2章 44話 奴隷商人の店からの帰り道

奴隷商人の店から外に出ると暗い夜だった空が晴れた青い空に変わっていた。

僕たちは人目を気にしながらロージーさんがいるギルドに向かう。


「あ、そうだ。忘れていました?」


カティアは不思議そうな顔をして立ち止まる。


「なんだよ、またトイレか?」


「にゃにおうっ。この天才僧侶であるわたしがトイレに

 行くわけないじゃないですかっ」


カティアの怒る沸点がよく分からない。


「シー、大声を出さないで、注目されるとまずいから」


「冷静沈着であるこのわたしが申し訳ないです。

 篠染玲音とレオンハルトどっちが正しい名前だったんですか?

 偽名までを使って、ずっとわたしのことを弄んでいたんですか?」


一晩寝たらけろっと忘れていそうなカティアだと思っていたのに。

あのフォルクスとのやり取りをまだ覚えていたなんて?

どうする? 篠染玲音の名前を使うと偽勇者だってバレるかもしれないし、

僕からまたカティアが居なくなるかもしれないから、


「本当の名前は篠染玲音。そう……レオンハルトはコードネーム。

 カティアのコードネームのゴンタレスと一緒だからさ」


「にゃにおうっ。わたしのコードネームのゴンタレスだとぅ。

 ちょっとバカにするなぁーーー」


世界各国のゴンタレスの皆さん本当に申し訳ありませんでした。

偶然ぱっと頭の中に浮かんだ名前だけなんです。


「こっちにはまだヒトがいない。走ってカティア」


「またですか? ちょっと……」


カティアには僕たちが奴隷の印である首輪のことを話した。

特にカティアの首輪の色は赤だ。つまりはまだ元奴隷ではなく奴隷その者。

奴隷商人の言葉で直ぐにでも首が落ちる状態の脱獄者扱いと同じなんだ。

他人から見ればカティアは注目の的であり、

軽蔑されるのも目に見えて分かるから。

僕たちは闇に生きる忍者となりただ主が待つギルドに向かう。


「それでこれからあなたのことを何って呼べば……」


「そのままレオンハルトでお願い、隠れてカティア」


カティアの頭をぎゅって押さえると


「気安く女の子の頭を触るのは止めて下さい」


「ごめん、つい。あのヒト達が見えなくなったらまた走るから」


「もう勘弁して下さいよ、はぁはぁ。

 わたしは肉体派ではなくてでしてね、はぁはぁ……」


「後少しで路地裏に付くからあともう少しだけ頑張って」


「そ、そんな……」


しばらくこんなやり取りを繰り返して、


「もうここなら普通に歩いても大丈夫だろう?」


ようやく僕たちはひとけの少ない暗い路地に

ステルスのごとく移動を成功させる。

前と違って今回はお互いの首に奴隷の首輪がある。

奴隷の首輪を付けている貧しい服の者を襲うと考える強盗は

まずいないだろう。

まぁ、またカティアがアホの真似をしない限りは大丈夫なはずだ。


「はぁ、はぁ……

 それでナンバー32さんとはいつ合流するんですか?」


急に安心したのだろうか?

1番応えにくい質問がどストレートに飛んでいる。

ここはカティアのためにも嘘を付かないと。


「カティアちゃんによろしくなって、元気よく旅だって行ったよ。

 ブリジットさんと再会出来るといいね」


「ナンバー32さんとはまた会えますかね?」


「たぶんカティアが良い子していたらきっとまた会えるんじゃないかな?

 この青い空だけはどこの大陸に行っても繋がっているんだから」


きっと死後の世界にも僕が生まれた地球にも繋がっているんだ。


「わたしが天才美少女僧侶であることをナンバー32さんには

 広めて頂くって使命が残されているんですからね~」


「……あはは、そうだね」


これ以上ナンバー32さんの話をしたらボロが出るかもしれない。

また感情が込み上げて涙が出てくるかもしれないから、早く話題を変えないと。


「あんなに大きな牢屋に入れられて寂しくなかった?」


最初はナンバー32さんのことを先輩風を吹かせて嫌なヤツだと思った。

でも今になって思うと見知らぬ環境での孤独を助けてくれたような気がする。


「妖精さんと一緒に遊んでいたから全然寂しくはなかったですね」


妖精さん? でもまだ僕が知っている妖精さんとは限らない。


「それで妖精さんと何遊んで……」


「でも途中で妖精さんが連れて行かれて心が抉られて

 失禁しそうになりましたが……」


「……失禁?」


今度は別の意味で気になる単語が出てきて、

ついオウム返しして口を開いてしまう。


「わ、わっ……今の言葉は全て忘れて下さい。ぶん殴りますよ~。

 前にも言いましたがこの天才美少女僧侶であるわたしがトイレに

 行くわけないじゃないですかっ」


「それって自由奔放に漏らすって意味だよね?」


「にゃにおうっ。このわたしが小便小僧の末裔と言いたいのですか?」


どの世界でも変わった趣味の思考の芸術家とか存在するんだなって、

ナンバー32さんから話がだんだんと離れてくれるのは嬉しい誤算だ。

だがちょっと斜め上過ぎない? 


「別に思ってない、思ってない。

 そ、それで、その妖精さんはどうなったの?」


「胸くそ悪い話ですがどこかに売られてんだと思います。

 きっとスフレちゃんもナンバー32さんのように

 この青い空を見上げているかもしれませんね」


「……スフレ」


「いったいどうしたんですか?」


「ううぅ、スフレ、スフレ。全て僕が悪いだ」


あ、頭が……頭がまた割れるように痛い。


「急にしゃがみ込んでどうしたんですか?

 わたしに内緒で落ちていた物を食べたりしたんですか?」


「スフレもナンバー32さんも僕に僕にさえ出会わなければ

 みんな、みんな幸せだったはずなのに」


「いったい何を言っているんですか? レオンハルトっ」


やっぱり僕は生きているとみんなを不幸にする偽勇者だったんだ。

死にたい、死にたい。もう息を止めて直ぐにでも楽に解放されたい。

もう誰でもいい、どうかどうか僕を殺して安らかに眠らせて下さい、

お願いします。お願いします。

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