第53話

「そ…そんな馬鹿な…俺達が悪だなんて」


 明かされた真実に大きなショックを受けたのは、自らの神を信じて疑いもしなかった大輔である。

 元から神に対して疑念を抱いていた透や、絶対的な善悪など存在しないと割り切っていた聖などは、それほど大きなショックを感じていなかった。

「そんな…こと……!」

 なかでも特に冴月などは、最も近い神として崇拝していたのが、世界の創造神たる神などではなく、眼前に立つ真竜の王飛竜であったから、欺かれたという衝撃すらなかった。

「本当なのですか…飛竜様…っ」

 ただ、ことが神霊界の滅亡に関することであったから、そちらに対するショックは誰よりも大きかったのだが。

「嘘だろ…羅刹が戦争を起こして、関係のない人界まで襲おうとしたから、俺たちが遣わされてきたんじゃねえのか?悪いのは全部羅刹で、神はそれを罰しようと…」

「しっかりしねえか、大輔。狼狽えやがってみっともねえ」

「聖……だって!?」

「こいつが真実ばかりを話してるとは限らねえだろ」

 はっきりとそうきめつけた聖は、しろがねの切っ先をラーヴァーナに向けた。

鋭い指摘ではあったが、ラーヴァーナは不敵な笑みを浮かべたまま聖を見返している。

「すべて真実さ…わしがこの話を、どこで聞いたと思っている?わしはな、この飛竜が神と対話しておるのを盗み聞きしたのよ。そう、こやつは神の無慈悲な計画を、誰より早く知っていたのさ。嘘だと疑うなら、こやつに聞いてみるが良い」

「嘘!?嘘よ!!飛竜様が、そんな…ご存じだったのですか!?本当に!?」

 狼狽して問い掛ける冴月の声へ、飛竜はさらに昏い微笑で応えた。

顔の表面に張り付いたようなその笑みは、言葉がなくともそれが事実であると物語っていた。

「そ……そんな…ッ」


「さて……話すこともなくなったことだし…後始末は任せるぞ、飛竜。彼奴らの首が跳ね跳び、血飛沫を上げるさまをわしに見せてくれ」

「ええ。仰せのままに」

 壇上の二人が交わした言葉の意味を察して、透を始めとする四人はギョッとして身構える。

「四聖獣よ。今度は真竜の王たる、この私がお相手しよう」

 飛竜の使う一人称が、『僕』から『私』に変わっていた。と、同時に、その表情からも子供らしさが消えうせ、悪魔的な微笑をたたえた大人の顔が浮かび上がる。非人間的さを増した飛竜の姿が、妖気すら感じさせる凄惨な美を、四聖獣たちの目に見せつけていた。

「ちっ…こりゃ、いっちょう、ぶん殴って大人しくさせるっきゃねえか」

「する余裕があれば、な」

 この会話の隙に壇上の飛竜は、音もなく床の上に舞い降りていた。戦闘態勢をとる四人。

けれど飛竜の白く小さな手には、何も握られてはいなかった。それなのに──


「気を付けろ!来るぞ!!」


 透に注意を促されて、聖ら三人の視線が飛竜の動きを捉えた、その直後。

「うわあ!?」

「きゃあ!!」

 身構えていたにも関わらず、気が付くと四人は、全員壁に容赦なく叩きつけられていた。背中を激しくぶつけたおかげで、一瞬、息が止まってしまう。全身を走る鈍痛に、端正な顔を歪めながら、それでも透は、静かに佇む飛竜を凝視した。

「な…なんだ!?」

 あまりに突然すぎて、何が起こったのか理解できない。聖は飛ばされる刹那に、飛竜が片手を振ったところを目にしたが、神霊力を行使したようには見えなかったのだ。神霊力を行使したとわかる特殊な光も、力の波動も、何も感じなかったがゆえに。

「いったい何が……これが飛竜の力なのか?」

 戸惑いを隠せない四人の前で、再び飛竜の手が揺らめいた。今度はその手の中に、目も眩まんばかりの光球が生まれ、凄まじい無音の圧力が四聖獣に襲い掛かった。

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