第201話 役割のない者
「ちょっと、いいかな?」
「あ、はい」
集まってきたプライバーたちとゲットしたカードを見ながらやいのやいのしているところに、俺は"死者"であるという少年三人組のひとりを呼び出した。
幸いにも他二人はカードに夢中で、目的の少年だけを少し離れたところに呼び出すことができたのだった。
「あの…どうかしましたか?」
ゲーセンの道路に面していない入り口の自動ドアをくぐり、建物のエレベーターホールのある部分まで連れ出す。
上の階は飲み屋のテナントが入っているので、この時間はまだ利用客もおらずエレベーターホールは静まり返っていた。
「悪いね。実はちょっと、話があってさ」
「話…ですか?」
少年は自分ひとりが呼び出されたこと、人気のないところに呼び出されたことに警戒している様子だ。当然か。
それでも応じてくれたのは、先程までのゲームで多少信用してくれたからだろう。
あまり時間も無いし、俺は思い切って話を切り出してみた。
「君は…最近ニュースでやってる、蘇ったっていう人じゃないか?」
「っ…」
驚いた様子の少年。
無理もないか。いきなりそんなことを言ってくる人間が急に現れたんだからな。
先程よりも明らかに警戒している様子だ。
「よく…分かりましたね……」
「そんなに警戒しなくても大丈夫。実は俺は、君を蘇らせたネクロマンサーと、ちょっとした知り合いなんだ」
嘘は言っていない。
縁は縁でもお互い悪縁だけど。
「そうでしたか…」
「ああ。実はそのネクロマンサーと会いたいんだけど連絡が取れなくてさ…。蘇らせて貰った君なら、その時どこに居たのか分かるかなって思って声をかけたんだよ」
「…なるほど。でも、すみません。ボクも場所までは…暗い建物でネクロマンサーの代理という人と話してからは、テレポートで家まで送ってもらったので。あ、代理の人もライオンのかぶり物をしてて、顔は分かりませんでした」
やはりそのへんは徹底してるよな。
恐らくどの死者に聞いても答えは同じだろう。
得られたのは、朽名が説明役をしていたという点のみだ。
「そっか。ちなみに、君のことは聞いてもいいかな?」
「ボクですか?いいですケド…」
そうして彼は、自分の事を話してくれた。
彼の名前は【
三年前・中学2年の時に、家族旅行で長野に行くため車で高速道路を走行中、煽り運転にあい中央分離帯に衝突。
その後、後続車両に追突され、運悪く彼だけが亡くなってしまったそうだ。
一緒にいる彼らは親友であり、同じ学校に通う同級生"だった"者たち。
過去形なのは、生きている彼らは年齢を重ね順当に進学し、今は高校2年だからだ。
三人の中で本多くんだけ幼く見えた理由は、彼だけが中学2年で時が止まったままだからだった。
それと驚いたのは、本多くんには尾張から"役割が与えられていない"という点だ。
戦闘でも諜報でも広報でもなく、ただ蘇らされ、家に帰されただけだという。
何か意図があるとは思うが、ここでは分からないな。
考えても分からないことは、今は置いておこう。
「雑誌企画だったプライムライブが、目が覚めたらアニメ化してて驚きましたよ」
「そりゃあ驚くよな…」
「しかも、さっきチケット当てたって言ってたヤツが居たじゃないですか」
「ああ、うん」
「アイツが、元々はもうひとりと行く予定だったライブにボクを連れて行ってくれるって言うんですよ。『復活記念だ』って…もうひとりのヤツも、それでいいって言ってくれて」
人気アニメのライブといえば倍率も凄いだろうに。
仲が良いんだな。
「……じゃあ本多くんは、蘇って良かった?」
「そう…ですね。昼間は当たり前ですが学校には行けませんけど、放課後はこうして二人が遊びに連れて行ってくれるので、嬉しいですよ」
「……」
何か思うような表情で、ハッキリ嬉しいと語る本多くん。
「ありがとな。時間取らせちゃって悪かった」
「いえ。あ、連絡先交換しません?ボクもネクロマンサーさんにお礼を言いたいので、見つかったら連絡くださいよ」
「おう。いいぜ」
俺たちはメッセージアプリの連絡先を交換した。
「くれぐれもこの事は、他の人には内緒な」
「勿論ですよ。言えませんしね、状況的には、まだ」
「だな…」
俺の聞きたかった事はもうないので、ゲーセン内に戻ろうとしたところ―――
「あ、こんなところに居た」
「なにしてんすか?」
本多くんの親友二人がエレベーターホールまでやってきた。
「…ああ、彼にプライムライブの事を詳しく教えてもらってたんだよ。それで、色々とこれからも聞こうと思って。な?」
「う、うん」
「えーズリィ。俺らとも交換してくださいよー」
「勿論いいぜ。二人も色々と教えてくれよな」
「はい!あと、お兄さんにもう1セットカード取って欲しいです」
「………ちょっと休ませてくれ」
「「ははははは」」
こうして俺たち四人は連絡先を交換した。
本多くんだけでなく、最初に話しかけてきた【
しかし―――
(理由、聞かなきゃよかったですね)
(…だな)
分かっていたことだが、蘇った者には"辛い最期"がついて回る。
それを聞いて尚、尾張の企みを阻止しなければならない。
"死者を探して消す"
シンプルな目標だが、事はそう単純ではない。
尾張が蘇らせた死者を再び殺すには、まず自分の心を完全に殺さなければな…
…やるしかない、な。
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