2章 42話 初めての就活

「いくらロージーさんの紹介でも仲間殺しのアリシアの弟。

 しかも元奴隷ときたもんだ。

 こんなリスクの塊を雇うバカをこの世に存在しないんだよ、帰れ、帰れ」


「そこを何とかお願いします。全ての雑用およびトイレのあらゆる所まで

 ピカピカに掃除しますので、どうかもう1度だけ考え直して

 頂けないでしょうか?」


「土下座されてもねぇ? 帰れ、帰れ。このヒト殺しの弟」


はぁ、これでもう最後のレンガ積みの仕事もダメだったか?

ロージーさんに紹介してくれた仕事は仲間殺しのアリシアの弟って

理由だけで全て断られた。元奴隷って伯も多少なりともあると思うけど

辛すぎる現実の壁が目の前に立ち塞がって。

もし僕が女の子だったらこの身を犠牲にしてカティアを助けられるかも

しれないのに。体以外に売れるの? 売れるものは他にないのか?

この首輪どうだろうか? 外に出ても首が落ちなかったってことは

もうトラップは解除されたと思うけど……。


「はぁはぁ、やっぱり固くて全然首から外れない」


小指に見えるのは輝くのは緑の眩い光。


「あったナディの指輪だ。ごめんよ、ナディ」


僕の唯一の心の支えになっていたナディから

大切な贈り物のネックレスの指輪。

きっと心のどこかで売りたくはないって思いがバリアーを張っていたんだ。


「しかし、外れるのかな?」


路地裏で襲われた時も指輪はうんともすんともビクとも動かなかったから。


「あ、外れた」


軽く引っ張るだけで簡単に外れるなんて……。

これを売ってカティアを救えってことなのか?

うんうん、勘違いするなよ、僕はナディの気持ちを踏みにじった偽勇者で

僕は悪いヤツなんだ。悪いヤツいずれ正義の味方に倒される運命なんだ。


「あった、あった間違いないここだ」


1度カティアと入った高級防具屋の隣に並んでいたとても

ゴージャスな壺マークの道具屋。

この店構えなら高く指輪を買い取ってくれるはず。

期待と不安そしてナディの気持ちに負い目を感じながら、お店に入る。

高級防具屋同様に店内はとても綺麗に整頓されていて、

見たことがない草やマジックアイテムがショーケースの中を賑わっていた。


「なにワシの店に勝手に入ってきているじゃ、この奴隷の分際で」


ショーケースの後ろに立っていた店の主人と思われる

リザードマンがつかかってくる。


「この指輪は買い取れますか?

 できれば銅貨39以上で売りたいと思うのですが?」


「まさかご主人の指輪を盗んできたんじゃないだろうな?」


「いいえ、それだけは違います」


「怪しいのぅ、この指輪なら銅貨2枚ぐらいの価値が妥当ですかね?」


あの嫌みある顔は僕の奴隷のリングを見て足下を見ているんじゃないのか?


「それはいくら何でも安すぎるだろって。

 これは妖精が作った珍しい指輪なんだぞ。

 妖精の愛情が込められている大切な指輪なんだぞっ」


「愛情など銅貨1枚もなりませんね。お客様」


「……なら、他の店に当たることにするよ」


こんな気持ちも分からないヤツにナディの指輪を渡したくはない。


「ま、待って下さいお客様。

 ば、いや5倍の銅貨10枚ではどうでしょうか?」


やっぱりだ。こいつは僕を完全に下に見ている。


「それでもやっぱり他の店で売ることにするよ」


もし値を上げるならもっと高くつり上がげてその誠意を僕に見せて見ろよ。

その行為がこの指輪の価値を証明することに繋がるんだ。


「なら、即決で銅貨39枚はどうでしょうか? お客様」


やっぱりこの指輪にきっとそこそこの価値があるんだ。

それだけでも十分な収穫だ。


「こんなちっぽけな店で大事な指輪を売るはずがないだろ、バーカ」


「へぇ? それはどう意味ですか?」


「お前の哀れな顔が僕は見たかっただけなんだ。じゃあまたな」


「く、覚えてけよ、元奴隷の分際で。

 このワシを怒らしたらタダではすまさんぞぉーーーーー!」


ごめん、アリシア姉ちゃん。

またあなたの知名度を落とすような真似をしてしまって。

このナディがくれた指輪さえあればきっとカティアを救うことが出来るんだ。

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