第15話 ヒーラー、ダンジョン攻略の報告へ行く

 パトラに早く早くと催促されながら、俺たちはキャンプを畳み、荷物を鞄の中に入れる。リザードマン・ロードの玉座は流石に持って行くと荷物になるので残念だがその場に置いていくこととなった。代わりにリザードマン・ロードの頭はダンジョン攻略の印となるので麻袋に入れて持って行くことにした。忘れ物が無いかを確認して、とうとう俺たちはダンジョンから出ることにした。外に出ると木々から漏れた朝の陽ざしが俺の体に当たり、心地よい。ダンジョンにずっといると日の光がこれほどにも良いものであると感じることができる。隣でセシリアも気持ちよさそうな顔をして尻尾を揺らしている。


「それじゃあ、しゅっぱーーつ!!」


 パトラの掛け声とともに俺たちはダンジョンから離れ、森を抜けてバールの国へと続く街道へとたどり着いた。そして、バールの国へと向かう道中に人を乗せた馬車が通り過ぎたりするので、その度に挨拶を交わす。


「いいなぁ~~私たちもいつか移動用に馬車が欲しいわねフール」


「そうだなセシリア。でも、まずは馬車を買うためのお金と人を集めないとな?」


「よーーし、ダンジョン攻略頑張らなきゃ!」


 セシリアのダンジョン攻略の目標が馬車を買うことにシフトを置いた頃、気が付くと目線の先には城壁がそびえたつ1つの国が見えてきた。バールの国が見えてきたのである。


「やっと見えてきたぞ! オイラなんだかわくわくしてきた!!」


 パトラが目をキラキラと輝かせながら俺の袖を引っ張ってくる。ここまで来られたことが相当嬉しかったのだろう。俺は笑顔で受け答えをする。

 そして、壁門へと近づくとショートスピアを持った兵士(ソルジャー)が声をかけてきた。


「バールの国へようこそ! 入国には1人10Gをお納めください!!」


「ほい! これはオイラと2人の分だ」


 そう言ってパトラが30Gを払うと、兵士がパトラの目線に合わせるようにしゃがみ込む。


「えらいねぇーーお嬢ちゃん。お父さんとお母さんと3人で入場かい?」


 そう言って兵士はちらちらと俺とセシリアの方を見た。


「おかおかおかおかお母さんーーーー!!!!????」


 セシリアは目を丸くさせ、顔が耳まで赤くなり頭から湯気が出ていた。一方でパトラが子ども扱いされたことに怒りを感じているようで、両腕を縦にブンブン振りながら指摘した。


「むぅううううう!! オイラこいつらの子供じゃないし、そもそも子供でもないんだぞ!!!!」


 しかし、兵士はそんなパトラの言葉を聞き流しながら国の中に入るように俺たちに促した。セシリアは手を口元に当てながら恥じらいの顔を隠し、パトラはぷにぷにの頬をぱんぱんに膨らませながらバールの国へと入国する。

 街は朝から盛り上がりを見せており、人々が絶えず行き交っている。その人の流れに沿って歩くと大きな噴水が目印の中央広場まで来ていた。


「じゃあオイラはこの街の店を回って見ることにするぞ。お前達も頑張るんだぞ!」


「ああ、パトラも気をつけてな」


「変な人について行っちゃだめなんだからね?」


「はーーい♪ じゃーーなーー!!」


 パトラは大きく手を振りながら商店街の方へと向かっていく。パトラと離れた俺たちはバール城の近くにある一般ダンジョン窓口へと向かった。場所はそう遠くはないので数分で辿り着くことができ、施設の前まで来ることができた。

 建物は白い大理石でできており、まるで神聖な神殿のようにできている。それもそのはず、この一般ダンジョン窓口というのは国が運営している公共施設でギルド以外の冒険者にも活躍の場を作りたいという思いで作られたのがこの施設なのだ。なので、一般冒険者達が交流を交わることができる憩いの場としても利用されているのだ。


「凄い綺麗なところね。面白そう! 早く行きましょフール♪」


 そう言ってリザードマン・ロードの首が入った麻袋を担ぎながら意気揚々と入っていった。俺もそれ続いて一般ダンジョン窓口へと入っていく。


「んん~~? あれはセシリーじゃないかしら?」


 施設へと入っていく、セシリアの姿に気がついた1人の冒険者がいた。そんなことを知る由もない俺たちは施設内の様子に驚いていた。天井が高く、数十箇所もある受付口が並んでいてその一つ一つに受付嬢が設置されている。この施設は他にも部屋があり、2階には酒場とレストランと集会所が合体された冒険者達の憩いの場もあり、賑わいを見せている。


「凄い凄い! こんなに冒険者達がいっぱい居るだなんて!! あ、フールあれ見て!! お肉の串焼き持ってる人が居る!! おいしそう!!」


「落ち着いてセシリア。取りあえず報告を済ませてしまおう」


「そ……そうね、取り乱しちゃったわ」


 セシリアのピコピコとしていた頭の耳と激しく揺れるその尻尾を抑えて、開いている窓口へと向かった。


「こんにちは! ようこそ一般ダンジョン窓口へ! 今日はどう言ったご用件でしょうか?」


 金髪でセミロングな女性が笑顔で対応してくれるようだ。


「ダンジョンを攻略したのでその確認と報酬を頂きに来ました」


「かしこまりました! では、あなた様の冒険者証を提示してください」


 冒険者証とは冒険者のデータが書いてある身分を証名するような紙だ。俺はそれを取り出し、受付嬢に渡した。


「F級冒険者フール様ですね。それではダンジョンの場所と難易度をお伝えください」


「場所はバールの国周辺の森の中で難易度はB級でした。これが証拠です」


 そう言って、俺はセシリアから麻袋を受け取って中の物を見せた。


「び……B級ですか!? ち、因みにパーティは何人で攻略を?」


「2人です」


「ええええ!?」


 受付嬢は驚いた表情で何度も俺の冒険者証を見返している。そして、ある程度落ち着いたところでこちらに顔を向けた。


「わ……分かりました。それでは担当の者が転移魔法で確認に伺い行って参りますのでしばらくお待ちください」


 そう言って俺に引き換え番号の付いた紙と冒険者証を手渡すとその受付窓口が閉じられてしまった。

 俺は引き換え番号を握りしめながら、呼び出しが来るのを待つことにした。


「少し遅くなりそうだ」


「えぇ~~早く報酬貰ってお肉食べたいなぁ~~」


 俺とセシリアが窓口の前で待っていたその時、後ろから女性の声が聞こえてくる。


「セシリー!!!!」


 そう言って誰かがセシリアのことを後ろから抱きついてきた。それは、頭には犬のような耳をしており、金色の毛並みの尻尾を付けた金髪ショートボブのセシリアと同じ獣人族の美少女だった。その少女は豊満な胸をセシリアに押し付け、大きな胸が潰れている。


「久しぶりだねセシリー♪」


「この声は……まさか、ルミナ!?」

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