第2話:面接

 ――応接室と呼ぶには(中略)な第七応接室。


 以前、二人の登録にも使った部屋で俺たちはパーティへの参加志願者に対する面接を行っていた。


「あー……はい、じゃあ合格の場合は追って連絡するから……」


 エイルが対面に座っている俺と同年代の男へと向かって言う。


 しかし、その顔には朝食の場では漲っていた活力が微塵も残っていない。


「はい! 失礼しましたぁッ!」


 立ち上がり、大きく一礼して志願者の男が退出する。


 見本通りの面接仕草だが……


「……全ッ然まともな人材が来ないじゃないの!!」


 彼が居なくなってから数秒後、前回は事務主任が座っていた席でエイルが叫んだ。


「どういうこと!? なんであんな奴らばっかりなの!?」

「そりゃお前、銀F級二人に銅F級一人のパーティだぞ? そんな大層な人材が来るわけねーだろ……」

「だからってこんな使えないのばかり来るなんで思わないでしょ! さっきの奴なんて、まさかの冒険者未登録よ!? なんでそんなのが来るのよ!」


 ギャオオンと巨獣のように喚き続けるエイル。


「まあさっきの奴は確かにひどかったけどな」


 等級を尋ねて、『まだ未登録です!』と言われた時は張り倒してやろうかと思った。


「さっきの奴だけじゃないわよ! それまでも全員、全くの問題外よ!!」


 怒りが収まらないのかまだ喚く。


 下位冒険者の現実を知っている俺からすればこんなもんだと思うが、悪運だけとはいえここまで順風満帆にやってきたこいつには耐えられないのかもしれない。


「三人目のおっさんなんかそこそこ良かっただろ? 銅C級で、如何にも盾役って感じの真面目そうな性格が」

「確かに人となりはまだまともだったけど、普段は道具屋やってて活動日数が週一~二日って主婦のパートじゃないんだから!」

「じゃあ、五人目の魔法使いは?」

「あれは目標が銀級冒険者なんてもっとダメよ! 実績はともかく、志が低いのは問題外! 最低でも目標は白金級って堂々と言えないと!」

「そんな大志を抱く立派な連中は大抵第一に行ってるっての」


 各地区の特色的に冒険者として優秀な人材は基本的に第一地区に集っている。


 正義と義務を掲げる誇り高き栄光の第一地区。


 俺からすれば息苦しい良い子ちゃん集団だが、周囲からはそう評されている。


 優秀な人材が集まって評判が良くなれば更に集まるという正のループによって、あらゆる冒険者の序列で第一地区が上位を独占しているのが現状だ。


 逆に我が第四地区の特色は奔放。


 良く言えば独特な人材の集まる場所だが、悪く言えば碌でなしの掃き溜めだ。


 深淵や楽園みたいな地域も、この適当な地区だからこそ存在が許されている。


 そんな場所で俺たち程度のパーティが募集をかけても集まるのはご覧の有様だ。


「うぅ……それにしても、もう少しくらいはまともな人材が集まるかと思ってたのにぃ……」

「んー……私はさっきの人もすごく元気いっぱいな人で良かったと思うけどなぁ……」


 落胆しているエイルを挟んで反対側に座っているノアが無邪気に言う。


 こいつはこいつで判断基準が緩すぎる。


「まだ何人か残ってるし、もしかしたらすごい逸材が来るかもしれないだろ」

「ここまでの惨状を見るに、スライムの粘膜より期待薄だけどね……」


 俺の慰めに、エイルは諦念混じりのため息を吐き出す。


 そうして、そこから――


「私が貴パーティにジョインした暁にはアジェンダをゼロベースでコミットします!」

「……そう、お疲れ様」


 俺たちは志願者への面接を重ねるも――


「ギター&ベース&ドラム募集! 当方ボーカル!」

「帰れ」


 エイルが満足するような人材は現れず――


「はぁ……の、ノアちゃんと……はぁ……お近づきになれるかなって……コポォ……」

「死んで」


 あっという間に最後の一人を残すのみとなってしまった。


「うぅ……もう一人しか残ってないじゃない……まさか、こんなことになるなんてぇ……。なんだかんだありつつも一人くらいはすごいのが来ると思ったのにぃ……」


 自分が思い描いていた理想とはかけ離れた現実に、エイルは机の上に身を放り出して落胆している。


 その手元には不採用者へと送付する『残念ながら今回は採用を見送らせていただくことになりました。他のパーティでのより一層のご活躍をお祈り申し上げます』と記された書簡が散らばっている。


「これまでが上手く行き過ぎたんだよ。フレイヤみたいな大物がそうそう仲間になるわけないだろ」

「フレイヤ……そうだ、今からでも約束を変えて同行させようかしら……彼女なら実力も見栄えも十分だし……」

「一人で行動するのがポリシーみたいだし無理だろ」


 それに色々と疲れそうだから彼女とはあまり一緒に行動したくない。


 しかし、まさかここまで完璧な全滅とは。


 一人か二人くらいはまともなのがいて、こいつの世話を押し付けるはずだったのに。


 当てが外れてしまったなと考えていると、最後の一人によって入り口の扉がノックされた。


「すいませーん……入ってもいいですか……?」

「勝手に入りなさいよ。はぁ……今度は何? またノア目的? ルゼルが目的だったら一晩くらい貸したげるわよ……」


 もう投げやりも投げやりなエイルの言葉よりも、今聞こえた声の方が気になった。


 扉越しで分かりづらかったが、どこか久しぶりに聞く響きが……。


 キィと軋む音を立てながら古ぼけた扉が開かれていく。


 向こう側から現れたのは、長身痩躯で黒尽くめの男。


 それはこの半年間、何の連絡もなく行方不明になっていた友人の姿だった。

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