第068話 鶏を飼ったなら牛も飼えばいいじゃない

 エルヴィスさんにいつものように農作物と卵を卸した俺達は、帰ってから早速コッメを畑に植えてみることになった。


 その結果として、他の農作物同様にあっさりと実ってしまった。ただ、他の作物よりも少しだけ生育に時間がかかった。その期間は一週間だ。


 普通の農作物が一日で育つのにも関わらず、収穫までに一週間かかると言うことは、コッメは本来それだけ収穫に時間がかかるということだろう。エルフの森に群生しているという点が関係しているのかもしれない。それとなくシルヴィアに聞いてみたが、コッメは年一回の収穫できる程度なのだとか。


「コッメをこれからも売ってもらうことは可能か?」

「ここで消費する分だけなら可能だと思います。しかし、もし街で販売されるご予定なら恐らく足りないかと」


 そういえば、森人族の森で収穫できるコッメを沢山売ってもらうことができれば、俺が栽培しなくても済むのではないかと思い尋ねるが、どうやら話はそう上手くはいかないようだ。


 その上、ウチの畑で育てたコッメと森人族の森で育ったコッメでは味が段違いで、ウチで育てたコッメの方が圧倒的に美味かった。こうなると、どう考えても自分たちで作ったコッメを売りたいと思うのが生産者としての矜持だろう。


 それにしても、ウチのコッメを炊いたモノにチキンバードの卵を乗せてショーユ―を垂らしたTKGと言ったら、美味いのなんって……。


「じゅる……」


 思い出すだけで涎が出る。今ではウチでは皆に大人気だ。おかげで一時的にチキンバードの卵が納品できなくなりそうになったほど。


 そのため俺はチキンバードに話を付け、さらなる仲間を探しに出かけた。どうやらチキンバードは自分の同胞がどこいるのか分かるらしく、チャチャがいた山を越えた先の林の中を渡り歩いた結果、さらに百匹程のチキンバードをウチの牧場に迎えることが出来た。そのおかげで卵の品薄問題はどうにか解決した。


 話がズレたが、俺がエルヴィスさんにぽろっと失言をしてしまったせいで、コッメの世話に新しく来た森人族の大半がとられてしまった。ただ、他の農作物と違い、収穫には一週間程かかるため、他の農作物よりも納品の頻度が下がるおかげでまだ余裕がある。


「そろそろ次の家畜が欲しいな」


 そこで俺は次の畜産に手を出したくなった。


「いいのではないか。それでどんな家畜がいいかは考えておるのか?」

「ああ。ウシモーフという動物だな」


 ソフィに聞かれて俺はお目当ての動物を挙げる。


 ウシモーフは長方形の胴体に短い四本の足を持つ動物で、三角形の顔に短い尻尾がある。そして全身をモフモフの毛で覆われている生き物だ。毛の下には重厚感のある肉体が隠れていて、その肉は富裕層や貴族が好んで食べるほどに美味い生き物だ。それに肉だけでなく、雌の牛から出るウシモフ乳は様々な料理に使われていて、そのまま飲んでも物凄い美味らしい。


 肉も乳も美味いというチキンバードと同様に家畜として人気の高い動物なのだ。だからキチンバードの次はウシモーフと考えていた。


「おお。あの家畜は肉が美味かったな」

「それもあるが、それよりもウシモーフもモフモフしてるからな」


 そして何よりも大事なのが、モフモフしているということ。やっぱり飼うのならモフモフしている動物がいいからな。


 俺はモフモフに囲まれてのんびり過ごすんだ!!


「またモフモフか。全く次から次へと獣を増やしおって。我という獣がありながら」

「ソフィは獣って感じじゃないだろ?今はどうみて人間の女の子だし、こうやって言葉で意思疎通できるんだから」


 不満げに言うソフィだが、俺にとって彼女は見た目が人なだけに獣扱いすることが出来ない。


「お、お主は嫌ではないのか?そうなると、我は人間ということになるが」

「何言ってんだ。どう見ても人間にしか見えないが、俺はソフィの事をドラゴンだと知っている。嫌悪感なんかない」


 ソフィは少し言いづらそうに体のまで人差し指をツンツンさせながら俺に尋ねる。


 確かに見た目は人間だが、俺は彼女がドラゴンだということを知っているし、嘘をついたりしないということも分かっている。そんな彼女を今更嫌悪することはない。


 そもそも彼女は人間にしては容姿が人間離れしているし、角が生えていたりもする。そんな彼女を俺を蔑ろにした人間と同列に扱うことは難しい。


「そ、そうか。それならいいのだ」

「なんだ?そんなことを気にしていたのか?」

「そ、そんなわけないであろう」


 安堵したような表情をするソフィ。もしかしたらと思って聞いてみたら、思いのほか狼狽えているので、どうやら気にしていたようだ。


 尊大でありながらそんなことを気にするとはドラゴンとは分からないものだ。


「そうか?それならいいんだがな。兎に角次はウシモーフを探しに行きたいんだが、心辺りはないか?」

「うむ。ちょっと分からんな。チャチャに聞いたらいいのではないか?あ奴はあの獣の山の王だ。何か知っているかもしれん」

「そうか。確かにな」


 俺はチキンバードの時と同様にチャチャにウシモーフの居場所を知らないか尋ねた。すると、知っているというので再びチャチャの案内でウシモーフの捜索へとむかった。

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