010 ソフィ姫

「シンデレラ……それが、君の……名前……?」


僕はシンデレラと名乗る少女を抱きかかえながら、目を見て言った。


「ここは……?」


「君、覚えてないの?」


シンデレラはガランさんや村人を見渡しながら、自分がなぜここにいるのか分からず困惑しているようだった。


「分からない……私、なんでここにいるのか……でも…」


「でも?」


グッと体重を僕の身体に乗せて前のめりになってシンデレラは言った。


「あなたが私の使い手だっていうのは…わかる」


「……え、つ、使い手…!?」


突然何を言われたのかと驚くが、目をキラキラさせて僕を見つめるその姿が、なぜか本当にそうなのではと謎の説得力を持たせる。

しかし、使い手とは、どういう事なのだろうか…。


「あなたの名前を教えて?」


「……えーーっと、僕の名前は…ウィリアム・ベン。ウィルでいいよ」


「……ウィル……ウィル!!」


そういいながら元気に返事する少女はとても美しく、そして愛らしいと思えた。






シンデレラに自己紹介した後、僕らは、依頼を受けた村からギルドに向かい帰っていた。

一先ず村人の人たちは近くにある隣村に移住することになった。そこで、今ある村の復興をしていくんだそう。


僕とシンデレラ、ガランさんとパーティーメンバーの6人で森を歩いていた。


「その子、ついて来てるけど…どうするんだウィル?」


「え?」


森を歩く僕の服をずっと握っている青髪の少女、シンデレラを見てガランさんが言う。

その言葉を聞いて、シンデレラを見つめる。


「うーん、とりあえずギルドに戻ってから考えようかなって思ってます」


「ふむ…そうか……」


腕を組みながらガランさんは何か考えている様子。


「シンデレラは自分の家や、どこから来たのかはまだ思い出せない?」


僕はシンデレラにそう聞く。

シンデレラは何も言わず、首を横に振る。


あの後、シンデレラが目覚めて色々聞いたが何も覚えていないことが分かった。

自分がどこから来たのか。あの龍との関係や昔の記憶全て。


自分が龍だったという事すらわかっていなかった。

唯一わかるのは自分の名前だけ。


目を覚ました後、ずっと僕から離れないのは少し困ったが、

一応コミュニケーションや会話は出来るようで安心した。


すると、シンデレラが足を止める。

それに付随して僕らも歩みを止めた。


「どうした?シンデレラ?」


「ウィル…私、お腹すいた。何か食べたい!」


自分のスカートを握りながらそう言った。


「もう少しで街のギルドに付くから、付いたら俺たちがウィルとシンデレラにごちそうをプレゼントしてやる!」


ガランさんが言う。


「え、いいんですか?僕も?」


「当たり前だ!お前が居なければ俺たちは死んでいたかもしれない。ごちそうさせてくれ!」


バシバシとガランさんに背中を叩かれる。

全部が豪快な人なんだなと思いながら、シンデレラにもう少し我慢してくれという。


「わかった…ウィルが言うなら…」


シンデレラは残念そうな顔を浮かべる。

僕は彼女の手を引いてギルドに向かって歩き出した。






街についた僕らはそのままギルドの隣にある飲食店に入った。


「うわーー!すごい!!良い匂い!!ウィル!あれはなに?」


シンデレラがお店の中の料理を見ながら興奮していた。


「あれはポタージュっていう、野菜を煮たスープだよ」


「へぇ~!おいしそう!!ねー!私あれ食べたい!」


シンデレラは他のお客が食べているポタージュを指さして僕に言う。


「ああ、そうしよう。他にも肉や魚料理とか、色々メニューあるから見てみようか」


「わーーい!!やったぁー!!ウィル早く早くーー!!」


「お、おい!」


シンデレラは腕を引っ張って席に向かう。

こうして、ガランさんたちと僕らは席について食事を頼んだ。


シンデレラは何が好きかは分からないようだったので、色々頼んでみんなで少しずつシェアして食べようということになった。


「んーーーーほいしぃーーー!!!」


肉料理を食べたシンデレラがほっぺたを膨らませながら言う。

その食べっぷりは見事な物だった。


「ハハハハハ!良い食べっぷりだな!シンデレラ!どんどん食べていいぞーー!」


「すいません、こんなごちそうになって」


「いいってことよ!借りは返したいしな!」


ガランさんがハニカミながら僕に言う。

良い人に巡り合えたなと思った。


「それで、これからどうするんだ?彼女と一緒に行動するのか?」


「うーん、街に付けばいろいろ思い出すかもって思ったんですが、本人にそんな素振りは見えないし」


シンデレラの様子は、目覚めたあの時と特に変わらない。僕から離れる気も無いみたいだった。


「ウィルはこれからどうするつもりだったんだ?もうお前はD級をはるかに超えた力を持っている、なんだって出来るだろう」


「僕はゆっくり田舎暮らしでもしようかなって思っていて、それでお金を稼ごうとしていたんですよ」


「田舎暮らしか!いいな!お前ならすぐに稼げそうだ!なら、彼女も連れていくのか?」


幸せそうに食事をするシンデレラを見ながら僕は考える。

ここで、病院などにシンデレラを託して、さようならは僕の気持ち的にも悪い。


やはり、記憶を思い出すまで一緒にいてあげるべきか…。


シンデレラと目が合う。

ニッコリと無邪気で無垢な笑顔が眩しい。


僕も笑顔を作ってシンデレラに微笑む。

そうすると嬉しそうにまた、食事を続けた。


「今日一晩考えようと思います」


「うむ、そうだな。今日は色々ありすぎた。ゆっくり休んでからでも遅くは無いな!よい!お前も沢山食えよ!ハハハハハ」


ガランさんもビールを片手にパーティーメンバーと笑顔で食事を続けた。





食事がひと段落して、店から出てガランさんのパーティーメンバーの人たちとはその場で別れた。僕とシンデレラはどこか宿を取るためにガランさんに話を聞いていたその瞬間、1人の女性が僕らに話しかけてきた。

金髪碧眼の端整な顔立ちをした女性。僕より少し年上の銀の鎧を着た人物。


「君に折り入ってお願いしたいことがあります!!」


その女性は僕をまっすぐ見つめて言った。


「え、ぼ、僕?」


僕はキョトンとした表情で返事してしまった。

いきなり美少女にお願いがるとは言われたことが無かったからだ。


「あなたの戦いぶりを拝見させて頂きました……その実力を見込んでお願いがあります!」


美少女は僕の目の前まで来て顔を近づける。


「ちょっとまて、君。見ていたって、今日の俺たちの依頼をか?」


ガランさんが僕と美少女の間に入って聞く。


「はい、たまたま狼煙がある村を発見しまして、近くまでいくとこの少年が巨大な白い龍と戦っているのを目撃しました。あなたなら、出来ると思うのです!」


「…出来るってなにが?」


僕はガランさんの後ろから顔を出して聞く。


「私の国に甚大な被害をもたらした、雷の龍を倒すことが!」


その大きく綺麗な目から物凄い熱意が伝わって来た。

何だろうこの人…。

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