後編 俺はもう、独りだとは思わない その4
――かくしてノヴァルダーXと、紅翔矢をはじめとするそのパイロット達の活躍により。「内側からの大爆発」により崩壊したビーストガーデンは、母獣とその子供達共々、地球にその影を見せることすらなく砕け散ったのだった。
四方に散った小惑星の破片は地球に向かうことなく、星の大海の彼方へと飛び去った。地球はビーストガーデンの脅威だけでなく、その余波からも救われたのである。
だがこの戦いが、その星に住まう人々に知られることはない。翔矢達の死闘は防衛軍の記録にも残らず、「無かったこと」として処理される。
それでもノヴァルダーXのパイロット達は、達成感と安堵感に満ちた笑みで、地球へと帰還したのである。彼らは初めから、名声も歓声も求めてはいないのだから。
その後、特務少尉としての任を解かれた翔矢は再び民間人に戻ることになり、クリスマスライブを目前に控えていた歌姫達の元へと帰って行った。
無事に帰還し、何事もなかったかのように振る舞う自分達のマネージャー。そんな彼の姿に涙ぐむ華鈴は感極まる余り我を忘れ、メンバー達の前で彼に思い切り抱きついてしまったらしい。そんな彼女の大胆過ぎる
「あぁーっ! か、華鈴先輩が翔兄にぎゅってしてるぅー! 歌音だってぎゅーまではしたことないのにっ! いーけないんだー、いけないんだー! 社長に言ってやろーっ!」
――などと騒ぎ出したばかりに。その数秒後、恥じらいと怒りで耳まで紅潮した華鈴からの
一方。爆人をはじめとする他のパイロット達については、これまでの功績を改めて再評価するものとして、大尉への特進と勲章の授与を検討されたのだが。彼らは全員、これを固辞してしまった。
これまでの下士官生活が板についてしまったし、今さらエリートコースに戻る気にはならない。彼らは口々にそう言うが、舞島大佐にはその真意が分かっていた。
いつの日か、再びノヴァルダーXの力が必要になった時。何のしがらみもなく、すぐに翔矢と共に飛び立てるように。彼らはあくまでただの下士官として、軍に残る道を選んだのである。
『待たせたね、皆っ! 約束通り、最高のプレゼントを……私達の全力を届けてあげるっ! メリー・クリスマースっ!』
――そして。ビーストガーデンの攻撃により殉職した宇宙艦隊の兵士達を悼む慰霊碑が建てられた、この年の12月25日。
東京ドームを再び満員にして見せたULT78のクリスマスライブは、天城杏奈の時代に迫る勢いの盛り上がりを見せていた。東京の聖夜に更なる煌めきを添える、絢爛なイルミネーションに囲まれた歌姫達のパフォーマンスに、ファン達は最高潮に沸き立っている。
その光景を最も高い位置から見渡せる場所には、黒基調のフライトジャケットを羽織った4人の若者達がいた。
「歌音ちゃん、ちっちゃくてかわいいよお~っ! お姉さんになってあげたい! ぎゅっとしたい! 抱っこしたぁ~いっ!」
「真莉愛、お前そんなこと言うとったら翔矢の奴に出禁にされるで……?」
「なんだよ! ファンとしての素直なエールなんだからいいだろ! あいつあの子のマネかよ!」
「いやマネやろ!」
歌音の大ファンになってからは、それまでの凛々しさが崩壊するほどの歓声を上げている黒須真莉愛。そんな彼女の暴走を傍らで静止している赤城爆人。
「しっかしトップアイドルなだけあって、ULT78のパフォーマンスはいつ見ても壮観だぜぇ。これからも俺達が頑張って、あの子達の未来を守っていかねぇとなぁ!」
「そうね、ああいう子達は私達がしっかりと守ってあげなきゃならないわ。……特に、紅翔矢っていう
「……さ、さすが
朗らかな笑顔でライブの様子を見守っている金堀削太郎。歌姫達には優しげな眼差しを向けている一方、かつての恋人を見遣る瞳だけは全く笑っていないジェニー・ライアン。
彼ら4人は自分達の手で守り抜いた「希望」の歌に微笑を浮かべ、思い思いに掴み取った平和を謳歌している。
「……全部、皆のおかげだ。俺はもう、独りだとは思わないよ」
そして。自分という人間を取り巻く全ての仲間達の存在感を、改めて噛み締めていたスーツ姿の青年――紅翔矢も。
共に「業」を背負い、生存を賭けた戦いに生き残った者として、クリスマスライブを見届けている戦友達と共に。歌姫達の輝きを、優しげに見守るのだった。
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