帰ってきた童貞くん

味噌村 幸太郎

第1話 トイレの子

 僕は持病で、よく腹痛が起こる。

 一度、症状がおきると、トイレをすぐに探さないとヤバい。

 失敗して、大惨事になってしまう。

 真面目な話、成人してからも、何十回と失敗している……。


 家の中ならそりゃキレイにしてしまえば、いいのだけど。


 外出中は本当に困る。

 特にデパートなんかが、一番困る。


 男女差別ではないのだけど、高層ビルのうち、1階が女子トイレのみ、2階が男女トイレ、3階がまた女子専用トイレという変なサンドイッチ構造が多い。

 きっと女性の方が、個室利用が多いのだろう。

 

 ある日、僕はカノジョとデートしていた。

 腹いっぱいステーキを食った。


 そんな油っこいものを食べたら、必ず腹が痛む。少しのタイムラグがある。

 だから参ったもんだ。

 急に激痛が走って、ケツを手で抑えながら、走りだす。

 カノジョは心配して「童貞くん、がんばって!」と応援する。

 長い事付き合っているから、もう慣れっこなのだ。


 ハァハァ……腹痛と漏らしそうな恐怖を抱えて、僕は脚をくねくねさせながら、急ぐ。

 

 やっとのことで、トイレが見えたと思ったら、猛ダッシュだ!


「アアアッ!」


 ここまで叫んではいないが、息遣いはかなり荒かったと思う。

 ちょうど男子トイレの前に、女子高生が歩いていた。


「ハァハァ……アッ!」


 僕の声に気がついて、こちらを振り向くと、なぜかビックリしていた。

 当時の僕は、体重110キロで、丸坊主。ナイスガイだ。


 そんな僕を見てか、JKちゃんは「ひゃっ」といいながら、なぜか男子トイレに駆け込んだ。

「え?」

 意味がさっぱり分からなかった。

 なんで若い女子高生が男子トイレに?

 まさかあれか、今話題の女装男子か……。


 そう思って、僕も彼女のあとを追うように、男子トイレに入る。

 JKちゃんは中で目が合う。

 すると「あ、ごめんなさい」と言って、気まずそうにトイレを出ていった。


 まさか!

 久々に……この子、僕に惚れているのかもしれない!

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