとる。

 その時、セシリアの肩に誰かが手を置いた。振り向くと傷が癒えて元気になったカタリナだった。


「やはりか……朱雀の熱は中心に向かえば向かうほど温度が高くなる。一番温度の低い翼なら切れるという私の予想は正解だったようだな。……よくやった。名前はなんて言うんだ?」


「ありがとうございます……私、セシリアって言います……」


「何? セシリア……お前が……マスターの言っていた……」


 カタリナに褒められたことによって、セシリアは少し嬉しくなり、尻尾を少し揺らしていた。

 カタリナの傷も治した……よし、これで全員の回復が終えた俺も戦闘に復帰することが出来る。俺も、カタリナのそばに近寄ると、カタリナが振り返って俺の方を見た。


「……まぁ今はそんなことどうでも良いか……フールよ、不甲斐ないが私たちだけでは朱雀を討伐できない。……誰も死なせたくないんだ。頼む、私たちと協力してくれないか?」


 カタリナが俺に向かって頭を下げた。正直俺は驚いたが、この朱雀を討つ為には俺たちもカタリナのような精鋭パーティの力も必要だ。それに考えている暇も無い。


「ああ、よろしく頼む!」


 俺がカタリナにそう答えたとき、朱雀が光の網を抜け出してしまった。そして、翼を無くした朱雀は怒りの雄叫びを上げる。朱雀の無くなった右翼の部分から炎が生まれると切られた右翼は元に戻ってしまった。

 なるほど……切り落としても無駄だって訳か……


「一時的に協力関係だ……それでいいわよね?」


「それで良い」


「では、役職の定位置につけ……私は前、お前は後ろだ」


「分かってるよ」


 俺は振り向いて下がろうとしたとき、前に出ようとするライナとすれ違う。


「てめぇ……あたいにも援護しねぇとぶっ殺すから」


「安心しろ、腕が無くなったら何回でも直してやる」


「へっ! そいつは良い!」


 俺は後ろに下がり、全員の様子が見られるところまで下がった。

 セシリア、ルミナ、カタリナは前衛、ライナ、ソレーヌは中衛、サラシエル、セイン、俺は後衛の配置につく。

 これで戦闘態勢は整った。朱雀もやる気を見せ、空中に飛び上がる。


「行くぞ!! みんな!!」


 カタリナのかけ声と共にカタリナ達との朱雀大討伐戦が始まった。

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