第3話 「無断侵入」

その日のうちに家を出たクルチア。 列車を乗り継ぎ、ひなびたローカル線に揺られること3時間。 アミハマ駅に到着したときには、もう夕刻だった。


老人ばかりが目につく駅の構内を出て、クルチアは若者の家を目指し田舎道を歩き出す。


田舎の道は意外に入り組んでいたが、神さまの指示が的確だったのでクルチアは迷うこともなく30分ほど歩いて若者の家にたどりついた。 表札には「ユキノシタ」と書かれている。


年代物の民家を前にクルチアは考える。


「神さまが言ってた通りの場所に家が」 ゴクリ 「つまり、この家の中で飢え死にしかけのイケメンが私のコロリを待っているのね」


神によると若者は一人暮らし。 それでも、見ず知らずの民家を訪問するのはハードルが高い。


クルチアは緊張しつつ玄関のドアに歩み寄った。


         ◇❖◇❖◇❖◇


ドアをノックしようとしてクルチアは気付いた。


「そうそう、コロリに私の匂いをつけておかなくちゃ」


クルチアはハンドバッグに手を突っ込み、コロリを1つ取り出す。 例の臭いに身構えつつ真空パックを開封。


「う、やっぱりひどい臭い」 これは食べ物なのかな?


左手の上に絞り出したコロリは、焼く前のクッキーの生地のような感触。 ひんやりとしたそれをクルチアはぎゅっと握りしめる。


「いーち、に~い、さーん...」


20まで数えて、クルチアはコロリを握る左手の力を緩めた。


「よし、これで私の匂いが付いたはず」


クルチアはコロリを左手に持ち、右手で玄関の引き戸をノック。 コンコン。


だがしばらく待っても返事はなく、屋内に人の気配もない。


再びノックをするクルチア。 今度は声も掛けてみる。


「すいませーん、誰かいませんか?」


だが反応がない。 困ったクルチアは引き戸に手をかけて少し引いてみた。 するとドアが開くではないか。 カラリと小さな音を立てて。 鍵がかかっていなかったのだ。


         ◇❖◇❖◇❖◇


餓死しかけの若者が声を出せないほど弱ってるんだ。 そういうことにしておいて、クルチアは大胆にも屋内に侵入。 玄関で靴を脱ぎ屋内の捜索を開始した。


家の中は田舎らしく素朴で広々とした造りである。 だが、あちこちに物が散らかっていて、掃除も行き届いていない様子。 廃屋の一歩手前といった様相だ。


クルチアはコロリを左手に握ったまま、靴下が汚れるのを気にしつつ屋内の部屋を1つずつ調べてゆく。


「どこにいるのかしら? 餓死しかけなら、どこかに横たわってるのかな」


3つ目に入った部屋で、クルチアは掛け布団がこんもり盛り上がった布団を発見した。 布団の上端から黒い頭髪が覗いている。


(あれがイケメンの若者?)


クルチアが部屋に足を踏み入れたとき、掛け布団がのっそりと動き、寝ていた人が起き上がった。

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