ヴァンパイアとの戦い・1

 声の主はイオナさんでした。間違えようもありません。声がどこから出ているのか分からないような感じになっていますが、確かに彼女の声です。そして私達の前に見せた姿はギルドにいた頃と変わっていません。


 ただ一つ、両目が真紅に染まっていることを除いては。


「イオナさん……冒険者としてヴァンパイアに挑んでやられてしまったんですね」


 アリスさんが聖水を仕込んだ大剣を構えます。


「人間に戻れないのか?」


 ユーリが私に聞いてきました。殴り型とはいえ知識に関しては専門家のようなものですからね、彼の願いは叶えられませんが。


「ヴァンパイアは死んだ人間がアンデッドとして蘇った怪物です。つまり……」


 イオナさんはもう死んでいる。そう口に出すのはためらわれましたが、言わなくてもユーリは理解したようで辛そうな表情を見せます。


「安らかに眠るにゃ、イオナ!」


 ミィナさんが火球を放ち、攻撃します。


『そんなものが当たるか』


 イオナさんが素早く横に避けて、再び矢を放ちました。それをカトウさんが手にした短刀で払い落します。


「素早いな……肉体が相当強化されている。ならば、これはどうでござるか?」


 カトウさんが左手を振ると、丸い何かがばらまかれました。あれは一体……と思う間もなく、視界が赤に染まりました。これは、爆発!


 光が目に届いた次の瞬間、音が届くよりも早く耳をふさぎます。それが可能になるほどに、加速の魔法で全ての動きが極限まで速くなっていました。


 だから、私はすぐに爆風をぬってイオナさんに肉薄しました。これぐらいでヴァンパイアがやられるはずはないからです。


「私は、アンデッドモンスターの中でヴァンパイアが一番嫌いです」


 爆発で発生した煙が晴れ、姿を見せたイオナさんの身体はところどころ焼けただれていて。


 振りかぶったメイスを、彼女の頭に振り下ろすのが遅れました。


『ウィンドボム!』


 急に横から激しい風を叩きつけられ、私の身体は大きく離れた場所まで吹き飛ばされました。


「アルス!」


 ユーリの声。やはりアルスさんも……二人はいつも一緒に狩りをしていて、一緒にギルドを抜けたから、きっと最後まで一緒に戦っていたのでしょう。


 周りを見るとギルドの皆さんも風で飛ばされていて、イオナさんの近くにいるのはユーリのみ。鎧を着ているから飛ばなかったのでしょうか? すぐに立ち上がって駆け出します。現場ではユーリがイオナさんにしがみつきました。


『離せ、役立たず!』


「逃がさないぞイオナ! 友達を人殺しの怪物になんかさせないからな!」


 ヴァンパイアの怪力で引きはがそうとしてもユーリは離れません。凄い力でイオナさんを引き留めています。早く行かないと! ああ、焦る気持ちに反して全然距離が縮まらない。加速が解除されてる?


ぜよ、サンダークラップ!』


「うわあっ!」


 弾ける電気でユーリが強制的に引きはがされます。イオナさんの身体も反対側に弾かれ、飛ばされた先にいたアルスさんが受け止めました。まずい、このままでは逃げられてしまう!


「待ちなさい!」


 まだ離れた場所にいるアリスさんが大剣を振るうと、剣先からほとばしるように聖水が放たれました。これなら……!


帰還門リターン・ゲート


 聞き覚えのない声。第三のヴァンパイアが使う魔法でアルスさんとイオナさんの目の前に闇色の穴が生まれ、二人を吸い込んで閉じました。聖水は虚しく空を切って地面に落ち、後には静寂が残りました。


「逃げられましたね」


 大剣を一振りし、収めるとアリスさんはギルドメンバーを見回して被害状況を確認します。みんな風で飛ばされたぐらいで一番ダメージを受けたのはユーリですが、彼は悔しそうに地面を叩いています。


「くそっ、どうして俺は何もできないんだ!」


「そんなことありませんよ。みんなが飛ばされている中、一人耐えて足止めしたじゃないですか」


 悔しがるユーリの横にいき、その肩に手を添えます。そんなこと言ったら私なんて……。


「そうだにゃ、凄いパワーだったにゃ」


「ユーリ殿の気持ち、しかと伝わりましたぞ。まだ勝負はついておりませぬからな、次で仕留めればよいのでござる」


 口々に励ます仲間の声に落ち着いたのか、ユーリは手を止めて起き上がりました。


「うん、ごめん……よし、あいつらを倒しに行こう!」


 良かった、気を取り直してくれて。そこにアリスさんが今後の方針を示します。


「では、私とユーリさん、ティアさん、ミィナさん、カトウさんは元凶のヴァンパイアを倒しに行きましょう。あの二人もきっとそこにいます。他の皆さんは手分けして領民を守るのと、まだ他に眷属がいたらそれを退治してください」


 ユーリの言っていたことに私も賛成です。あの二人を人殺しになんかさせません。そのため

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